2014年03月01日大日乃光第2069号
「一鉢の盆梅に籠められた丹精にあるべき信仰生活を省みる」
先代の植樹から始まった?玉名盆梅展
いよいよ三月です。二月十四日から始まった、玉名観光協会主催による第十二回目の「玉名盆梅展」が九日で閉幕します。
この催しは、「玉名温泉あったか物語」として、冬の観光キャンペーンのために始まりました。十年を過ぎた現在では、梅の盆栽展としては質・量ともに〝西日本一の展示会〟と言われる程になりました。
そもそもこの展示会の遠因は、先代の真如大僧正様が、昭和三十九年に私達兄弟とともに家族五人で佐賀の東妙寺へ移り住んだ時に遡ります。その年から父(真如大僧正様)は、境内に梅の苗木を二百本ほど植えられました。
それ以来、以前から植えられていた古木も含めた梅の木全てに、番号と個別の名前を書いた木札をつけて、それはそれは丹精を籠めて育てられました。
市場に出荷していた東妙寺ブランドの梅
やがて、以前から植えられていた梅の木もたわわに実をつけ始め、十年ほど経つと若木も実を付け始めました。
私も弟もこの時期になると、毎年父の手助けをしながら梅の木を消毒したり剪定していた事を思い出します。実が稔る最盛期にはビニールの網袋に「東妙寺の梅」と書いた紙札を入れて、自転車で高校に通う途中の青果市場に何度も出荷した事がありました。その頃は「東妙寺の梅」というブランドで、佐賀県内外で高い評価を受けていました。
昭和五十二年、開山大僧正様の御入定によって蓮華院に帰山することになっても、真如大僧正様は毎月の二十一日には東妙寺へ出向かれ、この時期にはよく梅の木を剪定しておられました。
その後、東妙寺の境内の整備に伴って、二十本ほどの梅の木が本院と奥之院に移植されました。すると、それらの梅の木も必ずご自身で剪定などをしておられました。
玉名温泉あったか物語の特別企画展として
そんな梅の木に対する先代の深い思い入れを汲んで、十三年前に東妙寺伝来の梅の木を奥之院の桜ヶ池女池のそばに集めて、梅園を造りました。その頃、玉名観光協会では冬の玉名温泉のキャンペーンが企画されていました。
当時は日本文化の一つの結晶とも言うべき盆栽が、世界からも注目を集めていました。特に中国のバブルとも相俟って台湾でも空前の盆栽ブームが起きていました。
また、中国・韓国からの観光客を誘致するのが日本各地で一つの流行にもなっていましたので、盆栽の展示会をしようというアイデアも出されていたようです。
そんな中で、ある方が当山の奥之院の梅園で紅梅は一月から、白梅は二月中旬から咲き始めているのを見て、「玉名温泉あったか物語」の特別企画を出されました。
奥之院を会場にして梅の盆栽展である「盆梅展」をその企画の一部として提案されて、「玉名盆梅展」が始まったのでした。
以来、今年で十二回目となる盆梅展のオープニングが、去る二月十四日に奥之院で開催され、今月(三月)の九日まで、土・日開催の「大茶盛」と併せて展示されています。
梅の実を収穫するために、先代が佐賀の東妙寺に紅梅・白梅を植えられてから、今日ここに西日本一の「盆梅展」として結実しているのです。何とも感慨深いものがあります。
ご利益を頂くための努力
開山大僧正様は「ご利益」を頂くためにはどうするべきかという話を、奥之院の隣にあったミカン園のミカンの木に喩えて、こんな風に話しておられた事があります。
「大きく立派なミカンの実を得るためには苗木を植える前に大きく深い穴を掘り、そこに充分な肥料を入れ、その土にミカンの苗木を丁寧に植える。
そして周りに草が生えたら全て抜き取って、苗木の周りに置く。害虫が付かないように何度も消毒をする。伸びた枝が交錯していたら剪定をする。
こうして数多くの手間暇を掛け、丹精を籠めてミカンの木を世話し続ければ、必ず立派なミカンがたくさん収穫できる。
これと同じように、大きな「ご利益」を得たいと願うならば、苗木にたくさんの肥料を施すように、自宅にお受けした在家用のご尊像に対して、朝晩お茶やお佛飯をお供えして、少なくとも十分から三十分くらいは『在家勤行次第』に従ってお参りしなさい。このお参りすることが、ミカンで言う施肥に当たります」
人はただ漫然と生きているだけでも罪を犯すものです。これを「根本煩悩」と申します。ミカンの木の周辺に生える雑草に相当し、放っておけば、苗木は草に覆われて枯れてしまいます。
この「根本煩悩」を取り去るのに相当するのが、当山で行なっている「四度供養」です。そして日々犯してしまう罪を抜き取るのは、月極めの「先祖追善護摩供養」に当たるのです。害虫除けの消毒は「健康祈願」や「開運祈願」に相当します。
さらにミカンの実を収穫した後の追肥に相当するのが、「開運祈願」であったり「学業成就祈願、そして毎年の「星まつり祈願」と考えても良いでしょう。
棚からボタ餅では駄目!
これに対して日頃佛壇に向かってお参りする事もなく、お供えをするでもなく、日々の生活では自分の事しか考えず、人の迷惑も省みない生活を送っていた人の中には、いざ受験が迫ったら「受験合格祈願」をお願いしたり、病気になってからあわてて「病気全快護摩祈祷」をお願いする方も居られるかもしれません。
これらは、日頃はミカンの木をほとんど手入れしていないのに、立派なミカンの実が稔る事を欲っするのに似ています。
人生には「棚からボタ餅」という事は滅多にありません。努力を続ける人は、その努力に見合った結果が出るし、努力しない人はいくら高望みしてもそれは叶わないのです。
この事を佛教では「因果応報」と言い、「蒔かぬ種は生えぬ」と昔から言い習わして、人々に日々の努力の大切さを説いてきたのです。
十二年目の奥之院の盆梅展には、樹齢百五十年、或いは二百年の立派な盆栽が展示されています。これらは三代、五代、十代もの長きに亘る多くの人びとの手入れと心が籠められてはじめて立派な盆栽として、今日ここに存在しているのです。
一鉢の盆栽から、皆様も先人の努力と丹精を感じ取って頂き、信仰生活のよすがにして頂ければ、この盆梅展を十二年間続けてきた甲斐があるというものであります。合掌
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