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大日乃光






大日乃光

2018年12月17日大日乃光第2227号
苦難の人々の為に共に祈りを捧げた東長寺福岡法要

【今回のあらまし】

去る十一月二十二日に福岡市博多区の東長寺で、来日中のダライ・ラマ十四世法王猊下の下に僧侶・在家併せて千六百余人が参集し、近年頻発した激甚災害の犠牲者追福と被災者の安寧、迅速なる復興、並びに国土平安・世界平和を祈願する法要・法話会が『平安・平和への祈り in 福岡~二十一世紀を生きるための智慧の教え~』と題して執り行われました。
今年最後の『大日乃光』は、貫主大僧正様の特別なお計らいにより、同時通訳を元に、ダライ・ラマ法王猊下の御法話を掲載いたします。
 
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本日はこの東長寺において、このお堂の中で皆様方に法話をさせて頂く機会を得て、非常に嬉しく思っております。
 
最初にチベット語による『般若心経』を、チベットの僧侶と共に唱えました。続いて阿弥陀佛の西方浄土に生まれ変わる為の祈願文『極楽往生請願文』を唱えました。これは『三部経』と呼ばれる経典の中に入っているものです。それに続いて日本の方々に日本の『般若心経』を唱えて頂きました。
 
今回は、この日本の中で様々な苦しみが生じた…、本当に苦しい時期を皆様方は過ごされたわけですが、その様な時に、その障りとなる状況を容易に良き修行の道へと転換して行くための教えがあるわけです。
 
ですからその様にして死を迎えたならば、「阿弥陀佛の西方浄土に生まれ変わる事が出来ますように」という祈願文が主な内容になっているわけです。
 
そして私達は「空」を理解し、そして「菩提心」というものをしっかり学んで行かなければなりません。それと同時にこの経典に基づく教え、そしてそれを実践していく上での体験に基づく教えという、この二つの教えが釈尊の教えの中にカテゴリーとして存在しているわけです。そこで私達は正しい資格を備えた導師に仕え、そしてその教えを学んでいくわけです。
 
チベット佛教の偉大なる始祖
 
その様な事についての祈願文は、十四世紀に現れたジェ・ツォンカパ(チベット佛教最大の学僧。代々のダライ・ラマ法王の属する宗派=ゲルク派「黄帽派」の開祖)が注釈書を書いておられますが、それに基づく祈願文であるわけです。
 
先のツォンカパの書かれた『了義未了義善説心髄』という優れた著書があります。これについてはサンスクリット語に非常に秀でた学者の方がおられて、その方がヒンドゥー語に全部訳されたそうです。その方はサンスクリット語の学者として非常に優れた教授であります。
 
ある時、私はインドのベナレスで、その方にこの様な事をお尋ねしてみました。『了義未了義善説心髄』を全訳されたあなたの様な学者のお考えでは、ナーランダー僧院の賢者の方々に、ツォンカパ尊者は匹敵される様なお方であられましたか?と。
 
するとその方から、ツォンカパ尊者は匹敵するどころか、まさにナーランダー僧院の伝統を受け継ぐ最高の学者であり賢者であると私は思っています、というお返事を頂いたわけです。
 
慰霊のためにお唱えした『極楽往生請願文』
 
そこで少し元に戻りますけれども、先程唱えました阿弥陀佛の浄土に生まれ変わる為の祈願文ですが、これは私が幼少の頃、確か七歳位の頃からずっと唱え続けてきた非常に馴染みのある祈願文であります。そしてある時、私が幼少の頃にこれを一万人以上の僧侶の前で一人で唱えなければならないという事があり、とても緊張して非常に怖かったという思い出があります。
 
この様に私にとっても馴染み深い阿弥陀佛の浄土に生まれ変わる為の祈願文を、私自身ずっと唱えてきたわけです。その様な私の思いを込めて、この法要の場で唱えさせて頂きました。
 
ここで少し、この祈願文に関する解説を加えさせて頂きます。この祈願文の一番最初において、卓越した行いによってこの有情(生きとし生けるもの全て)に尽きる事なき栄光を与え、そして一回思い出すだけで、この死の神、閻魔の恐怖を遠くに捨て去り、常に慈しみの心で一切有情を一人息子の様に愛しんでお心を向けておられる、天界と人間界の優れた師である無量寿阿弥陀佛(如来)に礼拝致しますという、この帰敬偈から始まっています。
 
少し長い祈願文ではありましたが、私達が為すべき事は、「空」の見識を心に育み、そして宝の様に尊い菩提心を起こす事によって、私達が死に直面した時に、阿弥陀佛のお導きによって西方浄土に生まれ変わる事が出来ます様にと、心から祈る内容となっております。
 
慰霊のためにお唱えした『般若心経』
 
私達は今回、慰霊法要のためにこの場に集まって頂いたわけですけれども、皆様方の国では地震が起きたり集中豪雨が起きたりと、大変な苦しみを味わって来られたわけです。私は、日本の方々がその様な状況にあるという事に非常に心を痛めて参りました。
 
その様な状況において、私達が『般若心経』を唱えるという事は非常に大切な要素となってくるわけです。この『般若心経』をご真言の部分「羯諦羯諦波羅羯諦 波羅僧羯諦菩提薩婆訶」と共に唱えて下さったならば、必ずや被災者の方々、また犠牲になられた方々の為に役立つ事だと私達は考えているわけです。
 
釈尊が初めに説かれた苦しみの因果応報
 
ここで釈尊がお説きになられた佛法について少し考えていきますが、釈尊が最初にお説きになられたのは四つの聖なる真理、「四聖諦」(苦諦、集諦、滅諦、道諦)と呼ばれる教えを説かれたわけです。
 
そして私達には常に苦しみがあるという事を、その「四聖諦」の教えの中で説かれています。
そこで苦しみについて考えて行きたいと思いますが、苦しみには三つのタイプがあります。
苦痛に基づく苦しみ、変化に基づく苦しみ、そして偏在的な苦しみです。
 
この様な苦しみが生じるのは何故かと言いえば、苦しみは苦しみを作り出す原因なしには生じません。私達の苦しみというものは自分自身の幸せを壊すものであり、その原因を作ってしまえば、私達の心の中に将来的に苦しみを生み出す事になってしまうわけです。
 
それは即ち他者に対して害を与えたり、或いは苦しめてしまった結果として、自らの身に苦しみという形で果報となって戻って来るわけです。ですからその様に他者を害する様な行いというものは、不徳の行いと呼ばれています。不徳の行いというものは、将来的に私達に苦しみを生じます。
 
そこで私達はそのような事のないように、良き行いをする事によって、私達が将来的に幸せになるような「因」を作って行かなければならないわけです。
 
ですからその様にして苦しみ、そして幸せというものが存在しているわけですが、本質的には私達は常に安らかな心を維持するという事に、先ず努力をしていかなければなりません。
 
苦しみが生じるという事は、即ち自分自身が罪の有る悪い行いをしたという事に原因があるのであり、私達のかき乱された心から、その様な悪しき行いに従事してしまうという事が生じてきてしまうわけです。
 
『般若心経』の深い智慧、「空」の理解が私達を救う
 
そこでこの煩悩というものには様々な種類が存在していますけれども、「三毒」と呼ばれる「執着」、「怒り」、そして「無智」の三つの中で、根本的には「無明」、即ち私達が常に見ている全ての物には実態があるのだというとらわれ、これが私達を悪しき行いへと駆り立ててしまうわけです。
 
つまり私達はこの様な、ものの究極的なあり方というものに関して無智であるが故に、誤ったものの考え方をしてしまい、自分が見ているものに対して誤ったアプローチの方法をとってしまうわけです。
 
それに対する対策が、「空」を理解する事であり、「空」を理解する事によって、この世に存在する全ての現象には、一切、固定した実体性というものが微塵程も存在しないのだという事への理解が必要となるわけです。
 
ですから苦しみの根本には、私達がなしてしまった悪い行いが存在しています。つまり苦しみの原因となるのは、私達自身が持っている煩悩というものと、そして煩悩に基づいて為した悪しき行いが在ります。ですから私達はこれらのものをくい止めるために、正しい対策を講じて行かなければなりません。
 
それが究極的には、全ての物には微塵程の不変の実体性もないという事を理解する、「空」を理解する事を為していかなければならないわけです。そこで先程唱えた『般若心経』においても「色即是空空即是色 色不異空空不異色」と、「人心四苦の法門」が説かれているのです。
 
この事を理解するためには二つの真理、即ち世俗の真理と究極の真理を根本として、それに基づいて四つの聖なる真理を理解するための実践をしていく必要があります。ですから根本的にはこの「無明」というものが、私達自身を苦しみに貶めているものであるという事を理解して頂かねばなりません。
 
そこで私達は何らかの苦しみを抱え、苦しみにあえいでいる人達を見る時、この『般若心経』を唱えると、その方にとって大きな利益がもたらされると言われていますので、自分自身の苦しみから解放されるためにも「空」という見解について考えると共に、『般若心経』を唱える事は非常に大きな御利益があるわけです。
 
菩提心を心に抱き他者のためにお唱えしよう
 
私達は自分一人の事だけではなく、常にこの「空」に存在する無限の数の有情達(生きとし生けるもの)に対する「利他」の思いを育んでいかなければなりません。ですからこの究極的に宝の様に尊い「菩提心」と呼ばれる利他の思いを皆様方が心の中に育んで頂いて初めて、私達は内なる平和を獲得する事が出来ます。
 
ですから私達が為すべき実践は、この尊い「菩提心」を起こす事です。そしてそれを益々高めて行く事と、「空」への理解を結び付けて行く事によって、最終的に私達自身が仏陀の境地に至る事が出来ると、この様に述べておられます。
 
自分のみならず、他者の全ての為にこの御利益のある『般若心経』を唱えるという事は、本当に素晴らしい行いに繋がっていくのです。合掌




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