2016年02月24日大日の光第2134号
「神霊の依り来たる聖地で様々な祈願を春の彼岸供養を」
皇円大菩薩様は『扶桑略記』を編纂された大学者
まだまだ寒い日が続きます。そして若い受験生は、厳しい受験勉強を経て試験に臨んでおられることと思います。当山にも、先月から受験合格祈願を申し込まれる方が続いています。
私も昔々の受験勉強時代のことを思い出しながら、「がんばるんだよー」「負けるなよ~」と言うような思いを込めながら、早朝からの祈願を続けています。
それらの祈願をお受け頂いている御本尊皇円大菩薩様は、〝日本三大史書〟の一つとの高い評価を受けている『扶桑略記』という歴史書を編纂された(まとめられた)平安時代のその当時、一流の大学者でもありました。
その意味では当山で昔から「受験合格祈願」や「学業成就祈願」を行ってきたのは、ある意味必然的な事なのであります。
八百年前の築地塀が散歩コース
私は今年に入ってから、朝の祈祷を終えて朝食の前に散歩をする時があります。こちら熊本・玉名ではようやく梵鐘の音が辺りに広がる頃、朝日が昇ります。日本列島は東西に広がりがありますので、東の地ではもっと早くに太陽が昇っていることでしょう。
そんな朝の散歩コースの一つは、今から八百年ほど昔の創建当時の蓮華院浄光寺の境内を囲む小道です。蓮華院浄光寺は、皇円大菩薩様のお母様の一族である大野氏の館跡に創建されました。その頃の旧境内の四方を築地塀が囲んでいたのです。
玉名市教育委員会が昭和六十一~三年に調査した時の図面によれば、それはちょうど今の本堂を中心として東西に約二百メートル、南北に三百メートルの長方形になります。その図面を見るまでもなく、ほぼ八百年ほど前の境内を囲む様に、今でも小道がしっかりと現存しているのです。
二十五年前に私が当山の貫主を拝命し、三年籠山の行に入った頃は、寺の用事以外では境内から出ないということで、この小道を良く散歩したものでした。
金色に輝く五重塔の相輪
久々にこの小道を散歩していて気づくことが幾つかありました。それは今でも二十五年前と同じ様に、その道のほとんどがのどかな雰囲気に満ち満ちている事と、早朝という時間帯もありますが、荘厳な景色が次々と目に飛び込んでくる事です。
私はこの蓮華院の貫主(住職)ですから人一倍寺に愛着があるのは当然ですが、夜明けの陽光を受けて五重塔の相輪が金色に輝く様には得も言われぬ感動がこみ上げてきます。この同じ時、塔を見つめる人々は未来への希望を感じておられるのではないかと思ったりします。
また別の場所からは南大門の屋根がちらほらと見え隠れする時もあります。まさにこの地が「まほろばの地」と言うに相応しいとしみじみと感じられます。先にお伝えした三年籠山の中での散歩では見る事のなかったものが、この五重塔と南大門の姿です。
四百年後の南大門は地元のモノ?
この地で何百年も代々住み続けて来られた方の中で、特に七十代・八十代の先輩の方々はこの玉名市築地の景色の変化をどの様な思いでご覧になっているのでしょうか?
南大門の落慶法要を地元で盛り上げて頂くに当って、ある方がこんな事を言っておられました。それは熊本城の築城四百年の記念すべき年でもありました。
「『熊本城は誰のモノ?』と聞かれて『清正公さんのモノ!!』とか『細川さんのモノ!』と答える人も思う人も、今はいないでしょう。『熊本城は熊本県民のモノ』なんです。
それと同じように蓮華院の南大門を四百年ぶりに再建されたのは、蓮華院さんと全国の信者の皆さんの信心のお力です。
しかし百年後、さらには四百年後には南大門はこの築地の住民、さらには玉名市民の、そして熊本県民のモノとなるに違いありません!!」と言われました。
約八百年前に創建当時の南大門を朝な夕なに拝しておられたこの玉名地域のご先祖の皆さんは、四百年ぶりに再建された現在のこの景色をどの様に感じてどのように思っておられるのだろうか?という思いがふと散歩中の私の心に浮かびました。
故郷の原風景の一つとなった奥之院
前号の本誌では故郷愛を生み出すのは父母や友達、更にはご先祖様への愛着が大きな要素になっているとお伝えしましたが、それに加えて故郷の風土や景色も人々の故郷愛を育むには大きな要素になっているのではないかと思います。それはたとえば富士山や京都・奈良の五重塔などが、日本人の心の故郷を象徴している様なものでしょう。
また別な日の散歩では、奥之院の五重御堂の朱色の手すりが朝日に映えて輝いて見えることもあります。その輝きを包む小岱山の山並み、そして心に染み入る重低音の大梵鐘の響きは佛の声にも聴こえます。
そして七時になると人の声に近い音程の、爽やかな音色の本院の梵鐘の音が伝わって来ます。日によっては近隣の二、三ケ寺の梵鐘の音色も前後して聴こえる事もあります。
本院では平成四年以来、奥之院では昭和五十二年以来、毎朝梵鐘を撞いています。奥之院の大梵鐘は毎朝六時と昼の十二時に撞いていますが、本院では周りに民家が多いのであまり早いと迷惑をかけるので、毎朝七時に梵鐘を撞いています。
これら周辺の景色や鐘の音は、近くにお住まいの方々があまり意識せずに見ておられ、聞いておられることでしょう。そしてその方々の心を安らげ調え、力づけているのではないでしょうか。
先祖供養に最適な玉杵名の地
春の彼岸が一ヶ月後に近づいて来ました。当山には日本各地から、更には海外からも供養の申し込みがあります。
春秋の彼岸供養を申し込まれるという事は、このお彼岸の期間に皆さんのご先祖様の霊(みたま)をここ玉名の蓮華院の地にお招きして、ねんごろに供養を修するということです。
そもそも玉名という地名は、かつては「玉杵名」と呼ばれていました。玉杵名は『日本書紀』にも出てくる由緒ある地名です。
玉杵名=玉名の地名には、聖なる御霊(みたま)が集い来たる所という意味と、聖なる魂を呼び集める依り代(たまき)のある所という深い意味が込められた聖地とも言える地名なのです。
二年後の多宝塔の建立によって、まほろばのこの玉名の地に全国の信者の皆さんのご先祖様方をお招きするに相応しい環境がさらに整い、充実すると実感しています。
良き環境は明るく豊かな心を育む
人の心は環境に大きく影響を受けると言われています。良き環境が良き心の持ち方を導き、また逆に良き心の状態がより良き環境を作り上げていくということも真実であります。
清らかな川の流れは私達の心を浄めてくれます。その反面、昔からの言い習わしに「心濁れば川濁る」という言葉があります。心の濁りと自然の川の水が濁る事には何の因果関係もないと思うのは、現代の私達の感性が鈍ってきたからでしょう。
「心が濁る」とは、天地自然への感謝の心が減っている事に他なりません。私達は信仰による修練によって、少しでも明るく豊かな心構えを作り、周りの自然環境への感謝と、周りの人びととの人間関係をより良くする努力を続けて行きたいものです。 合掌
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