2020年04月11日大日乃光第2270号
史上未曽有の苦難に一人びとりが凛として立ち向かおう
近代五輪史上初の英断
去る三月二十四日の夜、東京オリンピック・パラリンピックが新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)への配慮から、開催を「一年程度延期する」ことが合意されました。
近代オリンピック百二十四年の歴史の中で、二度の世界大戦の戦時中だった一九一六年と一九四〇年、一九四四年に開催が中止されたことはあっても、開催が延期されるのは今回が史上初めてになるそうです。
安倍総理の記者会見の後、東京の組織委員会とIOC(国際オリンピック委員会)は共同で、WHO(世界保健機関)の提言を踏まえ「選手たちや全てのオリンピック関係者、そして国際社会の健康を守るために」と前例のない、厳しくも勇気ある決断を下した事を明らかにしました。
この決定は世界中から概ね「正しい判断」として受け止められ、来年の「完全な形」による東京オリンピック・パラリンピックの開催が、今現在、世界中でウイルスとの苦闘を続けている人々への新たな希望の灯し火となる事を念ずるばかりです。
オリンピックの歴史から考えると、本来は延期ではなく中止となるはずでした。しかし安倍総理の指導力と構想力、そして世界のリーダーとの交渉力によって実現した、極めて希な出来事である事を感謝したいと思います。
予断を許さぬ疫病の蔓延
さて、今こうしている間にも刻々と世界中に拡大・蔓延を続けている新型コロナウイルス感染症ですが、前回お話ししたように治療薬やワクチンが完成したり、人類が集団免疫を獲得した暁には、風邪やインフルエンザと変らない普通の病気の一種になるのだそうです。
実際に、全年齢に対する毒性や致死率などはそれほど高くありません。インフルエンザの方がよほど亡くなる人が多いという事です。ですが治療薬がなく、治療法が確立されていないので、高齢の方や持病を抱えている方には特に重大な影響を及ぼします。
また毒性が弱いために無自覚で無症状の若い潜伏感染者が各地に移動する内に、気付かない内に感染を広げてしまうという、非常にやっかいな性質を持っているのです。中国を始め、イタリアなどの欧州諸国ではパンデミックによる医療崩壊を惹き起こし、次はアメリカと言われているほどです。
日本では選抜高校野球の中止、大規模イベントの自粛や学校閉鎖、北海道の閉鎖などの緊急措置、クラスター対策や感染者の徹底的な追跡による封じ込めが功を奏し、緩やかな経過を辿っています。それでも東京、愛知、大阪などの大都市圏では、いつ医療崩壊を惹き起こし、都市封鎖などの緊急措置が発令されるかという、全く予断を許さない状況が刻々と迫っているようです。
自分を守る事が人類への貢献
この新型コロナウイルスという人類への新たな脅威に対して、私達は一人びとりが自分自身をしっかり守る事によって、自分の愛する家族、自分の住んでいる地域社会、ひいては日本という国、さらには世界に対し貢献する事が出来るのです。
と言っても何も特別な事ではなく、風邪やインフルエンザに対する備えとほとんど変わりません。これはテレビでも毎日繰り返し伝えている事ですが、本誌でも一度お伝えいたします。
(1)健康管理を心がけて、食事や睡眠を充分とって、しっかり体力をつけてください。
(2)ウイルスは感染者からの飛沫(唾)を直接浴びたり、物に付着したウイルスに手指で触れて目鼻口(粘膜)を触る時に感染しますので、外出中は顔に手指を触れないように気を付けて下さい。
(3)帰宅時や料理前、食事の前には必ず石けんで手洗いして下さい。消毒用アルコールはなかなか手に入りませんが、普通の石けんで充分ですので、できるだけこまめに手を洗うように心掛けて下さい。
(4)マスクが手に入る方は、できるだけマスクを付けましょう。
マスクを付ける意味は、鼻と喉の粘膜を乾燥から守り保湿する点にあります。鼻や喉の粘膜が充分潤って健全な場合には、唾液や胃液によるウイルスの無害化が期待できます。
使い捨ての不織布マスクもなかなか手に入りませんが、特に口が乾き気味な方は布製の手作りマスクで構いませんので、なるべくこまめに繰り返し洗い、交換しながら付けるように心掛けてください。無自覚・無症状の潜伏感染者が、周囲に感染を広げるのを防ぐ役割もあります。
(5)都市部にお住みで人混みなど人と接触する機会の多い方は、なるべく不要不急の外出を避けるように心掛けて下さい。屋内で互いの間隔を十分確保できない状況で一定時間を過ごされる時は、こまめに換気をしてください。
思案の六月大祭開催の是非
以上の事は蓮華院でも御縁日、準御縁日の度に繰り返し、細心の注意を払って対応してきました。気候が緩やかになり、本堂でのお参りで全扉を開放すると清々しい風に恵まれるようになりました。
さて、いよいよ六月十二、十三日の皇円大菩薩御恩忌大祭を迎える時期が迫ってまいりました。今回の『大日乃光』で信者の皆さん方に結論をご案内しなければなりません。
従来通りに十二日の「功徳行」から始めて、十三日の朝七時に終わるようにすると、雑魚寝で泊まる事になります。これは最も憂慮すべき事です。窓や扉を開放できるお参りの最中はある程度は宜しいかと思いますが、夜、一つの大部屋に、大広間ならそれこそ四、五十人近く、また地下室で三十人も寝るというのはいけません。
また食事の問題もあります。梅雨時ですので、雨天の場合に屋内に密集したり、場所を閉ざさざるを得ない状況も考えられます。
本当は五月いっぱいで決めて良ければ、その頃には事態が好転している可能性もありますが、早く決めなければならないとなると、愈々実施する向きは難しくなります。
いかなるご判断にせよ、貫主大僧正様は毎朝のお参りの中で、信者の皆さんお一人お一人の無事を祈念し、事態の一刻も早い終息を念じ続けておられます。信者の皆さん方も、ぜひそれぞれのご家庭で出来る限りお参りされて、祈りの力を重ねて下さい。
生と死を見つめた出色の朝ドラ
話は変りますが、皆さん方はNHKの朝ドラ、連続テレビ小説の『スカーレット』を観ておられますか?
朝ドラではよく色んな問題がテーマになります。今回は信楽焼の女性陶芸家を主人公に、高度な芸術文化がテーマなのかと思っていたら、三月に入ると展開が変わってきましたね。
主人公、川原喜美子の一人息子、武志が若くして慢性骨髄性白血病を発症し、同世代の同じ病室で同じ白血病の安田智也と友達になり、「良い作品が出来たら一番に見せる」と約束していたのに武志が通院治療に移行した直後、容体が急変して亡くなりました。それが先週。
そして今日は、その亡くなった友達の母親から武志への書きかけの手紙が渡され、「川原たけしさんへ おれは」と書かれ、そこで途切れていた。その後に何が続いたのだろうかと思いました。僕は大学に進学したかった、旅行をしたかった、お母さんに親孝行をしたかったと…色んな事を書きたかった、やりたかったのに命が尽きてしまった。
武志は「俺は…終わりたない。生きていたい…生きてたい」と泣き出し、喜美子はただ黙って抱きしめました。
今回のコロナウイルス感染症で思いもよらず突然亡くなられた世界中の方々も、きっと同じような思いを抱かれていた事でしょう。
武志はジョージ富士川の『TODAY is』という大きな絵本に「今日が私の一日なら、私はいつもと変わらない一日を過ごすだろう」次に「君」「友達」「母」と続いて最後に「今日が父の一日なら、父といつもと変わらない一日を過ごすだろう」と思いの丈を綴っていました。要するに普段と変わらない今の幸せ、今のこの触れ合いがいいと息子、武志は書いていました。
今回のドラマは陶芸を突き詰める、そんな話がずっと続くと思ったら、生と死、生きる事と死ぬこと…非常に死という事柄に向き合った面白い作品になっている。この文が皆さんに届く頃には結末が過ぎていますが、最終的に作者がどういう問い掛けをしてくれるのか、楽しみにしています。
佛様に少しでも近づくきっかけに
開山上人(是信大僧正)様は「生きてる時も死んでる時も一緒」とか「障子や襖を開けるとあの世が見える。そういう感じ」などと、ご自身はお見えになったからよく仰いました。
開山上人様にとって、生と死は一緒。
佛教で私達がよく言われるのは、この世に生まれてきたなら必ず死があるという事です。
ですからこの世に生まれて生きている内に一つでも良い行いをして、修行を積んで一歩ずつ、少しでも佛様に近づく。そしてこの世で終るのではなく、また次の世でも修行を続けていく。
人はどうしても短い内に、「今悟りたい!」「今幸せになりたい!」「今佛様になりたい!」などと思い勝ちですが、中々そうは行かないものです。
何代も生まれ変り、死してはまたこの世に生まれ死に変わるという輪廻転生。チベットではこの輪廻転生されている僧侶を「リンポチェ」と呼びます。生き佛様です。ダライ・ラマ法王猊下もリンポチェ、生き佛様です。
私達も同じ様に生まれ死に、生まれ死にと繰り返して悟りの世界、佛様の世界に進んで行ければと、今回の朝ドラを観ながらそう思いました。
皆さん方も色んな物事をどう見るか、どう考えるか。ただ「面白かった」「可哀そうだな」だけで終わるのではなくて、自分の生き方に色んなものを重ね合わせて向き合って、考えて頂ければと思います。合掌
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