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大日乃光






大日乃光

2013年02月21日大日乃光2035号
『桜ヶ池女池の改修に思う 伝承される匠の技と信仰』

二月八日、「玉名盆梅展」開幕

去る二月八日、第十一回目の「玉名盆梅展」のオープニングセレモニーが当山の奥之院で開催され、私が導師を務めました。

〝オープニングセレモニー〟などと本誌ではあまり使わない横文字が並びましたが、この盆梅展、今年は二月八日から三月三日まで開催されます。同時にこの間の土・日曜日には、同じく奥之院の五重御堂一層本堂の内陣で、「大茶盛」も開筵されます。

寺が観光に協力?

この催しは十一年前に、玉名市内にある玉名温泉が、冬の寒い時期に「玉名温泉あったか物語」と題してキャンペーンを行なった事がきっかけです。その十一年前から玉名観光協会の主催で、当山も特別協賛として毎年この時期に盆梅展を行なって参りました。言ってみれば玉名の観光に当山が協力して、奥之院の境内で盆梅展を継続的に開催している訳です。

こんな事を申しますと、「信仰の寺であるはずの蓮華院が、なぜ観光に協力するのですか?」と言われそうです。そこで昭和五十一年当時、まだ開山大僧正様がお元気な頃に、度々作業用トラックの助手席に大僧正様をお乗せして奥之院の作業をしていた頃の、昔の話を少ししてみましょう。

時代を先取りされた開山大僧正様のご賢察

大梵鐘「飛龍の鐘」が玉名市内に仮安置してあった頃の事でした。開山大僧正様の最後の弟子で、『大日乃光』の二代前の編集長であった故西田快玄さんと一緒に、大梵鐘を奥之院の現場に運ぶために市役所と折衝していた時のことでした。

開山大僧正様が、「奥之院のオープンは来年か、さ来年かどっちになるかなー」と突然言われたのです。八十歳を超えた老僧が寺の落成に〝オープン〟という言葉を使われた事に驚いたので、印象深く覚えているのです。

その頃私が、「奥之院はどんなお寺にすべきだとお考えでしょうか?」と質問しますと、
「こんな事を言っては何だが、信仰半分、観光半分といった寺になるだろうなあー!」 と言われたのでした。

続けて、「千二百年前に弘法大師様が高野山を開創された時代と違って、今は情報が伝わ
るのも早く、人が移動するのも早い時代だから、日本一の大梵鐘を造ったらそれを見に来る人もいるだろう。だから本院のように信仰でお参りする人だけではないだろう」と、明快なお答えでした。

随所に趣向が凝らされた大庭園

その後、昭和五十二年十一月、大梵鐘の「撞き初め式」が執り行なわれました。そしてその年の十二月二十日、開山大僧正様のご入定以来、先代の真如大僧正様に貫主が引き継がれ、それからわずか十一ヶ月後の五十三年十一月、五重御堂の竣工を機に奥之院は落慶します。

その年の六月十三日から造園の第一期工事が始まりました。土塀の石垣として約二百メートルの穴太積の石垣、総延長約二百十七メートルの石畳参道、仁王門両脇の約百メートルの水路と石垣、五重御堂の約三十メートル四方の基壇、大佛様への百二十四段の石段、約三千七百平方メートルの桜ケ池男池の完成(高低差六メートルの大瀧と、約千百平方メートルの柴燈大護摩道場などを含む)と、すさまじい勢いで環境整備が進められて行ったのです。

これはその当時、真如大僧正様による「後世に残るような造園で奥之院を整備したい」との発願によって行われた、造園工事の第一期工事だったのです。

その後八年間に亘る造園工事の中で、約三千本の植樹がなされ、男池と女池を繋ぐ約九十メートルの流れ、開山堂周辺の森の造園、そこから女池へと繋ぐ二本の散策道としての石段などなど、奥之院に大梵鐘を見に来られた方も、盆梅展を見に来られた方も、広い境内を気ままに散策して頂ければ随所に現れる四季折々の景観の中で、存分に心を遊ばせる事の出来る空間になっているのです。

桜ヶ池女池の隠れた役割

奥之院の建立に伴う大造成の中で、県の指導によって約二千平方メートルの調整池が造られました。この池はその後、造園の修景の技が加えられていましたが、いかんせん最初の目的である水量調節のために造られていた上、とりあえずの修景であった事でもあり、女池は水漏れが激しく、いつも充分には水が貯まらない状態でした。

それでも二十年前と十年前には五重塔用材と、南大門用材をこの池に三年間ずつ漬ける〝水乾燥〟に大いに役立ちました。

先日、この桜ヶ池女池を、昔と同じく京都の植芳造園の匠の技によって改修して頂きました。まだ水が満杯になってはいませんが、満々と水を湛えた時の情景を思い浮かべると、さぞや心なごむ景色になる事でしょう。

この工事のために、京都植芳造園の井上剛宏社長には久々に奥之院の現場に足を運んで頂き、作業の合間に何度か話をしていて感じた事があります。それは、奥之院造園の発願主であった真如大僧正様のご意志をよくぞここまで表現して頂けたという事でした。

施主の意向を作品に体現される超一流の匠達

一流の匠、本物の技術者というものは、佛師、社寺建築家、造園家等の分野の違いを超えて、自己の技能に自信があるだけに、自己主張も明確で妥協を許さない頑固な人という印象を世間から持たれていると思います。しかし一流の域に達した人は、より高い価値ある仕事を目指しておられるだけに、逆にモノづくりに当たっては、とても謙虚な方が多いように感じています。

佛師さんは自分の我欲を削ぎ落としながら佛様をお迎えするのが「本来の造佛」との信念を持っておられますし、匠社寺建築社の大浦さんは、相手の地位や肩書きで自分の態度を変えることのない、伸びやかで自由闊達なお人柄です。

そして「現代の小堀遠州」と評されている日本屈指の造園家である井上剛宏さんは、様々な伝統的な技法を駆使し、自らの素晴らしい信仰にも似た感性を発揮して、自然との調和のとれた「景」を造っておられます。

二十代で「雑木の庭」で造園界に鮮烈にデビューされて以来、三十代で奥之院の作庭に八年間も心血を注いで頂きました。四十代で平安遷都千二百年記念の梅小路公園の庭、そして五十代で桜の神様と称えられている佐野籐右衛門さんを支える副棟梁として、京都迎賓館の作庭では実質的な陣頭指揮を果たされました。

桜ヶ池女池を舞台に親子二代で技の伝承

この井上さんには一昨年の南大門からの参道の修景を手掛けて頂き、三十年振りに奥之院の桜ヶ池女池の改修工事をして頂いたのです。この女池改修工事には、ご子息の井上勝治専務にも半分程関わって頂きましたので、親子二代による合作となりました。

仕事を通じて親から子へと、その伝統の匠の技と精神を伝承して行かれる仕事振りを拝見させて頂いて、大変嬉しく、そしてしみじみと有り難い事だと感じております。

私達も子や孫にしっかりと信仰と、そのための日々の修行生活のあり方を引き継ぐ事の大切さを改めて感じさせられた、池の改修工事でした。合掌




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