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2020年08月20日大日乃光第2282号
日本人の誇りを鼓舞された台湾民主化の父、李登輝元総統を悼む

初期台湾教育に殉じた「六氏先生」慰霊の来熊
 
平成二十一年九月八日、台湾の李登輝元総統が熊本に来られました。李登輝元総統は台湾の近代教育に尽力された、平井数馬さんのお墓参りに来られたのでした。後日の報道によって、熊本出身者にそんな先人がおられた事を、私も初めて知りました。
 
今から百二十五年前、日清戦争後の下関条約により日本が台湾統治を始めた直後、六人の教師が日本全国から選抜されて派遣されました。しかしその僅か一年後、残念な事に匪賊に襲われ、芝山巌学堂(しざんがんがくどう)で最後まで教育への志を示しながら全員が殉職されました。
 
その後、事件は台湾の教育界に「芝山巌精神」として多大な影響を与え、その就学率や識字率の目覚ましい向上に貢献し、今日の台湾発展の礎となりました。後に芝山巌は「台湾教育の聖地」とされ「六氏先生」の碑が建立され、今でも地元の人々が毎年慰霊祭を続けているそうです。
 
その「六氏先生」の中のお一人が、享年わずか十七歳で亡くなられた平井数馬さん(玉名市天水町出身)なのです。ところが四月にNHKが放送した『ジャパンデビュー』という番組の第一回『アジアの新興国』では、日本の台湾統治時代の事が極めて否定的に伝えられ、良い事が全くなかったかのように描かれました。
 
李登輝元総統が語られた日本の台湾統治の真実
 
しかし九月八日に催された「李登輝元総統ご夫妻を囲む会」では、約四十分間の講演の中で、李登輝元総統は、「私は昭和二十年まで日本人でした。先の大戦でも日本人として戦ったのです。その時の私の心には『日本精神』としての勤勉・克己・親孝行・約束を守るなどの徳目を身につけ、良き日本の教育のお陰で、世界を広く見る視点も出来ていました。これは日本統治時代の遺産とも言えるものでした」と、切々と語られました。
 
続けて、「日本は台湾に対して早く教育制度を広めてくれました。旧帝国大学は、大阪や名古屋に建てる前に、朝鮮と台湾にも旧制高校と同時に設置してくれたのです。少しは不愉快な差別があったものの、そのお陰で台湾の次世代のリーダーも育ったのです。日本の近代教育を受けた台湾人は、その内に日本人と比べて自分達の地位が低いことに気付き出した。こうして台湾人意識が芽生えました。その後、近年では台湾運命共同体を形成するようになったのです。
 
日本が大東亜戦争に敗れてからは、大陸から蒋介石と共に外省人(漢族)が入って来ました。彼らは日本人と比べて『公に尽くす心』『約束を守る』などの良き『日本精神』からはほど遠いものでした。その中で何万人ものリーダーが殺され、その後三十六年間も戒厳令が敷かれ、暗黒の時代を過ごしました…」と述べられたのです。
 
先の『ジャパンデビュー』ではこの頃の事を、かつての日本統治時代の方が良かったが、日本が台湾を見捨てた事に対するグチのような言葉を取り上げて、日本の統治時代そのものをも全否定しているように意図的に編集したのです。
 
難しい舵取りを迫られる台湾とチベット、そして日本
 
李登輝氏が台湾の総統になられてからは、それまでと変わり、民主的な国家建設に邁進される中で、極めて民主的な手続きを経た総統選挙が始まったのです。そして、「台湾は中国の一部ではありません。台湾は台湾人のものです。台湾が中国に組み込まれてしまえば、日本の安全も消えてなくなります…」と主張されました。
 
チベットのダライ・ラマ法王猊下は「チベットは中国の一部でありません。チベットはチベット人のものです」とは言ってはおられません。二十数年前から「チベットは中国の一部としての存在で良い。しかし、もう少しまともな自治を認めて欲しい」とまで言っておられるのです。それでも中国の弾圧と厳しい監視が続いています。
 
日本のリーダー達が台湾やチベット、そして香港やウイグルの現実に関心を払わず、無関心のままでいては、日本そのものが中国に呑み込まれる日が来ないとは言えません。中国は、このような発言をされる李登輝元総統が来日することを大変嫌がっているのです。同じようにダライ・ラマ法王猊下の来日も中国は嫌がっています。
 
しかし、十五年前に当山に法王猊下がお越しになって以来、毎年のように来日されるようになりました。さらにこのコロナ禍の中に於いては、法王猊下は毎週のように精力的にインターネットでライブ法話を続けておられ、私達はそのお元気なご様子と有難いお話を、地球上どこからでも拝聴することが出来るようになっています。
 
先代真如大僧正様の蓮華院御廟開創への思い
 

さて、私は日頃から様々な形で「先祖を大切に」「ふるさとに愛を」と事あるごとに述べてきました。先代真如大僧正様は、最晩年に「先祖を大切にしない地域は発展しない」との思いから、当山の「蓮華院御廟」を開創されました。
 
先日の御廟全体供養の中でも、こんな事をお話ししました。先代は佐賀の東妙寺の住職(第四十七世)を十三年間務められました。東妙寺には檀家さんが二十七軒ありました。従って、葬儀や法事も時には務められました。家族ぐるみで親しくお付き合いをしてきた檀家のお爺さんやお婆さんの葬儀では、涙を流しながら導師を務めておられたのを何度か目にしました。葬儀の後、毎週の七日七日の供養の前夜に「お逮夜」と言って、故人のために隣近所の人々を招いてお接待をし、法事を務めるのが慣わしでした。
 
檀家のない蓮華院ではそのようなお葬式や法事は一切ありませんので、父(先代)にとっては全く新たな僧侶としての務めであった訳です。そんな中で父は、「佐賀に比べて、玉名は先祖供養にあまり熱心ではない」と言っておられました。
 
また、私の家内の実家は鹿児島県の指宿ですが、妻と里帰りをすれば必ずお墓参りをします。すると、いつ詣でても全てのお墓にたくさんの生花があふれんばかりにお供えされているのです。
 
この事を父に報告しますと、「やはり玉名は先祖を大切にする気風に欠けているな」とも言っておりました。そんな思いから、この地域の先祖を大切にする気風を少しでも高めようと、これから造る霊園を立派なものにしたいと思われたのでした。
 
ご先祖様やふるさとを大切にしない人は大成しない
 
また、「ご先祖様を大切にしない家は発展しない」とも言っておられました。そこで私は個人において、「父母やご先祖様を大切にできない人は、人からの信頼は得られない」と確信しています。
 
また、「郷土の偉人や歴史を大切にしない地域は発展しない」とも思っています。
これは若い頃から長年実践してきた地域づくり、マチづくりから学んだ事です。そして近年は「国や民族の歴史に誇りを持たない国は滅ぶ」と思うようになりました。
 
自分を愛せず、父母祖先を大切にせず、ふるさとの偉人を尊敬せず、国や民族の歴史に誇りを持てない人が、外国の人と真の友情を築く事が出来るでしょうか?NHKが伝えるように、日本の国や日本民族の歴史は、他の国や民族と比べてそれほど悪く劣るものでしょうか?
真言宗での悟りとは何か? を一言で言えば、『如実知自心』(ありのままの自分を知る事)と言われています。どんなに劣等感を持つ人でも、よくよく自分を見つめれば、必ず自分にしかない長所を見つける事が出来るはずです。その長所を充分に自覚して、他の人と誠実に接する中で、自分の役割や責任を発見できるはずです。
 
横井小楠の理想を胸に一隅を照らす人となれ
 
李登輝元総統は、熊本に来られる前に高知に立ち寄られ、坂本龍馬のふるさとを訪問されました。高知での講演では龍馬が提唱した『船中八策』に触れ、李登輝氏が台湾総統であった当時、氏の民主的政治改革のスローガンとして掲げられた「脱古改新」、即ち中国的政治文化に対する離脱政策のお手本とされていた事を明かされて、「日本人も、この『船中八策』の精神を思い出すべきだ」と言われたそうです。
 
『船中八策』とは慶応三年(一八六七年)、上洛中の船上で土佐藩参政の後藤象二郎に対して龍馬が提示した政治改革案で、①大政奉還、②二院制に基づく議会政治、③古い政治制度の刷新、④外国との不平等条約の撤廃、⑤憲法の制定、⑥海軍の拡張、⑦首都警護の軍隊の設置、⑧金銀の交換レートを平等にする、などが掲げられていました。
 
そもそも『船中八策』の元となる思想を龍馬に伝えたのは、熊本出身で福井藩の政治顧問を務めた横井小楠でした。しかし李登輝氏の熊本講演では、その事には触れず仕舞いでした。
 
小楠の思いは、米国留学に旅立とうとする二人の甥に託された、左の漢詩に尽くされています。(『送別の語』)
 
明堯舜孔子之道
 堯・舜・孔子の道を明らかにし、
尽西洋器械之術
 西洋器械の術を尽くす
何止富國
 何ぞ富国に止まらん
何止強兵
 何ぞ強兵に止まらん
布大義四海而已
 大義を四海に布かんのみ
 
「東洋古来の理想を胸に、西洋の技術を修得すれば、どうして自分の国を豊かにするとか、強い軍隊を持つ国にするとかに止まるだろうか。大義を世界に広めてゆくのみである」というものです。言わば、「日本は世界のお世話焼きの出来る国となるべきである」というものでした。この思想が、龍馬にも承け継がれて行きます。
 
私達は「世界のお世話焼き」とまでいかなくとも、「少しでも、周りの人のお役に立てる人間たるべし」ぐらいの気概は持ちたいものです。
 
佛様に一歩でも近づくために日々御宝号を唱えよう
 
さて、私は昨年の八月三日から、ベッドの上で皇円大菩薩様の御宝号を毎日一万遍唱え始めました。次第にその数は増え、特にコロナ禍がひどくなって行く中で、三万から六万遍と唱え続けました。そしてついに先月の二十七日に、その数が一千万遍に届きました。それ以降も日に二万遍は唱え続けています。
 
何か周りの人々のお役に立つためには、己の中に佛様のお力を頂かなければなりません。
その為にも、皆さん、一日に百遍でもいいので、日々御宝号を唱える中で、皇円大菩薩様に一歩でも二歩でも近づけるような日々を送って下さい。合掌




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