2019年03月07日大日乃光第2234号
れんげ国際ボランティア会の発展は全国信者の慈悲行の賜
桃の節句に始まった菩薩行
いよいよ三月に入り、春の足音が確実に感じられるようになりました。しかも今日は桃の節句、お雛様の日です。私の三人の娘達が幼かった頃は、毎年妻がお雛様を飾って皆で祝っていました。
先代の真如大僧正様にとって初孫の二回めの桃の節句のこの日、この法座から先代は歴史的な法話をされました。それは当時マスコミで盛んに報道されていたカンボジア難民への募金を「同胞援助」として呼び掛けられた事でした。
大乗佛教の基本精神である、「菩薩行の実践」としての奉仕行の歩みの一歩でした。菩薩行とは、たとえ自分自身が未だ苦しく辛い境遇にあったとしても、さらに苦しく辛い状況にある人々に対して、出来うる限りの奉仕を実践する事が、その要諦です。
そしてその募金活動に「同胞援助」と名付けられた事が、この募金が単なる一過性のものに終わらず、一つの運動となって現在まで続く要因にもなりました。
それは、世界中で困難な境遇にある人々を、私達と同じ同胞(はらから)と位置づけ、その苦しみや悲しみを同じ目線で自分の事として受け止めること、まさに菩薩の同悲の心で受け止める心構えを持った活動へとつながる出発点となったのでした。
その後、同年十一月の奥之院大祭の法話で「一食布施」を提唱された事によって、この募金活動は本格的な体験と共感を伴う、蓮華院の信仰の大切な一部となったのでした。
「同胞援助」と「一食布施」とは
本誌を読まれてまだ日の浅い方々のために、少し説明を致します。「同胞援助」は難民など困難な境遇にある世界の人々のために、同じ人間として、同じ佛教徒として、いつでもどこででも、その思いを募金して頂くものです。
当寺ではご縁日や準ご縁日などの法要の後、必ず法話を致します。その後、お参りの皆さんお一人お一人に「洒水加持」(しゃすいかじ=お清めをした水を頭上に当てて加持する作法)を致しますが、その時に募金をして頂いております。
一方「一食布施」は月に一度か二度、一日三食の内の一食を断食して頂いて、その経費の分を募金して頂くというものです。
当寺では毎月八日(真如大僧正様の御命日)と二十日(開山上人様の御命日)には朝食を食べない日と定め、毎月実行しています。この三十九年間毎月実践して来ました。その度に少しだけひもじい思いをして、世界中の飢えに苦しむ人々の苦しみの、ほんの一部を体感するという募金です。この「一食布施」募金の提唱により、募金額は一挙に増えました。
浄財を活かす組織づくり
それに加えて、これらの募金された浄財を実際にどの様にどの範囲で使うかも検討されました。まずはアジア地域に限定し、加えて佛教徒への支援とする事。そして今一つ大切な事は、必ず支援する現場に足を運び、その地の実態を把握する事が決められました。
この事によって、信者の皆さんの真心のこもった浄財がどの様に使われ、どの様に役立っているのかを報告できる様にしました。そしてこれらの基本方針は、計らずも国際協力NGO(国際的な支援を行う民間団体)の条件を充分に満たしていたのでした。
平成四年に先代の後を継いだ私は、これまでの蓮華院誕生寺国際協力協会(ARTIC=アルティック)を、さらに永続的で開かれた団体とすべく、平成二十七年にNPO法人「れんげ国際ボランティア会」として法人格を取得しました。
これは平成七年の阪神淡路大震災に際し、多くの個人と団体が被災地の支援活動を行う中で始まりました。それぞれの団体がより充実した活動を行うためには公益的な法人格を持つ必要性があるという社会的な要請として、NPO法人格が求められた結果としての法整備でした。
海外での難民支援が国内の被災地支援に生きる
そんな中で、何と言っても欠かせないのが人材です。以前から寺に出入りしていた久家誠司君に「アルティックの事務局長として働いて欲しい」と声を掛けたところ、一大決心をしてくれました。
先に触れた阪神淡路大震災でアルティックの活動が始まったのは、まさに久家君が現地調査を申し出てくれたお陰でした。当時はまだ余震が続く大変危険な状況でした。
そんな中で忘れもしません。震災発生から三、四日後、いつになく真剣な表情で、「私に震災の調査をさせて下さい!…」と、相談というよりも嘆願されたのです。その時、一瞬の間の中で『彼に万が一の事があったら、彼の奥さんと二人の子供は必ず面倒を見よう…』と決断し、「ウン!解った!!充分に気を付けて行って来てくれ…」と答えていました。彼が現地に出かけて以来、私の方に時事刻々と報告が入ると同時に、久家君の無事を必死で祈り続けました。
この時、宗務長は当寺で所有していたマイクロバスの座席を全て外して畳を敷き、久家君の報告に合わせて緊急支援物資を積み込んで行きました。以来ほぼ一年間、神戸市須磨区を中心に支援活動を続けました。
その間、国際協力の現場で学び、体験した事が大いに役立ちました。例えば避難所から仮設住宅に被災者が移っていく中で、住人同士の融和や仮設住宅でのコミュニティ作りなどは、タイのスラムでの支援活動の経験が大いに役立ちました。
最後に現地を撤退する時には、被災していない周辺の人々に私達の活動に参加して頂き、さらにその人たちによる活動を支援するといった方向でスムーズに移行できました。これらはタイやカンボジアなどで、自立に向けた支援の経験を存分に活かす事ができたお陰でした。東日本大震災では、被災地からかなり遠いという状況から、海外で現地の団体を支援するといった体験が存分に活きました。
充実する国際協力の支援事業
八年前からは日本財団とのご縁で、平野君の主導によりミャンマーのイラワジ管区で既に八十校の学校建設が完了し、平野君の信念に基づく先生方の再教育センターの設立が出来ました。最終的に、そのセンターは現地の行政に移管する予定です。あと二十校ほど学校を建設し、それが終われば次の地区に場所を移し、更にミャンマーの教育支援を続けて行く予定です。
我々の国際協力の基本方針は、文化教育支援の中で、あくまで現地の人々の自立を支援する事に尽きます。過剰な支援は却ってその人々に依頼心を起こさせ、結果的には逆効果となってしまうのです。
一方、二十年ほど前からはチベット難民支援を開始しました。これは本院の五重塔建立に当たり、堂内の荘厳にチベット曼荼羅とタンカ(チベット佛画)を難民でもあったチベット佛教ニンマ派のコーチャン・リンポチェ師の絶大な協力を頂いたご縁によって始まりました。
既に何度もお伝えしている様に、チベット本土に伝わる口承文学や民話など、毎年三、四作を、亡命政府の文部省と打ち合わせの上、各千冊ずつインドで印刷して、各チベット難民居留地で配布して来ました。これまでで、その総数は七万冊を超えています。
現在の日本国内で、チベット難民支援を継続的に行なっている団体はあまり多くはありません。しかも認定NPO法人格の様な公益性の高い団体で、チベット難民支援をしているのは当会だけかもしれません。
そんな中で、いよいよ本格的にインド国内でチベット難民だけでなく、周辺のインドの人々まで対象とした支援活動を開始することを先の理事会で決定しました。その為に久家事務局長と準教師の伊藤さんが、去る二月十七日から調査のためにインドに渡り、明日(三月四日)無事に帰国する予定です。その時の調査結果は次の機会にご報告致します。
全国信者の菩薩行あっての国際協力三十九周年
いずれにしても、本日三十九周年を迎える当寺から始まった国際協力は、確実にその規模を広げ、内容も充実して来ました。
これらの活動は全国の信者の皆さんが、たゆまず「同胞援助」や「一食布施」を実践して頂いた賜であります。三十九年にも亘ってコツコツと、信仰に基づく募金を続けて来て下さったお陰です。
今日、飛躍的な活動の深化と発展を遂げている事に、御本尊皇円大菩薩様、開山上人様、真如大僧正様に成り代わり、篤く篤く心から御礼申し上げます。合掌
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