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大日乃光






大日乃光

2018年09月19日大日乃光第2219号
先代真如大僧正様の御遺訓は日本人の心の在り方を照らす燈火

天変地異は神佛からの警告?
 

先の台風二十一号と、この度の北海道地震で甚大な被害に遭われている方々に、まずもって心よりお見舞い申し上げます。
 
このところ、六月の大阪北部地震、七月の西日本豪雨、八月からの相次ぐ台風の襲来、そして今度の北海道地震と、多くの災害が日本列島を襲っています。これ程立て続けに災害が続く年も少ないかと思いますが、これらは私達への天からの警告ではないかと感じる方も多いのではないでしょうか。
 
かつて弘法大師が二十代の若い頃に著された『三教指帰』の書き出しに「天朗らかなるときは則ち象を垂る。人感ずるときは則ち筆を含む」と書かれているように、少なくとも平安時代以前から人々は天変地異の中に天(神佛)の意思を感じ取っていたことが分かります。
 
その意味で、様々な災害を伴う近年の異常気象や地震が私達に何を悟らせようとしているのかを考える事は、それなりに意味のある事ではないかと思います。私達が天地自然への怖れと感謝の心をしっかりと持ち続けることが、いかに大切かを考えさせられる昨今であります。
 
損なわれつつある日本人の大切な伝統行事
 
感謝と言えば、目の前に迫った秋分の日を中心とする秋のお彼岸は、二千年以上に亘る歴代の天皇陛下が御自身の御先祖様の御霊に感謝の真心を捧げられた「皇霊祭」がその起こりであります。百二十五代連綿と続く歴代の天皇陛下の御先祖様を大切にして来られたその御心を、佛教が真剣に大切に受け止め、そしてその御心を広く日本の津々浦々の我々に広め伝えて来て頂いたのが春秋のお彼岸の行事です。
 
そのお陰で私達は、お彼岸にはお佛壇やお墓の掃除をして家族でお参りしたり、お寺にお参りに行ったりと、御先祖様の御霊との心の交流を大切に育てられて来ました。このような、皇室の行事を起源とする麗しき日本人の伝統行事が、近年では少しずつ、しかも確実に薄らぎつつあります。
 
それは最近急激に増えている「墓じまい」や「散骨」と言った、これまでに無かったような新たな風習や行動として現れて来ました。当寺には檀家が無く、葬式法事を殆ど行って来なかった関係で、あまり実感することのなかった事態でした。しかし二十六年前に開設した蓮華院御廟(霊園)の関係で、先のような社会の変化を実感しています。
 
蓮華院御廟に込められた先代真如大僧正様の願い
 
先代が霊園の開設を発願されたのは、一時期佐賀の東妙寺の住職を経験される中で、当玉名地域が佐賀と比較して余りにも御先祖様に対する様々な習慣がおざなりである事を実感されたのが大きな動機でした。
 
先祖を大切にしない家は栄えない。またそのような地域も発展しないと言われるのが口癖でもありました。そんな中で、ある蜜柑農家が広い蜜柑園を閉鎖するに当たって、是非その土地を買って欲しいとの話が舞い込んで来たのです。
 
私は少しでも安価に入手すべきと考えていましたが、先代は「相手の希望額を一切値切ってはならぬ。土地代を値切れば相手に恨みや執着が残る。その様な土地を霊園にしても、決してその霊園は安定しない」と言われたのです。そして「この霊園事業で必要以上に収益を上げてはならぬ!」とも言われました。その結果、現在の霊園は立地条件や設備に対してかなり安価に価格を設定して、現在に至っています。
 
最近の「墓じまい」をめぐる自分勝手な思い違い
 

「墓じまい」に関するテレビ番組や報道によれば、墓じまいの原因は「遠くにあるお墓をお守りするには負担が大きすぎる」「後を守る子孫がいない」「後の世代に迷惑をかけたくない」などの理由が挙げられています。
 
立地条件や経済的な負担に対しては何とも言えませんが、「後の世代に迷惑をかけたくない」と言う理由は、一見まともな意見である様にも感じられます。しかし子孫が迷惑と感じるか感じないかは、現在の世代が決めることではないはずです。むしろその意見の当人が、御先祖様をお祀りする事を心のどこかで迷惑と感じていたり、負担と感じておられるのではないかとも思います。
 
親が子供を育てる時、ほとんどの親は決して子育てを「迷惑」などとは思っていなかったはずです。しかし、親孝行を美徳と教えられて来なかった戦後世代の子供の方は、年老いた親のお世話を心のどこかで「迷惑」と感じてしまっているのかもしれません。その様な親子関係の変化が、御先祖様への供養やお祀りに対する心のあり方を変えている、大きな原因ではないかとさえ感じるのは私だけでしょうか?
 
お互いに迷惑をかけ合う事が世代間を繋ぐ心の交流
 

「迷惑をかける」で、一つ思い出した事があります。
それは二十三年前の阪神淡路大震災で、現地の神戸市須磨区で約一年間ほど支援活動をしていた時の弟子からの報告です。
 
あるお婆さんと弟子の一人が話をしていた時、そのお婆さんから「わたしの様な何の役にも立たない者は、生きているだけで周りの人たちに迷惑をかけている」としんみりと話されたそうです。すると、その弟子は「お婆さん、あなたはこれまで存分に働いて来られたはずです。少々体が不自由で周りに迷惑をかけたっていいじゃないですか。あなたが周りに迷惑をかける事が、周りの若い人たちの優しさや思い遣りの心を育んでいるはずです。安心してお世話を受けて下さい。それがあなたの大切な役割かもしれませんよ」と伝えると、お婆さんはニッコリとして安心した様な笑顔になられたそうです。
 
この様に、人はお互いに迷惑をかけたりかけられたりして生きていくのではないでしょうか?まして親子・兄弟・夫婦の間では、お互いに迷惑をかけ合う中で互いの絆がより強く、しっかりと結ばれて行くはずです。
 
さらに言えば、子供は親から受けた無限の愛をお返しすることで人として成長し、恩返しの中からなお一層、親や御先祖様の有難さを感じて行くのではないでしょうか?この様に、親がそのまた親である祖父母を大切にしている姿を子供に見せることで、その子は親の有難さをさらに深く実感し、子供自身も親を大切にする心を育てて行くことが出来ると確信します。
 
人は大なり小なり互いに迷惑をかけ合いながら生きて行くしかないのです。「子孫に迷惑をかけたくない」という思いは一見良いことの様に感じられますが、それは逆に親不孝ならぬ〝子孫不孝〟となっているのかもしれません。
 
御先祖様を大切にする後ろ姿で親を大切にする子供を育てよう
 
九月二十四日に行う「子供の詩コンクール」の表彰式は、なんと今回で二十九回目になります。平成二年に始めたこの催しは、先代の世代が確実に持っておられた「親を大切にする心」、ひいては「先祖を大切に思う心」を何としても「次の世代に引き継いでもらいたい」という先代の強い思いで始まった催しです。幸いにも詩人の坂村真民先生との有難い巡り逢いの中で、真民先生を始め多くの方々のご協力を頂くこともできました。
 
この様な社会的な運動はお寺の単独ではなかなか出来ませんので、KAB熊本朝日放送との共催事業として二十九年前に始まりました。また、県の教育委員会や県内の小中学校の生徒や児童に働きかけるために、蓮華院が主体ではなく「親を大切にする子供を育てる会」という任意団体を設立して始まったのでした。
 
この団体の名称に、先代の強い思いと信念が込められています。先代は「孝は百行の基」という、全ての人の行動には、その大元に親を大切に思う孝行の心がなければ成り立たないという強い思いが根底に流れていたのです。
 
一般社会を始め学校教育でも、私達日本人が古来から大切にして来た「親孝行」を教え諭す機会がめっきり減っています。そして家庭で親が子供に「自分達の親を大切にしなさい」などと言えば、かえって教育効果は望めません。これはやはり学校や社会がしっかりと伝えるべき内容なのです。
 
秋のお彼岸を迎えるに当たって、御先祖様を大切にするのと同時に、まだ先祖にはなっていない親や祖父母を大切にする具体的な事を子供達に行動で示す事の大事さに改めて目を向け、そして実行して行きたいものです。合掌




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