2014年08月12日大日乃光第2083号
「日本民族の伝統行事お盆の意義」
今回のあらまし
八月はお盆の月ですので、『大日乃光』では毎年恒例の「お盆の由来」を掲載致します。今回は教学部より日本の伝統行事である「お盆の意義」についてお伝えいたします。
地獄から救うご供養
今年も間もなくお盆が参ります。お盆の語源は、サンスクリット語(梵語)の「ウランバナ」と言われています。 中国では音訳して「盂蘭盆(うらぼん)」と言い、日本では略して「お盆」と言っております。
「ウランバナ」の意味は、「倒懸(とうけん)=逆さまに吊るされるような苦しみ」ということです。 この世で悪業(あくごう=悪いおこない)の多かった人は、死後は地獄や餓鬼道に堕ちて針の山や逆さ吊りの刑を受けるとも言われます。
つまり、盂蘭盆会は地獄や餓鬼道に落ちて「逆さ吊り」のような苦しみを受けている人をお救いするための供養なのです。
盂蘭盆会の由来は、『佛説盂蘭盆経』(ぶっせつうらぼんぎょう)に出ております。お釈迦さまの十大弟子の一人である目連尊者(もくれんそんじゃ)がお釈迦さまの教えに従って、亡くなった母親を供養して地獄の苦しみから救われたというお話です。これが「お盆」のおこりです。
この盂蘭盆会の行事が日本に伝わったのは皇円上人様が編纂された『扶桑略記』によれば、今から千四百年ほど前の飛鳥時代、推古天皇・聖徳太子の頃と伝えられています。ですから、日本でもかなり古くから行なわれていた行事なのです。
時代の変遷とお盆
最初は宮中や一部の貴族の間で行なわれていたこのお盆供養も、時代が下るに従って、本来私達日本人が持っている宗教観と相俟って、広く国民一般の行事となって行きました。
こうしてお盆は日本における最大の国民的年中行事の一つとなりました。しかし供養の仕方などは宗旨や宗派、そして地方の習慣などによって色々と異なっています。
例えば江戸時代までは旧暦の七月に行なわれていたお盆行事が、新暦になってからは東京都心部を除いたほとんどの地方で、旧暦の七月盆に近い八月に行われるようになったこともその一例です。 期間としては七月か、または八月の十三日に始まり、十六日に終るのが一般的です。
お盆前にはお墓を掃除し、十三日の昼頃までに精霊棚(しょうろうだな)を飾り、十三日の夕方にお墓や家の門口で「迎え火」を焚いてご先祖様方の御霊(みたま)をお迎えし、家までご案内するという丁寧な地方もあるようです。
精霊棚はご先祖さまの御霊をお迎えする祭壇です。関東や一部の地方では四隅に青竹を立てた台の上に真菰(まごも)や筵(むしろ)を敷いて、ご先祖様のお位牌を中心に、供物・灯明・盆花・線香・水などをお供えします。
ところが、こうした精霊棚や供物壇などは何一つ作らず、ただ平常の佛壇の前に幾つかのお供え物を供えるだけ、という簡単な所もあります。熊本県や佐賀県などの北部九州では、このような簡単なお祀りの仕方で行なわれています。
お盆供養と盆おどり
お盆の十五日までの間で、各家々では檀那寺(菩提寺)のお坊さんをお迎えして、読経して頂く地域は多いようです。これを棚経(たなぎょう)と申します。これは精霊棚を作って、そこでお参りして頂くことに由来しています。
また前年のお盆以後、この一年の間に死者のあった家では、新盆(にいぼん)とか初盆(はつぼん)と言って、親戚知人が集って丁寧な法事を行います。これもお盆の行事の一つです。
また、盆おどりもこの時期に行われます。そもそもの起こりとその意味は、
一、目連尊者の母親が成佛出来たことを喜んで踊られた、その姿であるという説。
二、地獄の苦しみから逃れることの出来た母親を見て、目連尊者が喜び踊られた事から起ったという説。
三、地獄の苦しみから脱した亡者を見て、その縁者や遺族たちが喜び踊ったことから起ったという説。
などがあります。
現在でも各地でいろいろな盆おどりが催されますが、こうした盆おどりの由来とは全く関係なく、単なる納涼のレクリエーションとして踊っている所が多いのは少々残念な気がいたします。
生御霊(イキミタマ)のご供養
またお盆の供養には、ご先祖様の御霊を供養するだけでなく、現に生きている父母に感謝し、孝養を尽くすという、いわゆる「生御霊供養」の意味も含まれています。
昔は他家に嫁いだ娘さんが、お婿(むこ)さんと子供たちを連れて蕎麦(きょうばく=そば)や小麦粉をおみやげに、父母に平素の無沙汰と不孝を詫び、近況を知らせ、子供達の成長を喜んでもらうというお盆の「里帰り」も、この「生御霊供養」の一つであります。
また昔は薮入(やぶいり)と言って、里の両親に顔を見せに帰ったことも同じような意味です。お世話になっている人や仲人(なこうど)さんなどに盆礼(ぼんれい)に行く習慣も、実はこ
のことに由来していると言われています。
現在のお中元の贈答なども、盆礼の行事「生御霊供養」が一般化したものと理解することができます。
先祖供養と家族の和合
皆様ご存知の、京都の「五山送り火」(通称「大文字焼」)は、真言宗の開祖である弘法大師様が疫病退散のため、人体を表す「大」の字を書いて護摩を焚かれたこと(『雍州府志』『日次紀事』)より始まり、室町時代からお盆の行事として盛んに行われるようになりましたが、その篝り火も精霊おくりの「おくり火」に由来しています。ですから八月十六日の夜に行われているのです。
このようにお盆の終わりの十六日には、ご先祖様方をお送りするために、「送り火」や「精霊流し」などが行われています。
精霊流しも地方によって色々なやり方があります。精霊棚の供物のすべてを蓮の葉やワラで編んだ容器に入れて、海や川に流して静かに別れを惜しむという所もあれば、長崎のように船に花火などを積みこんでドンパチと賑やかに送り、最後には火を放って燃やしてしまうところもあります(花火は、もともと中国伝来の精霊おくりの作法と言われています)。
こうした「ご先祖まつり」や、「生御霊供養」などの多くの宗教行事は、戦後は次第にその本来の意味が忘れ去られ、神佛との関わり合いや、民族的な伝統が急速に失われつつあります。このことと、近年言われている青少年の心の荒廃とは、決して無関係ではないように思われます。
私たちは、ご先祖様やご両親やご家族、そして知人や恩人、また地域社会と通じ合う「お盆行事」の、この温かい心尽くしをいつまでも大切にしていきたいものです。
そしてよくよくご先祖様をおまつりし、ご供養して孝養を尽くすことを今一度、この時期にしっかりと思い巡らしていただきたいものです。合掌
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