2013年06月11日大日乃光第2045号
真言密教の象徴を八百五十年大遠忌に顕現
真言密教の象徴を八百五十年大遠忌に顕現
全国の信者の皆様の中には、すでに間近に迫った六月大祭にお参りする準備に入っておられる方が多いかと存じます。
昨年は、本堂に新たに御鎮座頂いた皇円大菩薩様の御尊像に巡り合うことを楽しみにお参りされた方も多かった事でしょう。
一昨年、大四天王像を謹刻して頂いたばかりの今村九十九大佛師に、引き続いて御本尊様も謹刻して頂きました。来たる大祭は、新御本尊開眼から、ちょうど一年になるわけです。
円熟期の今村大佛師に託す皇円大菩薩様の新たな使命
そんな中、昨年の八千枚護摩行の中で皇円大菩薩様からの御霊示として、新たな使命が下されました。それは『〝五智如来〟を顕現すべし』というものでした。
少し専門的な話になりますが、〝五智如来〟とは、金剛界曼荼羅の中心を成す「大日如来」「阿如来」「宝生如来」「無量寿如来」「不空成就如来」の五大如来のことです。
思えば今村大佛師には、五十代後半の体力と気力、加えて技量が共に最も充実しておられた年代に、四天王像を謹刻して頂いたのでした。
その後、この大四天王像の製作工程の記録を後世に伝えるために、昨年『四天王顕現』という写真集が出版され、今や今村大佛師の力量が広く世間に知れ渡っています。
この時期を逸すれば多くの注文が寄せられて、新たな佛像製作を依頼することがなかなか出来なくなるかもしれません。皇円大菩薩様からの御霊示は、まさに時宜を得た絶妙のタイミングだったと実感しています。
そんな中、去る五月二十五日、私は五智如来の一体目である阿しゅく如来に胎内墨書するために、今村大佛師の工房を訪ねました。左下の写真がその時のものです。
真言密教を象徴する多宝塔
五智如来をお祀りするお堂は、五年後を目処に〝多宝塔〟として建立することも、五智如来顕現と同時に御霊示頂いております。そもそも多宝塔というものは、真言密教にとってはとても大切な、密教そのもののシンボルと言える建物なのです。
当山では内陣の中央に設えられた大壇の、そのまた中央にお祀りされている小塔が、この多宝塔です。また全国の真言宗の総本山や大本山には必ずと言ってよいほど、この多宝塔が建立されています。
中でも特に有名なのが高野山にある大塔ですが、これは日本一大きな多宝塔であり、千二百年前に弘法大師様によって発願された、高野山で最も重要な建物の一つです。ですからこの高野山の大多宝塔は「根本大塔」と呼ばれています。一方、比叡山で一番大切なお堂は「根本中堂」と呼ばれていて、よく対比される建物です。
五重塔と多宝塔は先代真如大僧正様の悲願
信者の皆さんが毎月十三日の御縁日に昼食のお斎を頂かれる大食堂の最上段の床の間に「両部大経感得図」が置かれています。その絵図は五重塔と多宝塔として描かれています。
昭和の末に先代真如大僧正様が本院の庫裡を「信者会館」として全面改修されて以来、この絵図はそこに掲げられていますが、先代も「いつか五重塔と多宝塔を建立したい」と思っておられたのではないかと想像していました。
また、先代真如大僧正様は平成に入ってから発願された本院の五重塔の建立予定地を、とりあえず貫主堂の南の真正面に指定しておられました。
その後、長年の念願だった境内東側の森になっていた土地が、不思議なご縁で購入出来ました。そこで改めて建立予定地を御本尊皇円大菩薩様に御霊示頂き、五重塔は現在の地に建っています。
伽藍配置を全体的に見て、このたびの多宝塔の建立地は、先代貫主が以前五重塔建立地に予定されていた場所こそが、最も相応しい場所なのです。
当代最高の匠との巡り合わせは皇円大菩薩様のお導き
多宝塔建立の目処は、何と申しましても五年後の皇円大菩薩様御入定八百五十年大遠忌が最も望ましいので、来たる平成三十年六月を目標にしたいと思っております。
大四天王に続いて御本尊様の御尊像を謹刻して頂いた今村大佛師は今まさに円熟期に入っておられます。佛像彫刻で最も難しいと言われている五智如来をこの時期に依頼出来るということは、まさに皇円大菩薩様の采配であると言わずして何と言うべきでしょう。
そして多宝塔の工事も、五重塔に続いて南大門を再建して頂いた匠社寺建築社の大浦敬規さん一門にお願いすることにしています。
これはあくまで私の個人的な思いですが、今村師と大浦氏は、佛師と社寺建築家として当代最高の技量を持っておられると確信しています。その意味で、現代に生きる私達が後世に遺せる最高の多宝塔と五智如来が出来るに違いないと思っております。それはまた、皇円大菩薩様の御霊威を、具体的な形にすることでもあるのです。
蓮華院信仰に於ける五智如来と多宝塔の意義は?
ここまで書いてきてふと思うことは、一佛信仰の蓮華院で、五智如来に顕現して頂くことの意味は何か? という事と、信者の皆さんにとってはどんな意味があるのか? という事であります。
信者の皆さんが日々手を合わせ、真剣に祈られて数々の霊験やご利益を頂いておられるのは、皇円大菩薩様への一途な信仰の賜であります。その意味では五智如来も多宝塔も、信者の皆さんにはそれほど身近には感じられないことでしょう。
そこでこんな喩え話をしてみましょう。皆さんのそれぞれのご自宅には床の間があると思います。そこには掛け軸が掛けられていたり、香炉が置かれていたり、場合によっては生け花が飾られているかもしれません。では生活上、床の間が無ければ困ることがあるでしょうか?
床の間が無くても食事は出来ますし、寝るときに無くても良いですし、はたまたトイレや風呂のように、どうしても無くてはならない場所でもありません。その証拠に、最近では床の間の無い家が増えてきました。
では床の間の役割とは何でしょうか?それは「文化的・芸術的・伝統的な空間」と言えるでしょう。佛壇や神棚が各家庭の宗教を象徴しているのと、かなり近いものであると言って良いでしょう。
つまり多宝塔や五智如来は、お寺にとって必要不可欠と言う程ではなくとも、信仰、伝統の上で、そして寺の格として、やはり無くてはならないものなのであります。
形無き信仰にも姿形は不可欠
信仰や信心は形を超えた、形の無いものですが、信仰や信心を象徴するものとして、やはり形は無くてはならないものなのです。
象徴という言葉で皆さんが思い当たるのは、象徴天皇制の事でしょうか。確かに私達は、日頃から天皇陛下を意識する事はほとんどありません。しかし歴史を振り返ったり、日本文化に接するごとに、その根底に広く深く影響を与え続けて頂いているのが我が国の天皇陛下なのであります。
五智如来や多宝塔はその姿形によっても、私達の心に様々なものを投げ掛け続けて頂くことでしょう。
これから五年の歳月の中で、少しずつ具体的に形を顕現して頂く五智如来と多宝塔に心を踊らせながら、皆様と一緒にその時を待ちたいと思います。合掌(五月二十九日記)
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