2016年07月19日大日乃光第2148号
お盆を前に「六波羅蜜」を実践して、御佛様に近づこう
佛教の三大聖樹とは?
皆さん〝花〟と言えば、どういう事を連想しますか?
突然変な事を聞くな…と思われるでしょうが、如来様、菩薩様の佛像は、ほとんど蓮の花の上に坐っておられます。このように、佛教では花をとても大事にします。
たとえばお釈迦様がお生まれになったときには、たくさんの無憂樹の木が時ならぬ花を咲かせた、と伝えられています。ですからお釈迦様の誕生日の四月八日を〝花まつり〟とも言います。
お釈迦様のお誕生日には、「天上天下唯我独尊」と天上と地上を指差した子供姿の小さなお釈迦様の像を、甘茶で満たした器の中に立てて、そのお堂にはたくさんの花を飾ります。
またお釈迦様がお悟りを開かれたのは菩提樹という大きな木の根元です。その時、悟りを開くまではこの座から立たないと決められました。
そして「沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす」と『平家物語』で語られる沙羅という木の下で、お釈迦様は入滅された(お亡くなりになった)と言われています。
その時も沙羅の樹が時ならぬ真っ白な花を咲かせ、たくさんの動物が集まり、お釈迦様の入滅を悼んだという言い伝えが残っています。
このような理由で佛教には花がつきものですが、特に無憂樹と菩提樹、沙羅双樹の三種は〝三大聖樹〟とも呼ばれています。
時の皇室から〝生身の菩薩〟と讃えられた叡尊上人
さて、少し古い話になりますが、今年の三月には当山の属する真言律宗の総本山、奈良の西大寺で非常におめでたいことがありました。
この西大寺を中興された叡尊上人というお方がおられます。このお方は日本で唯一人、時の亀山法皇と後伏見天皇のお二方から相次いで、「勅す、伝灯大法師位叡尊は、一天四海の大導師にして、濁世末代の生身佛なり」と、「興正菩薩」の諡号を重ねて二回も追贈されました。
一般庶民から〝菩薩〟と崇められた僧侶はすでにおられましたが、時の今上陛下から直に「菩薩」というおくり名を賜ったお方は日本で唯一人なのです。
「大師は弘法に奪われ」と言われるほど、弘法大師空海上人様は大師号では圧倒的に有名です。しかし生身の菩薩、生きた釈迦如来であると在世当時から言われていた人が叡尊上人なのです。
晴れて国宝に指定された西大寺の叡尊上人寿像
その叡尊上人が八十才の頃、たくさんの人の「どうか今のお姿を遺して下さい」との願いにより、叡尊上人の寿像が造られました。(生前に造られたので寿像と言う)
今日、西大寺の愛染堂の一角にある御霊屋というところにご安置されています。それが去る三月十一日に、重要文化財から国宝に指定されたのです。
このご尊像の胎内には様々な文物が納められています。その一つに八角五輪塔があります。この八角五輪塔そのものも、重要文化財となっています。
当山の五重塔にも納められている八角形の金色の五輪塔は、その形を模して造られたものです。皆さんの中には五重塔の落慶法要の時にお分ち致しましたので、自宅にお祀りしておられる方も多いと思います。
『大悲蓮華経』に記された、花に託されたお釈迦様の祈り
それ以外にお経も胎内に納められています。そのお経は『大悲蓮華経』と言います。略して〝悲華経〟とも言われています。
その内容は、お釈迦様が人々を救うために五百の願いを立てられたというお話です。五百の願いの一つに、自分は入滅後、佛舎利として世界各地に祀られるであろう。しかししばらくすると世の中が大変乱れて行く。(日本ではそれを〝末法の世〟と言います)
すると佛舎利は大地深く潜って行き、更に時を経て、いつしか水蒸気と一緒に天に昇って行き、やがて天空に届いて雨となって大地を潤すであろう。その時、人々の心に慈悲の心を起こさせるために、花となって現れよう…と言っておられます。
叡尊上人はお釈迦様を一番に慕っておられました。お釈迦様の生き方に多くを学び、その生き方に習おうとされました。ですからこの『大悲蓮華経』をとても大事にされたのです。
花はまさに、お釈迦様の慈悲の象徴なのです。そう思って、これから花を見つめて下さい。花と対話して、「よく来てくださいましたね」「はるばる目の前にお越しくださいましたね」と。
『六波羅蜜』と六種類のお供え物
もう一つ。花は「六波羅蜜」にも関係しています。
大乗佛教では「布施波羅蜜」、「持戒波羅蜜」、「忍辱波羅蜜」、「精進波羅蜜」、「禅定波羅蜜」、「智慧波羅蜜」の六波羅蜜が、自分を高めて佛様に近づく六つの方法と説かれています。そして様々なお供え物がこの六つに当てはめられています。
一番分かりやすいのは、灯明の明かりです。その光が「智慧」を象徴する所だと思います。灯明を点して、その光を通じて自身の中の智慧に目醒めようという事なのです。
また、人はおなかが空くといらいらしますが、ご飯を食べたらほっとします。ですから佛飯が「禅定」を象徴しているのです。
「精進」は実はお線香が象徴しています。一回火を点けたら最後まで怠けず途中で消えず、同じスピードで最後まで燃えて行きます。これが私達に精進を教え示しています。
「忍辱」がお花です。花を見て怒る人はいないのです。花は一言も言葉を発しません。タンポポだったら踏みにじられても一言も文句を言わない。ただ黙ってそこに咲いている。じっと耐えることを私達に教えている。そして人に耐え忍ぶ強さを与えてくれる。それが花です。
「持戒」は塗るお香(塗香)です。女性にとっての香水と思って下さい。塗香の厳かな香りが、私達にまっすぐな心を与えてくれます。毎月第一日曜日に、奥之院の五重御堂で修する「功徳行」の時や、「大茶盛」で内陣に上がる時、五重御堂を登壇する時、この塗香を両手に塗り全身をお浄めして頂きます。
「布施」は清らかな水が象徴しています。水は色々なものを潤し豊かにして行く。お水をお供えするとき、自分の心の中の布施の気持ちを増やして行くのです。
水は人に布施の心を呼び覚まし、お香を身に付けるときは自分を戒め、お線香はじっと燃えて、倦まず弛まず続けることを教えてくれます。花を見たら耐え忍ぶことを教えてくれます。佛飯を供え食事をすることは、心を落ち着けることになります。灯明の明かりは智慧を象徴しています。
これはどなたかが、いつの頃からか、この様に当てはめたわけです。絶妙な配当だと思います。皆さん試験はしませんので(一同笑い)、この事をぜひ憶えて下さい。六波羅蜜は、先ずはその中の一つを徹底して行えば良いと思います。
まず布施から始める六波羅蜜の実践
皆さんに一番親しみやすいのは布施です。これは何を表すかと言えば、欲望を離れ我欲を捨て去る。人に奉仕をするということは、物惜しみしたら出来ません。物を惜しまず人に与える。それがひいては慈悲の心に変わっていく。相手のためになるようにと、いろいろ考えます。そこに智慧も働き出します。
佛教でいうところの布施は、一番入りやすく馴染みやすく、そして難しく、奥が深いとも言えます。
持戒は約束を守り身を正すことですから、全てに耐え忍ばなければならない。努力しなければいけません。心を落ち着かせずに、そわそわしていても何事も始まりません。
そして布施に心を向けて実行していくと、自ずから持戒、忍辱、精進、禅定と進み、そして智慧が磨かれていきます。六波羅蜜のすべてが融合しあっていくのです。
先にもお伝えしたように、六つの道の中で一番入りやすいのが、布施行の実践だと思います。皆さん方が朝お互いに「おはようございます」とにこやかな笑顔で挨拶を交わし合う、この事自体も布施なのです。なにもなくても出来る。知識がなくても、お金がなくても、体力がなくても出来るのが布施なのです。
今日はお盆を前にして、六波羅蜜と六種のお供えについてお話ししました。皆さん、是非憶えて下さい。合掌
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