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大日乃光






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2014年12月24日大日乃光2096号
命をみつめて今を生きる 終末医療と自殺と内観療法

(第26回内観療法ワークショップin熊本を開催して)
 
蓮華院誕生寺内観研修所 所長 大山真弘
 
熊本での全国大会
 
去る十一月二十二日と二十三日、熊本駅前のくまもと森都心プラザにて、「第二十六回内観療法ワークショップin熊本」を開催致しました。
 
これは日本内観学会主催の全国大会で、貫主様を実行委員長として、熊本県と熊本市とその教育委員会の後援の基に行われたものです。
 
両日とも立ち見が出るくらい参加者が多く、大成功に終わりました。アンケートからも、講師の先生方も参加者も満足された方々の多い大会だったことが伺えました。
 
今回のテーマは「終末医療と自殺と内観療法」でした。全国各地から十一名の学者・医師・僧侶で、終末医療や自殺対策の専門家の方々にご来熊頂き、講演やシンポジウムを行って頂きました。その中には日本における終末医療の第一人者の柏木哲夫先生もおられます。質問も活発で、「熊本の熱気を感じた」と述べられた講師の先生もいらっしゃいました。
 
余命三ヶ月のガン患者
 
大阪大学名誉教授の三木善彦先生は「余命三ヶ月と宣言されて~ある内観体験者の物語~」という演題でお話しされました。内観をされたある末期がんの方が、死と向き合いながら懸命に生きていかれるお姿のお話です。
 
Aさん(六十代男性)はステージⅣの末期がん。多臓器に転移。他のがん患者と同じように、第一段階〔何かの間違いだ。誤診だ。セカンドオピニオンを求めるなど〕、第二段階〔なぜ自分だけガンに…怒り、絶望感など〕、第三段階〔身辺整理、死に支度〕、第四段階…を体験して行かれました。現状では《自分はどう生きるべきか》に専念できる段階まで来ておられます。
 
「夕日が沈むのは十~十五分ですが、私にとっては二~三時間に感じるのです。命がやがて燃え尽きる人間にとっては、すべてがゆっくり流れてゆくのです。強がりではありません。私の人生の中では今が一番充実しています」
 
「私が死に向かって進んでいくのではなく、死の方が私を迎えに来てくれるのではないかと感じるのです。従って、深刻にはなりません」
 
「愚痴も無く、感謝の気持ちを持てるようになったのは、内観を受けた効用の一つです。だから死ぬ時、感謝の気持ちで手を合わせて死んでいくと思います。確約はできませんが、そうできると思っています」
 
「強さも弱さも併せ持っている自分です。生きてて良かった。本当に生きてきて良かった」……
 
故人と、残された家族
 
次は、奈良女子大学教授の真栄城輝明先生の講演「『いのち』を活かす『生』と『死』のあり方」です。
 
夫が急死し、その後の娘の不登校で、内観をされた方のお話がありました。「夫の一周忌に近いある日の明け方、糸のように細い月を見た。そして、その月へ亡くなっている夫を感じた。亡くなっているけど繋がっているんだと思った。その後は、私自身も元気になっていった。私にとって、内観は喪の営みだった」
 
『夜と霧』の作者で精神科医のフランクルは、ユダヤ人収容所の中で流されたデマが原因で、人間が急に死んだり病気になるなど、人間は失望によって死に、希望によって生きること、人間にとっていかに『希望』が大切かを証明していると言っている。
 
「内観などの心理療法というのは、言ってみれば、あの世に持っていけるものを作る仕事、つまりソールメイキングなのだ」と、河合隼雄は言っている。
 
ご講演の時、いつも真栄城先生は、内観をよく表す詩として、蓮華院誕生寺の子供の詩コンクールのこの詩を紹介して下さいます。
 
〔第二回子供の詩コンクール特別奨励賞受賞作品〕
「宿題」中村良子
今日の宿題は つらかった/今までで いちばんつらい宿題だった/一行書いては なみだがあふれた/一行書いては なみだが流れた
「宿題は、お母さんの詩です。」/先生は そう言ってから/「良子さん。」/と 私を呼ばれた/「つらい宿題だと思うけど/がんばって書いてきてね。/お母さんの思い出と/しっかり向き合ってみて。」
「お母さん」/と 一行書いたら/お母さんの笑った顔が浮かんだ/「お母さん」/と もうひとつ書いたら/ピンクのブラウスのお母さんが見えた/「おかあさん」/と言ってみたら/「りょうこちゃん」/と お母さんの声がした/「おかあさん」と もういちど言ってみたけど/もう 何も 聞こえなかった
がんばって がんばって 書いたけれど/お母さんの詩は できなかった/一行書いては なみだがあふれた/一行読んでは なみだが流れた/今日の宿題は つらかった/今までで いちばんつらい宿題だった/でも/「お母さん」/と いっぱい書いて お母さんに会えた/「お母さん。」/と いっぱい呼んで お母さんと話せた/宿題をしていた間/私にも お母さんがいた
 
講演者の長島美稚子先生は、夫をホスピスで看取られました。突然末期がんを宣告された夫を看取った壮絶な体験と、亡くなられた後の悲嘆の回復過程を話されました。
 
故長島正博先生「お迎えが来ると思えば、それによって死の恐怖が和らぐ。懐かしい人の所へ行くのだ」
 
長島美稚子先生「夫がいなくなった瞬間、夫がいなくなったことに圧倒された」「死に行く人と共に生を営んでいくこと。それはこれ以上ない豊かな時間であった」
 
終末期医療では、末期の患者だけが注目されがちですが、それと同じように家族も揺れ動き、亡くなった後までも苦しむのである。家族へのケアも重要であることを強調したい、と述べられました。
 
死生観四十九日体験ツアー
 
飛騨高山の千光寺住職で、飛騨にホスピスを作る会会長の大下大圓先生は「実践的スピリチュアル・ケアーと臨床宗教」という演題でお話し下さいました。
 
東日本大震災のような危機的で絶望的な体験をしても、やがてそこからスピリチュアルな成長をする人を発見する。専門的な言葉では、PTG(PosttraumaticGrowth)と言う。
 
「死生観四十九日体験ツアー」というものを医療関係者や一般の人を対象にお寺で行っておられます。末期残り一ヶ月と仮定し、実際に布団の中に寝てもらう。この時、誰に傍にいてもらいたいか。何故いてもらいたいか。その人はあなたにとって、どんな存在かも考えてもらう。
 
これは「臨終内観」と似ていて、興味をひかれました。臨終内観では、臨終と仮定して、三人の人に順番に臨終の枕元に来てもらい、別れの挨拶をします。その時に、内観の三つの質問、(一)してもらったこと(二)してあげたこと(三)迷惑かけたことも思い出してもらい、それぞれ三人の人に伝えます。地元の大学院で行なった時の経験では、通常の内観より真にせまり深いので、涙する人が多いようです。
 
その後「体験ツアー」では旅立ち(死)の読経を行い、約百メートルの真っ暗な廊下をローソクの光をたよりに歩く。怖い。実際に亡くなった時も、光に向かって進むことが大事であると言われている。そして、近親縁者に対面する儀式を行う。
 
過去、多くの人々にこの「死生観四十九日体験ツアー」を行った結果、体験学習によって死生観は変化することと、死のシミュレーションをすることによって、今をどう生きるかを考えるようになることが解った。
 
人は生きてきた様に死んでいく
 
最後にメイン講演の柏木哲夫先生のお話を紹介致します。柏木先生は日本における終末医療の第一人者で、現在、日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団理事長をされておられます。
 
ホスピスの三大要素は、患者の症状のコントロールと、コミュニケーションと、家族のケアである。特に患者さんの痛みのコントロールは重要で、現在は肩に下げられるくらいのショルダーバッグなみの大きさのモルヒネ注入具があり、外出も可能になった。痛みの軽減により、患者さんの生活の質は非常に上がる。統計上見てみると、亡くなられる最後の一ヶ月が特に重要である。そして、終末期医療におけるコミュニケーションの重要性は、いくら強調しても強調しすぎることはない。
 
それから、多くの人々を看取った経験から、「人は生きてきた様に死んでいく。いつも怒っている人は怒りながら、笑いの多い人は笑いながら、常日頃感謝している人は感謝しながら死んでいく」とおっしゃいました。
 
でも、まれに死を迎えた末期に人生最後の大跳躍をする人がいる。家族にも看護師にも怒りまくっていた患者が、内観も何も知らないのに、自分で自主的な内観をして、最後は周りの人皆に感謝の言葉を言うようになり、亡くなられた人もいた。家族も含め、皆の驚きであった。
 
柏木先生の趣味は川柳であるが、看取りが続くと辛いので、バランスを取る為に始められたとのことであった。終末期医療という非常に重たい話を、ユーモアを交え、聴衆を笑わせながらの楽しいご講演であった。
「ユーモアは立場の壁をなくす」ということで、終末期医療の現場で活用してこられたことが伺えました。
 
最後に、外部の方から貫主様にお葉書が届きました。それには、「蓮華院誕生寺さんでこういうことをしているとは知らなかった。蓮華院さんは非常にいい仕事をしていますね」とあり、とても嬉しく思いました。合掌



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