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2019年08月08日大日乃光第2248号
明るい見通しが開けて来たミャンマーご遺骨帰国への道

それぞれの地域で、天災や災害はなかったでしょうか?私も今年はずっと、災害がない様にと真剣に拝む日々が続きました。お寺にも、全国各地から心配のお電話が掛かってきております。まだまだ安心は出来ませんが、気持ちを引き締めて、皆さんどうか息災にお過ごし下さい。
 
国への移管が実現したミャンマーのご遺骨帰国運動
 
さて、私は今から七年前にミャンマーの元日本兵のご遺骨の帰国のために「ミャンマー/ビルマご遺骨帰國運動」という組織を創って運動を始めました。仲間達を募って全国に呼び掛け、総額四千万円を超える資金が集まり三年、四年と現地で調査を続け、色んな情報が続々と挙がりました。この事は本誌を通じて皆さん達に何回もお伝えしておりました。
 
三年前から、これは国の責任で実行するべき事案と考えて頂いた国会議員の方々により、議員立法(議員が法案を作り、国会に要請し、可決されれば法律として成立する)が提案され、平成二十八年にようやく「戦没者の遺骨収集の推進に関する法律」が可決しました。「よし!これでもう国がやってくれるんだ、そこまでは頑張ろう」と、四年ほど頑張ってきたわけです。
 
ところがいざ法律が出来て、施行の実態を耳にすると、これまで募金でやってきたような発掘や調査に行く人達の交通費や宿泊費はもちろん国から出るのですが、非常に残念な事に一番肝心の、どこにご遺骨が眠っているという現地での調査費用が出ないのです。「なんだそれは!」と、心底失望しました。
 
戦争が終わって、もう七十四年も経ちますが、今ならまだ戦時中の出来事を実際に見聞きした人達がかろうじて現地に居られるわけです。ミャンマーでも「ここに沢山埋葬されましたよ」「ここは戦事病院がありましたよ」「ここに遺体を埋めていましたよ」などと、実際に見た人達が生きておられる間に進めなければ調査が出来なくなるのです。
 
ミャンマーだけでもまだ四万六千柱のご遺骨が帰っておられません。玉名市の人口の半分以上ですよ!私は国際協力活動などでご縁のあったミャンマーに限っての関わりですが、世界中のご遺骨を合わせたら百万柱を超えています。
 
志のある民間団体との交流
 
「JYMA日本青年遺骨収集団」という組織があります。この組織は昭和四十二年に「学生慰霊団」として発足し、「先の大戦で亡くなった全ての邦人戦没者の帰還(ご遺骨の収集)」「慰霊(奉慰)顕彰事業の次代への継承」「真に平和的で国際的視野を持つ日本の青年の育成」の三つを定款として、趣旨に賛同する学生や有志の社会人達がボランティアとして活動し、それを次の世代へと引き継ぎ伝えながら活動を続けてきた組織です。
 
戦没者の遺骨収集の推進に関する法律が可決した頃、そういう団体とも巡り合いました。
こういった団体なら未来へと繋がって行って、次々と若い世代が参加してくれると思い、現地の井本勝幸さんをこの団体に繋ぎました。しかし「国にもそういう法律が出来た」「これで良かった」と思ってみたら、実態は先に述べたように調査費が出ない。
 
費用は年間大体一千万程かかります。十三のグループに三人ずつ、一年間。もちろん雨季には調査出来ませんが、彼らにも生活がありますから、全くの無報酬でやってくれとは言えないわけです。そうすると交通費から何から合せると約一千万かかる。
 
困ったなと思っても、これ以上続けるにしても、ほとんど募金が集まらない状態になっていました。「このままでは申し訳ない」と、私は自分の体調を壊すほど悩みました。時には「お寺の本会計からでも出すべきじゃないか」と思った事もありました。
 
旧態依然のお役所気質への苦悩
 
新しく出来た法律ではどうかと言えば、今まで通り厚生労働省の担当の援護局の職員さん達が、計画的にどこどこに行くと決めて調査をしています。
 
どんな風にやっているのかと現場に一緒に行った方に聞いてみると、その付近に「この近くでご遺骨の埋まっている場所を知っている人いませんか?」とビラを配っているそうです。ですが、それだけでは応えてくる人は殆どいないそうです。そして何か情報をもたらした人にはボールペン一本の謝礼なのだそうです。
 
今まで必死に調査を頑張ってきた人からすれば、本当にやる気があるのかと、もう生温くて熱意もなく、単なる帳面消しをしている感じしかしないのだそうです。中には一所懸命調査している方がおられるかもしれませんが、彼らが見た範囲ではこれが実態だそうです。
 
その他にも私なりに色んなお付き合いの中で、硫黄島のご遺骨収集をしている人もいれば、その他の地域で活動している人、様々な人との出会いがありましたので色々聞いてみると、「いや全然変わりませんね。役所の仕事ですな」とか、「本気で英霊の皆さん達を、何とか日本にお迎えしようという熱意が感じられない」と言われるのです。役所というのはこういうものかと思いました。それから暫く活動は中止しなければ仕方ないのかと思って、非常に私も辛かったのです。
 
再び立ち上がった〝ビルマのゼロファイター〟
 
そういう中で、昨年、井本勝幸さんが民間の活力を活かさなければ、このままではどうにもならないと腹を括りました。我々にもこれ以上迷惑をかけられないという思いもあって、「日本ミャンマー未来会議」という組織を福岡で立ち上げたのです。
 
この組織は「ミャンマーでの旧日本軍兵士の遺骨調査・帰還に関するサポート活動。さらに、ミャンマーでのビジネスや事業を計画して、長期的な遺骨調査の活動、少数民族地域に仕事や教育の支援を図る」というコンセプトの元、ミャンマーでビジネス展開や商取引等をしている人に声をかけて仲間達を集め、約三十名程で発足しました。
 
最初はミャンマーのために何か役立つことをしようと、百万円ほど募金をしてくれた人も居られたそうです。会社経営や貿易をしている人達ですから、資金的にはまあ何とかなるわけでしょう。
 
そういう中で、その発会式をするのでぜひ来て下さいと案内がありましたが、どうしても用事が重なって行けませんでした。その後もずっと心配をしながらも、途中で投げ出した形になってしまい、申し訳ないと思っておりました。
 
ところが「ミャンマーの現状をぜひ報告したい」と今月の九日、井本さんがわざわざ来てくれました。ここから先は彼の現状報告です。
 
継続の出来る活動基盤を構築
 
彼がミャンマーに渡って、もう八年位になります。少数民族のリーダー達、それから何とミャンマー国軍の上層部とも信頼関係が出来上がっています。
 
イオングループ傘下のコンビニエンスストアに「ミニストップ」があります。そこに今、ミャンマーからパパイヤが入って来ています。
 
どういう経緯で入ったかと言うと、実は彼が軍の上層部の偉い人に直接対談をした所、「ミャンマーではパパイヤが大量に収穫出来るので、世話をして欲しい」と話を持ちかけられ、ミニストップのコンビニエンスグループに繋ぎ、その収益の何パーセントかをご遺骨調査のための経費に使わせて欲しいと了承をとって始めたそうです。
 
そういう経緯で、今何万トンという量のパパイヤが日本に入ってきているそうです。ミャンマー側から見ても、今まで通り国内だけで販売してもたいした金額にはならなかったものを、日本が定期的に大量に買ってくれるようになったわけです。もちろん井本さんの「未来会議」にも、ご遺骨帰国のための活動資金が入る。
 
その他にも色んな仕組みが模索されているそうです。中には少数民族の居住地域から、高級食材の「燕の巣」を日本に輸出する話もあります。
 
また石鹸や食用植物油、バイオ燃料等として使われるアブラヤシの実から油を搾ったかす、それこそ何百万トンという大量の搾りかすをマレーシアかどこかの発電所に繋いだ話もあります。油やしの搾りかすはよく燃えて、石炭と変わらない程の発熱量になるのだそうです。しかも、もともと植物由来ですから環境負荷も少ないのです。
 
日本にはまだ入っていないのですが、そういった色んなビジネスの仲介をして、その収益で活動を再開されたわけです。
 
肝心のご遺骨ですが、これは今でも続々と発見されています。彼曰く、「後二、三年。せいぜい五年位でご遺骨の場所を特定していかなければ、もうその事を知る現地の人が居なくなってしまいます」と。現地にはまだ九十歳を超える人もおられるわけです。また聞きの人でも、七十代以上となっていますので、もう限界が見えているというわけです。
 
実を結ぶ〝布施大道〟の御奉仕
 
そういうわけで、一年間に何と一千五百万円もの調査費が出たそうです。「本当に、よくやったね」と、心からねぎらいました。
 
本人曰く、私も何度も、もう止めようか、どうしようもないと思った時に、何回も夢の中に旧日本兵の人達が出て来たそうです。「おいお前は、このまま逃げるのか!俺達を何とかしてくれ」と、そういう夢を何回も見るのだそうです。彼自身も現場にいて、その苦しみの思いを私以上に肌で感じ、何とかしなくてはと思ったそうです。「窮すれば通ず」とはこの事です。
 
やはり商売となると、お互いが利益を得られるわけです。初めからその一部を活動資金に回すように契約をする。という事で、「川原さん、もう安心です。資金的にはもう大丈夫です。本当に長年お世話かけましたね」と、彼はしみじみと語ってくれました。
 
三年前からのその後の経緯を本誌には書けないままで、その結果を皆さんにご報告出来ないというのは、内心忸怩たる思いが心の底によどんだままだったのです。
 
こうして彼が報告に訪ねてくれたお陰で、一番最初に信者の皆さん達がそれぞれに出して頂いた浄財が、これからの何百柱、何千柱という英霊のご遺骨に帰国して頂くための道を切り開く、そのための第一歩を始める大きな大きな力になって頂いた事に、改めてここでお礼申し上げます。本当に皆さん有難うございました。合掌




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