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2016年08月30日大日乃光第2152号
子供達の成長と可能性を強く感じた「一休さん修行会」

地震の影響を受けた応募状況
 
七月二十八日から三十一日にかけて、第六十八回「一休さん修行会」を執り行いました。今年は小学一年生から中学三年生まで、これまでで最多となる七十六名もの応募がありました。

近年は早くから参加者の集まりがよく、今年も五月の時点で定員が埋まり、キャンセル待ちをして頂いたほどでした。しかし七月に入ると十三名のキャンセルがあり、最終的に男子三十三名、女子三十名、合わせて六十三名で修行会が始まりました。

こういったことは行事の前にはよくあることです。例年なら学校のクラブ活動や塾の予定が入ったからというのがその理由でした。

しかし今回のキャンセルの多くは、熊本地震の影響でした。夜、家族の近くでなければ怖くて眠れないなど、地震による精神的ストレスで修行会に参加できなくなった子供達でした。
 
熊本地震を乗り越えてたくましく前進して欲しい
 
地震直後、私自身も就寝時に地震の起きている夢を見て、冷や汗をかきながら目覚めることが何度もありました。それも時間の経過とともにそういったトラウマもうすれておりました。

しかし、子供達にとっては、今回の地震は私たちの思っている以上に大きな影響があったようです。まして、地震が特にひどかった益城町や阿蘇方面の子供達は、私達の想像を超える恐怖を味わったことと思います。そして実際に被災地からの参加者もありました。

道路や建物は時間と労力があれば綺麗に元の姿をとりもどすことができますが、人の心はそうはいかないようです。あらためて心のケアの大切さを実感いたしました。

そういった意味でも今回の修行会は、これからの人生で前を向いて進んでいけるよう、またはお寺での生活と修行により、少しでも強い心をもっていただきたいという気持ちで合宿に臨みました。
 
リピーターに成長の喜びを感じる
 
修行会が始まり、まず目についたのは子供達の成長です。

今回、六十三名の参加者のうち、三割弱(十八名)の子が昨年も参加したリピーターでした。多い子になると、四回目という子もいました。前回は周りにちょっかいをだして喧嘩ばかりしていた子や、落ち着きがなくて授業中でもきょろきょろしていた子が一年経ち、そういった行動をとらなくなっていました。

お参りのときには、お経が体に記憶されているかと思うほど、すぐにすらすらとお唱えできるようになっていました。

また、今まで父親、母親のことを「パパ」「ママ」と呼んでいたのを「お父さん」「お母さん」と呼ぶようになったそうです。

お父さんとは古語で「トト」「トート」と言い、「尊いお方」という意味があります。お母さんとは「カカ」「カッカ」と言い、太陽が照り輝く様子を表す擬態語です。

太陽とは命の根源であり、太陽のように清く強く生きることが日本人の理想と考えられてきました。母親とは子供にとって太陽のような存在なのです。

ですから修行会では、両親のことを尊敬の念を込めて、「お父さん」「お母さん」と呼んでくださいとお話しいたします。
 
『般若心経』を身に付けた卒業生
 
意味が理解できても、実際に自分の習慣を変えることは大変です。人によっては何十年経ってもここで身に付けた習慣、作法を今でも実践している方がおられます。

数年前になりますが、ある日、奥之院の鐘楼堂前で、四十代くらいの男性が一人で『般若心経』をお唱えされていました。

読経中でもありますし、普段でしたら会釈くらいで通り過ぎるのですが、その方の凛とした佇まいと、真剣に読経される姿に感銘を受け、少し待って声をかけてみました。

話をうかがってみると、何と一休さん修行会の卒業生ということがわかりました。ここでのおしえが様々な形でそれぞれの人の中に生きていることを実感し、うれしく感じました。
 
全てのモノには命がある
 
今年の創作活動では、境内に植えてある杉の木を間引きし、その間伐材でベンチ作りをしました。今回も本院のそばにお住まいの斗山棟梁にお手伝いしていただきました。

ここ四年間くらいは「ものづくりの楽しさ、難しさ」を知ってほしいということで、ベンチや机作りなどを指導して頂いています。これまで材料は、ホームセンターなどで買ってきた木を使って作業をしてきました。

今回は、それまで目の前で生きていた木を伐り倒し、使わせて頂くことにより、「全てのモノには命がある」
ということを分かって欲しいという思いから、間伐材を使いました。

私達の生活の中には、木を使ってできている物がたくさんあります。しかし、現代の生活では製材加工されているものしか触れる機会がないため、木の命を頂いて使わせてもらっている感覚がうすれてしまっています。

これは食事の時にも同じことがいえます。昔は鶏を飼っている家が多く、世話をするのはもっぱら子供達の仕事だったそうですが、お客さんが来られた際にはその鶏を絞めて振る舞うというのが最高の「おもてなし」だったと聞きます。

そのように生活の中で命に触れ合うことにより、自然に何事にも感謝できる心が作られていくのだと思います。
 
一休さんお手製のベンチ
 
そこで今回は、木を間引きする所から始めました。間引きという作業にも、しっかりとした意味があります。木は日光が当たらなければ生きていけません。間隔が狭く、お互いに日光が当たらない状態になると、両方が枯れてしまいます。一つの命を生かすために、もう一つの命が犠牲になるわけです。

ですから当日はお酒と塩をお供えし、みんなでお参りをしてから木を伐り倒しました。倒した後、皮をはぎます。皮をはぐと、まだみずみずしい綺麗な木肌が見えてきます。こういった経験は子供達には始めてだったようで、目をきらきらさせて作業に没頭していました。

こうして出来上がったベンチは奥之院の境内に置いてありますので、参拝された際にはぜひ子供達の作ったベンチに座ってみてください。きっと木のぬくもりが伝わってくることでしょう。
 
猛暑の中で熱祷を捧げた「功徳行」
 
最終日には、修行会の総まとめとして「功徳行」に入りました。衣帯を整え、心を落ち着かせてから行に挑みました。

四日目ともなりますと、お経もしっかりとお唱えできるようになっています。特に三層の護摩道場で、貫主様の護摩の炎を中心に、一心不乱にお参りする姿には身震いするくらいに感動しました。きっと、それぞれの願いが皇円大菩薩様にとどいたことでしょう。「功徳行」後の子供達は、晴れやかですがすがしい顔をしていました。

今年の一休さん修行会は、例年にない炎天下での修行となり、子供達には体力的にもつらかったと思います。

中でも残念なことは、二名の子供が途中で帰宅したことです。しかし、感想文には「体がきついときに先生達に寄り添ってもらってうれしかった。人のやさしさにふれました」と書いてありました。体調不良のなかでも大事なことを学んでくれたようです。

このように、今年の一休さん修行会は、子供達の成長と可能性を強く感じた修行会となりました。これからもお寺でのおしえ、習慣が子供達の中に生き続けてくれることを期待し、祈念いたします。合掌




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