2012年08月01日大日乃光2017号 「喪の作業」グリーフケヤー
『悲嘆の癒し 悲しみを乗り越える成仏供養』
揺らぐ光の帯と魂
4月の暖かいある晴れた日、私は大分県中津市の「風の丘葬斎場」を訪れていました。この葬斎場はハーバード大学や東京大学で教鞭をとられ、幕張メッセなど数多くのビルや都市計画をデザインされた、日本を代表する建築家の槇文彦先生が設計されたものです。この風の丘葬斎場は、今でも年間約千名もの建築関係者が見学に訪れると聞きました。
朝早かったこともあり、係りの方がわざわざメインホールを開けて下さいました。このメイン斎場は、ピサの斜塔のように斜めに傾いた概観で、薄茶色のレンガで外壁はできています。南側には、小さな池が隣接してありました。
薄暗いホールに入ると、池の水面で反射した光線の帯が、下の窓から正面の壁にゆらゆらと斜めに立ち上って揺らいでいました。あたかもそれは、まるで、亡くなった魂のそよぎのように、私には感じられました。
目を上に転じると、壁はゆるやかにカーブを描きながら、逆じょうご型に段々せばまっていき、丸い天窓が四つあり、魂がそこから天に昇っていくかのようです。斎場の中は、落ち着きながらも静かな明るさに満ちていました。
壁の揺らぐ光の帯は、時間によって少しずつ移動していきます。お別れの式の間、きっと多くの人々は個人の魂を感じ、対話したかのような時間をもたれるのではないでしょうか。非常に巧みな光と空間がそこにはありました。
今まで、素晴らしい建築物は数多く見てきましたけれども、感動する建物に出会ったのは初めての経験でした。建物でこれほど魂を揺さぶられるとは思ってもいませんでした。今でも、目を閉じるとありありとその時の光景と、その時の感動がよみがえります。
斎場の建物の外は、なだらかな丘が広がる殆ど草だけのゆったりした広い庭園で、散策できるようになっています。その一角に、「風の丘古墳群」があり、その周りも散歩できます。火葬している間、人々は部屋の中で待つことも出来ますし、ゆっくりと庭園を散策することも出来るのです。
風の丘古墳を見た方は、ここが古代の昔から鎮魂と埋葬の場であったことを知り、悲しいのは我々だけではなく、死は大昔から連綿と繰り返してきた人間の営みだとわかり、魂の永遠を感じ癒されるのです。
悲嘆の癒し・グリーフケヤー
この頃よくグリーフケヤーという言葉が使われるようになりました。これは、近親者が亡くなられた後の、遺族や親しい人々の悲しみを癒すことです。
私の父や叔父でも、妻を亡くした後、夜大声で「母さーん」と呼んだり、三年たっても東京から突然電話があって、寂しさを紛らわすための長話をしたりということがありました。
それほど近親者の死が与えるダメージは大きく、早くて一年から三年の月日が一応の回復にはかかるようです。特に直後一年間は何をやっても駄目だという方もおられました。(続く)
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