2019年02月18日大日乃光第2232号
子供や孫達の未来の為に新たな良き家族の習慣を始めよう
暗い報道に心を傷める日々
まだまだ寒い日々が続きます。特に北日本の各地は記録的な寒波に見舞われています。しばらくは厳しい日々の中で、くれぐれもご自愛ください。
しかし私達の心をもっと寒からしめているのは、ある父親や母親が幼児や児童に体罰や虐待をして、ひどい時には殺してしまうという事件が度々報道されている事です。
児童相談所や警察への相談や通報は年々増え続け、今や児童虐待相談の件数は年間十三万件を超えています。(厚生労働省による最新の調査報告)
こういった事実に、心が凍りつきそうな悲しさとやりきれなさを感じている方が多いかと思います。
しかも近年、その数は急激に増え続けています。特に悲しく驚かされたのは、生後わずか二ヶ月の乳児に対し、父親が体に数ヶ所のアザができるほど暴力を振るっていた、という報道でした。
私の一番幼い孫は生後三ヶ月、甥の二人目の子も同じく三ヶ月です。どちらも親の保護がなければ一日として生きていけない全くの無防備な幼な子です。そんな乳児に親が暴力を振うなど全く想像もできません。皆さんもそうだと思います。このような悲惨な事が一体なぜ起こるのでしょうか?
連鎖する虐待の因果関係
報道の多くは学校や教育委員会、更には児童相談所などに関心を向けていますが、私はそれらの児童虐待をしている親の方にどうしても関心が向かいます。
三十代四十代のそれらの父親と母親はどんな人々なのでしょうか?そしてその人達だけが特殊な異常者なのでしょうか?そして、このような親を育てたそのまた親は、どんな育て方をしたのでしょうか?こんな疑問が次々に心を駆け巡ります。
思えばこのような異常な親達を育てたのは、まさに私の年代(六十代)と重なります。
全ての事柄には必ず原因があり、様々な縁があるとします。これが佛教的な考え方です。
そして「児童虐待は連鎖する」とも言われています。親から虐待を受けた人は、自分が親になった時、子供に虐待をしてしまうというものです。
その意味で言えば、私自身がどのような子育てをしたのかを少し振り返ってみたいと思います。皆さんもご自身の子育てを振り返ってみて下さい。
たった一回の体罰
私には三人の娘がいますが、その時代は「子育ては妻がするもの」といった感覚でした。そのせいもあり、私は余り子育てに積極的ではありませんでした。
そんな中、私はただ一度だけ長女に体罰をしたことがありました。長女が三才の頃だったと思います。寺の職員の方に長女があまりに失礼なことをしたので、私はすぐさま音が出るほど強くお尻を叩きました。その瞬間、長女は余りに驚いたせいか、泣き出すこともなく、キョトンとしていました。その後、妻が本人に丁寧に説明してくれました。
私が子供に体罰をしたのは、この一回だけだと思います。その後、随分経ってこのことを本人に聞いてみましたが、本人は全く憶えていませんでした。
また、私は余り子育てに積極的でなかったと先に言いましたが、ひとつだけ心がけていたことがありました。それは三人の娘が学校に行き始めた頃、ほぼ毎朝家族五人分のミルク紅茶をいれて、一緒に飲み、三人の娘に本堂で簡単なお参りをさせてから、祖父母に挨拶をさせる事を習慣にさせました。私が子育てに関わったのは、たったこれだけと言ってもいいかもしれません。
良き生活習慣は家族の絆を深める
それに比べて、三人の婿さん達は感心、いえ感動する程の「育メン」ぶりです。夫婦二人だけで育てているのと、寺内で多くの人に囲まれての子育てとの違いはありますが「今の若いお父さんは凄い!」と率直に思います。
つい自分の事が長くなってしまいましたが、私が言いたかったのは、ほぼ毎朝子供達に佛様にお参りさせた事、祖父母に挨拶をさせた事、これは良かったのではないかと思っています。
そして大家族(当時は十二、三人)の中での生活で、家族だけの「紅茶タイム」を設けたのも良かったと思っています。家族には家族だけの良き思い出や良き習慣が大切であると思います。
今でも年に何回かは、三人の娘と三人の婿さん達、そして孫達が集まる事があります。そんな中で時たま「紅茶タイム」の事が話題に上がり、私が全員の紅茶をいれます。こんなささやかな家族の思い出が、家族の絆の一つにはなっているように思います。
お寺参りも良き人間づくり
少子高齢化の進展、そして核家族の定着、こんな中での若い夫婦だけでの子育て、この流れを変えることはできないでしょう。
であるならばなおさらの事、なるべく家族全員で、時には祖父母も共にお寺にお参りして頂き、他の家族連れの同心の信者の皆さんと一緒に同じお経を共に唱え、多くの皆さんと共にお斎を一緒に頂くといった体験は、子供達にとっても得難い良き体験となることでしょう。
またお参りまでのそれぞれの道程の中での家族の語らい、このような体験の積み重ねを「家族の良き思い出」として頂きたいものです。その他にも、それぞれの家族で家族の良き思い出や、その家族で決めた良き生活習慣をいくつか、是非築き上げて行って頂きたいと、切にお願い致します。
私達の地域社会さらには国家社会は、あくまでそれぞれの家族を単位とする一人一人の生き方の集積が基礎となって作り上げられます。それはまた過去の私達の家族の思い出としての家族史、更には地域の歴史の総合としての国家の歴史の中で、歴史として次の世代への物語として引き継がれて行きます。
民族の誇りの伝承が良き人間性を育む
先の大戦以来、私達日本人は過去の輝かしい素晴らしい歴史よりも、暗い挫折の歴史や失敗の歴史を学校を中心とする歴史教育の中で繰り返して来たように思います。その反面、私は少年時代に父が過ごした戦争時代の生き方を直接聞く事がありました。
「お父さん。戦争の頃、自分から特攻隊に志願した時どんな思いだった?」と聞いた事がありました。それに対する答えは、「自分が命を投げ出す事で、両親や祖父母、そして故郷が蹂躙されるのを少しでも遅らせる事が出来れば本望と思った」というものでした。その時の感動は未だにはっきりと憶えています。その感動は当時の否定的な歴史観から私が抜け出す大きなきっかけであった様に思います。
一方で三人の娘達がまだ小学生だった頃、アジアの国々の独立に日本が果たした役割を具体的に話してあげた事がありました。彼女達は目に涙を浮かべながら私の話を真剣に聞いてくれた事を、昨日のように憶えています。この様な家族の中での語らいが、父祖の時代の生き方と日本の歴史を結び付ける、家族の物語を生み出すのではないかと思っています。
家庭教育がより良き未来への道筋
どうか皆様も、それぞれのご両親や祖父母の皆さんの、子や孫を思う熱い思い、そして地域や故郷への愛着、更には日本の輝かしい歴史(民族の物語)を子や孫達に熱意をもって伝えてあげて下さい。その事が今を生きる子供達に暖かで前向きな、生きる姿勢を正す役割を果たすに違いないと確信致します。
日本や地域の未来、更には親子のあり方は、私達の生活の在り方と歴史を繋ぐ役割によって、いかようにも変わると思います。どうかその様な責任感を持って子や孫達に接して頂きたいと、心からお願い申し上げます。合掌
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