2015年06月17日大日乃光第2111号
率先する気概が実を結んだミャンマー/ビルマご遺骨帰國運動
今回は皆さんに一つご報告したいことがあります。それは、三年前の十二月一日号の本誌で初めてお伝えし、ミャンマーの少数民族支配地域で七十年もの歳月を超えて未だに放置されたままになっている、四万五千柱を超える旧日本軍兵士のご遺骨の帰国の事です。
ご遺骨帰國運動の起点となった 元日本兵の魂の叫び
それは三年前の、お盆が過ぎた頃の事でした。その二年前から和平実現のために単身ミャンマーに乗り込んでいだ井本勝幸さんとの電話でのやり取りの中で聞いた、以下の話に始まりました。
九十七歳になる元日本兵の訴えを、井本さんが人づてに、このように聞いたそうです。「ワシは六十年以上、戦友達の墓を守ってきた。いつか日本人が来てくれて、戦友達を祖国に連れ帰ってくれるのを待っていた。もうワシの命も残り少ない。聞けば最近、日本人の坊さんが近くに来ていたそうな。ワシの目の黒いうちに多くの戦友達を祖国に連れ帰ってくれ!!」と。
この話を聞いて、私はチベット支援で巡り会った仲間の僧侶の同志、そして井本さんが設立した僧侶の組織との二つの組織を統合して、三年前の十月に「ミャンマー/ビルマご遺骨帰國運動」という組織を立ち上げました。
以来、総理官邸、外務省、厚生労働省、そして様々なマスコミの方々に訴えかけて運動を展開してきました。一方、現地では井本さんの獅子奮迅の働きによって、少数民族の有志の皆さんによるご遺骨の調査を進めて頂きました。国内では、その調査費を賄うための募金活動を開始しました。
全国の信者の皆さんにも多大の寄付や募金を頂きながら、本誌でも度々経過を報告してきました。
英霊の目線での行動を引き継ぐ民間団体から政府へのリレー
そんな中で、ようやく当初の募金額の目標を達成し、現地調査の成果も出たので、先月十五日に同志の皆さんと共に厚労省の担当部署との懇談を持ちました。その結果、早ければ今年の十一月からでも、既に場所の確定しているご遺骨を厚労省で発掘し、国に連れて帰る事を約束してくれたのです。
これまでは調査費は我々の募金、つまり民間の資金で実施してきましたが、これからは政府の予算で調査し、発掘も行う事を約束してくれました。私たちのこれまでの苦労が報われて、皆一様に目に涙を浮かべながらの懇談でありました。
懇談の中で井本さんは、これまでのご遺骨調査の中での体験談として、いくつかの不思議な体験を話してくれました。現地の調査の中で、少数民族の人々の調査でご遺骨が見つかった場所に行った時の話です。
初めて行った山岳地帯で、「この辺りに日本軍の遺骨が埋められていると、古老が証言しています」と言われた場所はもちろんのこと、それ以外の場所でも、井本さんは初めての場所であるにも関わらず「あちらに洞窟があるはずだ」と、何故だか確信を持って伝えると、実際にその方角に古い洞窟があったそうです。
井本さん本人も調査隊の皆さんも、同じように不思議に思ったそうです。そして、その洞窟には、実際に多くのご遺骨が埋もれていたとのことです。
またある地域に入ると、どこからともなく井本さんの頭の中で、「とおーりゃんせとうりゃんせ♪こーこはどーこのほそみちじゃ♪……」と、大人数の男の声が聞こえてきたのだそうです。そしてその場所は、何百ものご遺骨が葬られていた場所だったそうです。
にわかには信じ難いエピソードですが、聞いていた私達は同じようにうなずいていました。声にならない声や、言葉にならない思いに耳を傾けるのが、我々僧侶の心構えでなければなりません。そんな話を、役人である厚労省の担当の方々も同じように感じ取って下さったようで、同じ日本人としての思いを共感したひと時でした。
また、「七十年という長い歳月を経て、ようやく祖国に帰る英霊の目線で、我々は行動すべきです」との井本さんの言葉も、役人の方々の心を動かしたように感じました。こうして運動を初めて以来約三年で、なんとかミャンマーに残された四万五千六百十柱の英霊のご遺骨が、祖国に帰国される道が開かれました。
国に先行できるNGOの存在意義
しかし、まだ大きな障害が残されています。それはミャンマーの完全なる和平がまだ達成されていない事です。局地的な戦闘は間も無く停戦に向かうか、本誌が皆さんの手元に届く頃にはミャンマーの全土での停戦が実現しているかもしれません。これからは、停戦から真の和平に向かって着実に進んでいく事が予想されます。
この完全なる和平が達成されなければ、まだ未調査のご遺骨の帰国は実現しません。一方で、和平が実現した地域から、英霊のご遺骨の発掘と帰国が順次進められていく事でしょう。これまでのように、民間団体が先行してご遺骨の調査を進めたからこそ、和平に従って日本政府の仕事としてのご遺骨の帰国が進められることになったのです。
ここに、政府では出来ない事を民間団体が率先して進め、その実績を元に政府が実施するというこの事実は、れんげ国際ボランティア会(アルティック=ARTIC)が行なってきたチベット難民支援のような活動の、深い意義を感じる事ができます。
国内でも二十年前の阪神淡路大震災の時、被災地の仮設住宅でのアルティックの活動が、その後の行政のコミュニティー作りの先鞭を着けた事にも、民間団体、つまりNGOの特性と役割の大切さが見えてきます。また東日本大震災でも、震災発生から二ヶ月で約二万食の炊き出しを実施したそのやり方にも、行政には不可能な迅速性と柔軟性を発揮しました。
具体的には現地、つまり福島県のいわき市で活動し、その地に根を張ったNPO法人ザ・ピープルとの協動で、十一ヶ所の避難所で被災者と一緒に炊き出しを実施した、このやり方の中にもNGOの特性が出ています。十一セットの調理器具と食材の経費を信者の皆さんの募金でまかない、ザ・ピープルの皆さんと被災者自身によって、調理器具の購入と手配、そして調理から配膳までを行ったのです。
私達は、何でも政府や行政に頼るのではなく、まず自分達で出来ることを自分達でやっていく、そのような心構えが大切です。
自ら率先して行動する姿勢がご利益を頂く信仰の要諦
それと同じように、何でも御本尊皇円大菩薩様に頼るのではなく、【自分がすべきことは自分でやる!】という心構えが大切です。
以前、スリランカで学んだ言葉があります。これは子供が親や先生に訴える形をとった言葉です。
「私がすべき事をあなたがするなら、私はする事がなくなってしまう。
私が何者であるかをあなたが決めるなら、私は自分自身をなくしてしまう。
どうか私に自分で考え、自分で行動出来るようにしてください」
この「私」を被災者や身障者、高齢者に当てはめ、そして「あなた」をボランティアや福祉施設の職員、そして若者などに置き変えて読んでみて下さい。
また、場合によっては「私」を信者の皆さん、「あなた」を御本尊皇円大菩薩様や、祈祷をする歴代貫主に置き換えてみてください。
まずは信者の皆さん自らが当山に足を運んで大祭にお参りしたり、功徳行に参加するなど、具体的に佛様に近づく努力を是非ともお願い致します。そこから、信者の皆さんご自身と御本尊皇円大菩薩様との魂の交流が芽生え、より確かな信仰へと広がっていくのであります。合掌
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