2017年12月19日大日乃光第2194号
坂村真民先生の思い出とともに四基の詩碑建立の歴史を振り返る
真民碑の取材を受けて
本院の五重塔の傍に「大宇宙大和楽」の碑が立っています。そして南大門の南には「めぐりあいのふしぎにてをあわせよう」の碑が立ち、蓮華院御廟(霊園)には「二度とない人生だから」の大きな碑が立っています。そして蓮華院で最も早く、奥之院の開山堂の傍に「念ずれば花ひらく」の碑が立っています。これらは全て坂村真民先生のご真筆を石に刻んだものです。
数ヶ月前に真民先生を慕っている方から九州中の真民碑を全て調査取材したいという連絡が入りました。かつて真民碑を造る時にお世話になった片山克さんと共に、昨日(十一月二十二日)来山されました。片山さんは真民先生に惚れ込み、先生の秘書やマネージャー役を務めながら、実質的に真民先生を広く世に出された方です。十数年ぶりの再会に、とても嬉しく思いました。
真民先生の終焉の地となった愛媛県砥部町に坂村真民記念館があります。しかし真民先生が生前心配されていた通り、赤字続きの経営となり、町の負担にもなっているそうです。
真民先生を生前ずっと映像に撮ってきた人がこの状況を憂い、少しでも協力するために、全国に七百基以上ある真民碑について、その場所に行って詩碑建立の経緯や、真民先生との巡り会いなどを取材しておられるのです。
真民先生にご縁を繋いだ手紙
まず最初に、奥之院の開山堂付近に立っている「念ずれば花ひらく」の第百三十九番碑についてお話し致します。平成元年か二年頃の事でした。当時、隣街の荒尾市に清水という方が住んでおられて、その方のご兄弟が東京で『宗教と現代』という月刊誌を出版しておられました。蓮華院の特集号を組んで頂いたこともあります。
ある時、その清水さんから突然手紙が届き、本のコピーも同封されていました。それは「風は近くの小岱山から吹いていた」で始まる坂村真民先生の詩の一部でした。私自身は学生時代から真民先生の詩集を読んでいて、真民先生が玉名の出身という事を知っていました。
手紙には、真民先生が「念ずれば花ひらく」という言葉を石碑にして縁のある場所に建てたいとの希望を持っておられるとありました。ご自分で書を書き、除幕式にも立ち会って念を込めるという事を続けておられて、たまたまある場所で、清水さんが詩碑除幕式に立ち会われたそうです。
先生と清水さんが名刺を交換すると「あなたは私の故郷のすぐそばじゃないか」と。
「今全国に百基以上の詩碑が立っているけれども、私の故郷の熊本県には、残念ながら一基もない。ぜひご縁を作って下さい」と、しみじみ仰られたそうです。その言葉を聞いて、これはぜひご縁のあった蓮華院に建てたい、と手紙が来たのです。
子どもの詩コンクール発足への願い
当時は先代真如大僧正様がご健在でした。私はこれをいい事だと思い、すぐに相談しました。すると、「良い事ではあるが、そのためだけに詩碑を建てるのでは意味がない。もっと意味のある建て方を考えなさい」と言われたのでした。
それから色んな事を思案し、当時実際に子供の詩のコンクールを開催していた島根県の安来市まで足を延ばしました。安来市では既に十数回の子供の詩のコンクールが続いていて、その活動を萩原茂裕先生の講演テープで聴きました。そしてこれは素晴らしいという思いが生まれ、実際に現地を訪ねて実施状況を詳しく調べるためでした。
例の安来節の民謡がテープで流れる安来駅に降り立ち、早速市内で色々伺ってみました。
すると女手一つで苦労して育てられたスーパーの社長さんが、自分の母親が亡くなった後、お母さんの詩の募集チラシをスーパーの各支店に貼り出して募集しておられるそうでした。とても素晴らしいと思い、詩集を何冊か買って帰りました。その中には御巣鷹山の日航機墜落事故で親を亡くした子供の詩があり、涙なしには読めない詩集でした。
私はこのような子供の詩のコンクールを開催して、真民先生に審査委員長を務めて頂くというアイデアで早速企画書を作りました。その企画書を持って真民先生に会いに行ったのが平成二年の二月八日でした。先生はとても喜んで頂きました。「詩のコンクールのテーマは『お母さん』です」と伝えると、「それは素晴らしい。分かりました。ぜひ私も応援します」と快諾して頂いたのです。真民先生は御年八十一才でした。その時の感動を、真民先生は長い直筆の手紙で伝えて頂きました。その手紙は今も大切に保管しています。
この子供の詩のコンクールを通して熊本県内の子供達、また日本全国の子供達がお父さんやお母さんをしっかり見つめて大事にしてほしいと、そういう輪が広がっていきますようにという願いを込めて「念ずれば花ひらく」の詩碑建立を、真民先生にお願いしたのです。すると喜んで書いて頂いて、その年(平成二年)の六月十二日に奥之院で「念ずれば花ひらく」の詩碑除幕式を執り行いました。
なぜあの場所に建てたかと言えば、真民先生が生まれた場所を一望できるからです。
詩碑は今も、先生自らが生まれ育った故郷玉名と奥之院の伽藍を背に立っています。
私も念を込めに度々足を運びますが、除幕式での真民先生のお喜びが、それはもう喩えようのないぐらいだった事を今でも瞼の裏に焼き付けています。
真民先生と共に歩んだ表彰式
そしてその年の九月十五日に第一回目の子供の詩コンクール表彰式を開催致しました。
その時、私は先代を熊本市内の会場にお送りしました。真民先生も松山から福岡空港に見えるので、その出迎えを弟の光祐に託しました。当時は航空便の都合で時間が余るので、高速道路を菊水インターで下りて、かつて真民先生のお父様が校長を務められた小学校に立ち寄り、校長先生にご挨拶をして校長室に真民先生をお通ししなさいと、事前に光祐に指示を出していました。
真民先生の故郷に生家や幼少期を過ごされた家は既にありませんが、父親が校長先生を務められた小学校は現存し、私がそこに連絡していたのです。すると、何とその日は真民先生のお父様が亡くなられて七十五回忌のまさにその日だったので、真民先生は益々喜ばれました。
現在の新幹線新玉名駅の北にある小さな小学校で、その第五代の校長先生でした。この小学校も本年度で合併により遂になくなります。校長室の写真も無くなるかもしれません。
そういう時に奇しくも十数年ぶりに片山さんが当山に見えたという事も、何か不思議な巡りあわせを感じました。
そしてコンクールの席上で真民先生は、「私の体力の続く限り、この活動を応援させて頂きます」と力強く仰って頂きました。こうして始まった子どもの詩コンクールは今年で二十八回目を迎え、年明け早々には二十八冊目の詩集を出す事になっています。
その後の三基の詩碑建立の経緯
真民先生はその後、九十歳の時に、久々に当山にお越し頂きました。子どもの詩コンクール十周年の記念に、真民先生にお越し頂き、それだけではもったいないと、二つの詩碑を本院の五重塔の傍と、蓮華院御廟(霊園)に建てる事になりました。
真民先生の詩の基本になるものは四つ。「念ずれば花ひらく」と「二度とない人生だから」と「めぐりあいのふしぎ」と「大宇宙大和楽」で、その四つ全てを併せ持つ場所は蓮華院以外には全国で二、三か所くらいしかないと思います。この四つの詩の内の二つを十周年の記念に除幕入魂して頂いて、その翌日に表彰式という流れに致しました。
御廟(霊園)では、「二度とない人生だから」を刻んだ推定三十トンの大きな大きな石を、その前に見えた時に初めてお見せしました。当時は今の場所から三十メートル以上南にありました。「これはいい石だ」と喜ばれましたが「これは動かすのは難しいだろう」と仰っていたのを思い出します。
そして本院の五重塔の傍の「大宇宙大和楽」の石は、元々奥之院を造成していた昭和五十年頃に、大雨が降って林道に山上から滑り落ちてきた石でした。道路を完全に塞いでしまい、工事の人が困っているところに開山上人様が通りかかられ、ブルドーザのオペレータに指示を出して道の脇に移してありました。
昭和五十一年八月、大梵鐘を運ぶ練習として、その石は奥之院に運び上げられました。そしてしばらくは開山堂の傍に置いてあったのです。その後、開山堂にお参りする度に何か特別な石という思いがありました。そこでこの石に真民先生の「大宇宙大和楽」の真跡を刻み、今はこうして池の中に佇んでいます。
それから南大門の南側の詩碑は、南大門が出来る前には既に建立を決めていました。時に真民先生も最晩年の九十四、五歳だったと思います。直接砥部町に行ってお願いし、書いて頂きました。これが何と六百十三番の碑なのです。そろそろこういう経緯を知る人も少なくなってきましたので、「坂村真民何番碑、何月何日入魂除幕」と、ちゃんと彫っておかなければならないと思っているところです。
真民先生の「念」の教え
真民先生がお亡くなりになったのは平成十八年の十二月十一日ですから、本誌発行のまさに十一年前に当たります。十年を過ぎて、久々に真民先生の思い出を少し語ってみました。それから取材の時に頂いたDVDを観て、久々に真民先生のお姿を拝見しました。その中で「念ずれば花ひらく」の「念」とは何かという事を何回も仰っていました。
念は「今の心」と書きます。とにかくいつも思うのだ。切に思うのだ。「切に願う事は必ず遂ぐるなり」と道元禅師も仰っておられます。真剣に切実に忘れずにいつも念じる。
そういう事を今日皆さん達にもお伝えし、願いを叶えるためにはいつも真剣に、切に念じて頂きたいと思います。合掌
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