2014年01月20日大日乃光第2065号
『 「真如基金」は未来の人材育成各家庭では足元からの実践』
初まいりに新年を寿ぐ
新年を迎えて、すでに十三日目となりました。しかし、日本各地から今日初めてお参りされた方が大勢おられますので、ここで改めて「新年明けましておめでとうございます」と、心から新年を寿ぎたいと思います。
さて、平成三十年の「皇円大菩薩様御入定八百五十年大遠忌法要」まで、あと四年となりました。
そのための境内の環境整備としての庭園工事が、本年四月から準備工事に着工致します。そして二年後の九月から、多宝塔の建造に着工する予定です。
この事は既に元旦号でお伝えしましたので、今回はいま一つの大切な発願である「真如基金」について、もう少し詳しくお伝え致します。
皇円上人様の深い思いを汲んだ蓮華院奨学金「勧学の趣旨」
当山では、実は昭和三十四年三月二十七日付けで「蓮華院奨学金」が設立されていました。私は随分前に先代から、前途有望な青年にお寺から奨学金を出していた事があったと伺っていました。
そんな中、先日古い書類を見直す中で、古めかしい大判の茶封筒が見つかりました。その封筒には「昭和三十四年三月二十七日 奨学金」と大書されていました。その中には「蓮華院奨学生規約」と「奨学生採用通知書」、その他の書類が入っていました。
奨学生規約には、
第一条 蓮華院奨学金は、皇円上人勧学の趣旨に則り貸与するものである。
第二条 この奨学金によって、宗教上、その他束縛されることはない。
…以下略。などとありました。
第一条の「皇円上人勧学の趣旨に則り」という言葉とその意味を私なりに考えてみますと、皇円上人様は八百四十六年前に龍身入定される直前まで比叡山に居られて「一山の雄才なり」「当時第一等の人なり」と讃えられ、法然上人など数千のお弟子さん達を育てられたのでした。
この教育者としての皇円上人様の篤く深い思いを「勧学の趣旨」という言葉に籠められたのではないかと思います。
そして第二条の「宗教上、その他束縛されることはない」という言葉からは、寛大な心で、その人物を支援しようという思いが伝わってきます。この規約の原物は、当時三十六歳になる直前の、先代真如大僧正様の直筆で書かれたものです。
今回の「真如基金」は、先代の教育に対する強い思いを活かして名付けましたが、そもそもこの「真如」という言葉は、佛教にとってとても大切な言葉なのであります。「真実」「ありのままの状態」「常住不変の真実」「円満」など深い意味が籠められた、たいへん意義深い言葉なのです。
『六大新報』に説かれた人材育成の大提案
『六大新報』という明治以来の真言宗の機関誌の新年特別号に、ある方の意見が掲載されていました。その方は将来の日本佛教界のみならず、日本社会、ひいては世界のために、世界に通用する人材を各宗派ごとに長期的に育成するための具体的な提案をなさっておられました。
それは、若い人材に専門道場で修行してもらった後、海外の大学や各宗教の僧院などで更に研鑽を積んで、世界的な視野を得て頂くというものでした。
実は私もこれに似た事を、数年前から考えていました。幸い当山では、タイ、スリランカ、インド国内のチベット亡命社会などとの長年の信頼関係がありますから、有能で志の高い若者がタイやスリランカ、場合によってはインド国内のチベット佛教の寺院などに留学して頂くために、この「真如基金」を活用できればと考えていたのです。
参考になった若き芸術家への育成基金
いま一つ、私がこのような考え方を持つに至るきっかけになった大切な恩人がおられます。その方は紫綬褒章も受賞しておられる世界的なアーティストの高橋秀先生です。
先生は、ご自分と奥様の名前から「秀桜基金留学賞」と名付けた奨学金を創設され、八年前から毎年三名の若いアーティストに「一年でも二年でも、海外で様々な体験をしていらっしゃい」と、ほとんど条件を付ける事なく毎年海外へ送り出しておられます。高橋先生と奥様は、ご自身がアーティストですから、芸術の分野に限定しての奨学金です。
最近、その高橋先生と電話でお話ししたのですが、先生は「日本を離れて外国に一年、二年と住んで、外から日本を見れば、日本がいかに素晴らしいかが分かる」ともおっしゃっておられました。このように言われる高橋ご夫妻自身が、何と四十年もイタリアに住み、彼の地で活躍しておられたのです。
佛法の興廃は将来の人材次第
私は日本佛教の将来に対して、あまり楽観はしていません。しかし、私自身は外国に住んだ事がありませんし、外国から日本佛教、ひいては日本社会を見る経験をしておりませんので、日本佛教の本当の素晴らしさをまだ知らないのかもしれません。それでも日本佛教界の将来に真に希望を持てるか否かは、将来の人材次第です。
奈良、平安、鎌倉、そして中世から近代に至るまで、日本佛教は素晴らしい祖師方を、その時代に応じて数多く生み出してきました。しかし現代の国際社会において、果たして世界に通用し、世界を救える人材が、このままでは出ないのではないかとも思うのです。
そんな中で、皇円大菩薩様八百五十年を四年後に控えたこの時期に、お寺そのものを外見的に立派にするだけでは、皇円大菩薩様、そして歴代貫主の御心に充分に叶っているとは思えません。
やはり何と申しましても、宗教は人によって興廃が決定されます。将来の人材育成のために、今力を尽くさねばと考えての「真如基金」設立なのであります。
生活習慣の三項目の実践は家庭における人材育成
この人づくりを全国の信者の皆様に置き換えれば、皆様の家庭の未来の人材である、子供さんやお孫さんをどのように育んでいくかという問題と重なります。
昨年、日本食が世界遺産に登録されました。これをきっかけに、各家庭における食育の在り方、ひいては学校給食の在り方まで少しずつ議論され始めました。
そんな中で、先代真如大僧正様の遺訓として、毎年初まいりのこの日に、
①朝から家族で互いに挨拶をしましょう。
②三度の食事の時、皆で合掌して「頂きます」「ご馳走さま」を言うようにしましょう。
③履きものを揃えましょう。
以上の三つの生活習慣をお伝えして参りました。
この内の第二項、「頂きます」「ご馳走さま」を家族全員で一緒に言う事が、いかに大切な事なのかを食育の観点からも改めて強調したいと思います。これら生活習慣の三項目は、日本人としての大切な伝統を呼び戻す事にも繋がります。
家庭外への良き習慣の実践は、衆生済度の菩薩行へと通じる道
その上で、これら三項目以外に各々の家庭で何らかの良き習慣を付け加えて頂きたいものです。例えば、
①一日にひとつは他の人の役に立つことをしましょう。
②学校や会社では、必ず自分の方から挨拶をしましょう。
③他の人の履きものも揃えましょう。
④人の話を真剣に聞きましょう。
⑤人の話や行動に感動した時は、素直に「素晴らしい」と言いましょう。
⑥一遍でも多く「ありがとう」を言いましょう。
⑦困っている人には「何かお手伝いしましょうか?」と言いましょう。
などなど。先の三項目以外で、仮に提案した七項目など、それぞれの家庭で新た
な家族間の約束、家庭内の決まりごとを定めて頂きたいのです。
先の七項目は家庭内での良き生活習慣としての三項目を基にした、家庭外に向けての具体的な行動です。新たな七項目は、全て他人のための行動なのです。
皇円大菩薩様の菩薩行は、広大無辺なお働きを伴った衆生済度でありますが、私達はその万分の一でも真似をして、その御恩に少しでも報いるために、家庭外にまず一歩を踏み出す具体的な行動が欠かせません。その具体的な例が、先に挙げた七項目です。たとえ一つからでも結構ですから、ぜひ先代以来の三項目に加えて、生活習慣の四項目、五項目にして頂きたいと思います。
家族団欒が日本興隆への灯し火
そして、時には各家庭で「今日はいくつ実行出来ましたか?」などと互いに報告しあうような家族の団欒が日本国中に広まれば、私達のこの日本は更に輝かしい国になっていくことでしょう。そのための小さな灯となるように、皆様がまず率先して実践に力を尽くして頂ければ有り難いところであります。合掌
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