2016年10月21日大日乃光第2157号
世界的芸術家の作品で荘厳される多宝塔
初秋の倉敷・福山へ夫婦で旅行
あと十日余りで奥之院の大祭です。信者の皆様には、この秋の日々をいかがお過ごしでしょうか?
私はそんな秋の良き日に、久々に妻と新幹線で一泊旅行をしました。世界的なアーティスト、高橋秀画伯のアトリエを訪ね、創作中の作品を拝見する旅でした。
高橋先生には一昨年の五月、新たな作品を製作して頂いて、多宝塔内の一層に納める事をご了承頂いていました。
高橋先生の作風には年代と共に変化がありますが、基本的には生命力に溢れ、未来に夢や希望を与える、力強く先進的な作品です。
故郷への熱き思いで製作された、ふくやま美術館の「愛のアーチ」
そもそもの高橋先生との巡り合いは、二十年近くも昔にさかのぼります。
それよりも更に八年ほど前の昭和六十三年に製作された高橋先生の作品と、今回の旅で初めて巡り会いました。これまでも高橋先生の図録や作品集では何度も見ていたのですが、初めてその作品に直に接して大きな感銘を受けました。
それは「愛のアーチ」と名付けられ、ふくやま美術館のシンボルマークにもなっている野外展示の作品です。この作品は、この美術館の設立時に、まさに美術館のシンボルとして創られた大作なのです。
高橋先生は広島県の福山市のご出身ですから、出身地の美術館の庭に作品が安置されるのは、その名声と実績からすると当然の事のように思われます。
一方、アーティストと詩人の違いはありますが、玉名出身の世界的な詩人、坂村真民先生の事を知る熊本県民、玉名市民はさほど多くはありません。蓮華院には坂村真民先生の詩碑が四基ありますが、それでもまだまだ真民先生への関心は高いとは言えません。
今回の訪問で、高橋先生は故郷の福山をとても大事に思っておられることが、ご馳走して頂いた夜の食事会での語らいからも、ヒシヒシと伝わってきました。
若い世代の育成に尽力された高橋秀先生ご夫妻
そして、四十年近くのイタリアでの創作活動から、地元近くの倉敷に帰国されてからは、次の世代の芸術家を奥様とともに育てる「秀桜基金留学賞」(奥様の名前が桜さんで、お二人の名前をとった基金)の表彰式を、今年の三月まで十年間継続してこられました。この事から、次世代に「何ものかを与えたい」という熱い思いが容易に想像できます。
また、二十年ほど前の倉敷芸術科学大学教授の時代からその後まで、若い芸術家を育て、さらに年若い子供達のために「母と子の絵画教室」を開催しておられました。また、すぐ近くの沙美海岸(日本の渚百選)でも絵画作品コンテストを開催しておられました。
「秀桜基金」にも絵画コンテストにも、必ず地元の多くの仲間や理解者が様々な協力をしておられる事にも感動しています。
信仰にも深く通じるアートの真髄
そんな高橋先生が次の世代のために様々な活動をして来られた考え方を、こんな言葉で端的に表現されています。
「アートの基礎は命を考える事、魂を感じること、人の暮らしに決して欠かしてはならない一番基本の『生活習慣』を身に付ける訓練の場を開くことを願い、地域に美術文化の根っこを作り、そこから思いやり、優しさの躾を育てたい」(『祭りばやしのなかで 評伝 高橋秀』谷藤史彦著/水声社刊より)
この「アート」を、当山で毎年夏に開催している「一休さん修行会」に当てはめても、そっくりそのまま通用するように感じました。またアートを信仰に置き換えても、かなりの部分で重なっているように感じました。
皆さん、どう思われますか?
良き信仰も、命を深く考え、魂を感じ、より良き「生活習慣」を通じて互いへの思いやりや、周りの人びとへの奉仕を実践していく中で、自分自身を向上させるものと言えるでしょう。
未来に向けた芸術家の志と、歴代貫主の願いの結晶
また、こんな言葉にも感動します。
「私はアートで世を変革していくと言っていますが、それは自分に言い聞かせている言葉で、その思いで製作しています。……
後継者を育てるというより、次の世代に何らかのものを与え、残しておきたいのです。先祖がいて自分の命がここにあるわけですから、命を受け継ぐ現世代の我々一人びとりの、未来に向けての義務だと思うのです」
このように精神性が高く、志を高く持たれている高橋先生との巡り合いに、本当に心から手を合わせたい思いです。
私自身は開山上人様や先代から、「衆生済度」の願いを引き継ぎました。そして具体的な形としては蓮華院の再興の遺志を受け継いで、五重塔や南大門を本院に建立してきました。
これは取りも直さず皇円大菩薩の衆生済度の御誓願を引き継いで、願いを形に表したわけなのであります。
そして今回の多宝塔も歴代貫主の思いと、さらに皇円大菩薩様からの御指示を元にした発願となりました。
時代を越えて受け継がれるべき私たちの魂と使命
一方で時代が、世相が大きく変化しています。その意味ではこれからの時代に即応した形と内容が求められています。
もちろんいくら時代が変化しても変わってはならないもの、変わるべきではないものが厳然と存在する事も事実です。
その変わってはならないものとは、
一、先祖から頂いた命(魂)を、使命感と共にしっかりと受け継ぐ。
二、今頂いている命(魂)を存分に輝かせる。
三、受け継いだ命(魂)と役割を、次の世代にしっかり渡す。
一方で命を受け継いでも、様々な事情で次の世代に命を渡す事が出来ない人が増えています。しかし、私たちは自分の生き方や使命感などを、巡り合った縁のある人々と交換しあったり、高めあったりする事はできます。
どんな時代にあっても、私達一人一人が次の世代に何を伝え、何を残すかに思いを致したいものです。
世界と向き合った芸術家の生涯を掛けたメッセージ
その意味では、高橋先生の作品を多宝塔内に納めて、命の輝きや豊かな感性の本質を表現して頂く事は、これまでの伝統的な形式を超えて、未来への大きなメッセージを塔内に込めて頂く事にほかなりません。
高橋先生は、イタリアでは日本的な表現を極力控えて、一人のアーティストとして世界と向き合って来られました。
その中で「高橋秀の作品を置いていない近・現代美術館は一流ではない」と、世界的な芸術評論家に言わしめるほどの高みに到達しておられます。
その高橋先生も十二年前に日本に帰って来られて、一層本来の持っておられた日本的な表現が浮かび上がって来られのではないかと感じております。
その意味では世界的な感性で日本の良き伝統を融合させて、新たな世界に踏み出しておられるのかもしれません。
高橋先生の生き方そのものが、未来へのメッセージとして建立する多宝塔に相応しいと感じています。そしてその作品は、私達に勇気を与えるに違いないと確信しています。
夫婦の絆、協力と協調は金剛界曼荼羅の世界観
多宝塔が全体として智慧(知恵)を象徴する事は、何度かお伝えしておりますが、この智慧の表現としての金剛界曼荼羅は、多くの佛・菩薩が互いに奉仕し、互いに供養し合い、拝み合うという一面を持っています。
この互いに拝み合い、助け合うという姿を、私は高橋秀先生と桜さんご夫婦に、以前から強く感じていました。私達もそのお姿を見習いたいものです。
これからあと一年ほどかけて製作される作品が、多宝塔内に納められる日を、今から楽しみに致しております。
一年半後の落慶法要では、皆様もその完成した作品を楽しみにお待ちください。合掌
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