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2021年01月05日大日乃光第2294号(2)
「活動四十周年を超える浄行」

「活動四十周年を超える浄行」

認定NPO法人 れんげ国際ボランティア会 
専務理事 川原光祐

 
「思い」が作り上げる活動
 
信者の皆様、明けましておめでとうございます。
 
アルティック(認定特定NPO法人れんげ国際ボランティア会)は昭和五十五年に創設され、昨年(令和二年)で四十周年を迎えました。この昭和五十五年(一九八〇年)がどんな年だったか、憶えておられるでしょうか?
 
日本が経済発展を遂げていた頃、アジアで大きな出来事が起きました。インドシナ半島での大量の難民発生です。ラオス、ベトナム、カンボジアなどの人々が国状の不安定による迫害や生活苦により、近隣の国々へと助けを求めて命からがら脱出しました。その難民の数は百五十万人とも言われています。特にカンボジアでは、ポル・ポト政権による大虐殺により多くの命が奪われる悲惨な状況でした。
 
「アジアの同胞とも言うべき国々の悲惨な状況を、宗教者として黙って見過ごすわけにいかない」との思いから、貫主大僧正様は先代真如大僧正様にご相談されて、救援のための募金を開始されました。私も貫主様と共にタイの難民キャンプを訪れ、過酷な難民の現状を視察した後、難民キャンプの支援に力を注ぐ事になりました。
 
数年後には難民は欧米諸国に移住したり、祖国に帰還してほぼ落ち着きました。しかし、アジア諸国の人々の普段の暮らしは難民キャンプと同じくらい(場合によってはそれ以下)の貧困にあえぐものでした。国の体制が遅れたため、経済、治安、人権、教育などの面で大きな問題を抱えていました。そこでアルティックは難民問題をきっかけとして、その後タイ、スリランカなどのアジアの国々へと支援の場を移しました。
 
チベット難民との出会い
 
そんな中、平成九年に建立された本院の五重塔にはご存知のようにチベット曼陀羅が荘厳されています。この曼荼羅はインドでチベット密教の僧侶の方が制作されました。仕上げの時には三人のチベット僧侶が曼陀羅と共に来山し、昼夜を問わず尽力して頂きました。しかもお経を唱えながら描いて頂きましたので、仕上げの見事さのみならず、曼陀羅に込められた力が違います。そのようにして五幅の曼陀羅が完成した際にお礼を伺うと、お金は受け取らないと仰るのです。真言律宗には叡尊上人の「興法利生」(佛教を盛んにして民衆を救済する)という理念があり、まさにその理念にも合うものとして、私達は大変感動致しました。
 
その後もチベットの人々とお付き合いを続ける中で、徐々にチベット難民の容易ならざる過酷な歴史と困難な現状を知ることになりました。この事は、これまで貫主大僧正様が幾度となく御親教に著されましたのでくり返しませんが、「黙って見過ごすわけにはいかない」と言うことで、二十年以上、支援を続けております。
 
その結果、平成十七年に、私達の長年の支援に対する感謝の意も込めて、ダライ・ラマ十四世法王猊下が来熊されて、当山の本院と奥之院にもお越しになり、法話会や世界平和法要などを執り行ないました。
 
さらに八年前からはミャンマーで、平野喜幸という人材により学校建設と村落開発の活動を行っています。ミャンマーのイラワジ管区(州)では今年度で八十八校目の建設と、八十八の村落開発ができました。
 
昭和五十五年以来、私達は四十年の長きに亘り活動を続けてきましたが、実は同じ頃に、全国には多くの国際協力団体が誕生しました。しかし現在まで活動を続けている団体はそう多くはありません。
 
そして設立当初からの貫主大僧正様の慈悲行、菩薩行に裏打ちされた「強い思い」と、それを我が事として、長年ご理解、ご協力頂いた信者の皆さん方のお陰であります。心より敬意を表すとともに御礼申し上げます。
 
期待の高まる海外での支援事業
 
最後に過去四十年の海外での活動を振り返ると、大きく三つの段階に分ける事ができると思います。
 
まず初期の段階は、国内のNGO団体(曹洞宗ボランティア会=現在の公益社団法人シャンティ国際ボランティア会)に委託して、現地での活動を支え、一年に一度視察に赴き調査を行った後方支援型の時期。
 
次は現地に信頼できるカウンターパート(スリランカのネセック財団)を設けて、直接支援する「カウンターパート方式」の時期。
 
そして最近の、現地に当会のスタッフを派遣して直接事業を推進する方法です。
 
しかしこの方法には多額の資金が必要で、八年前より日本財団の助成金を受けるようになり、ミャンマーでの活動が成立しています。
 
さらにもう一件、昨年開始したインドでの支援事業があります。この事業は外務省の助成金を受ける事になって始まりました。
 
いずれも実績と大きな信頼がなければ行えない事業なのです。この数年で、国や大きな組織からの期待や信頼も重く受け止めております。
 
国内での災害緊急支援活動
 
現在、アルティックは人吉・球磨地域を中心に、七月に起きた豪雨災害の支援活動を行っております。皆様も感じておられるように、近年日本では災害が多くなっています。ここ五、六年をさかのぼっても、
 
令和二年七月:令和二年七月豪雨
令和元年九月:台風十九号
(長野・福島他東北地方)
平成三十年七月:西日本豪雨
(広島・岡山他四国地方)
平成二十九年七月:七月九州北部豪雨
(福岡・大分)
平成二十八年四月:熊本地震
(熊本中心に大分)
など、毎年のように起きています。
 
アルティックではこれらの災害に関して、直接または間接的に支援を行っています。直接とは被災地が近隣の場合に、スタッフを現地に派遣して復旧、復興の支援を行うことです。また、間接とは被災地が遠隔地の場合に、現地の信頼できる団体と連携して支援事業を推進する事です。
 
これまで大規模災害と言われる阪神淡路大震災、東日本大震災、西日本豪雨、台風十九号、熊本地震、そしてこの度の七月豪雨などでは、直接の支援活動を行ってきました。特に今年熊本で起きた豪雨災害に関しては地元でもあり、物資支援、炊出し、ボランティアの送迎を四ヶ月間継続しています。今後は心のケアを中心に活動を行う予定です。
 
ところで今回の活動では、私達アルティックにとって特筆すべきことがあります。と言うのは、コロナ禍により県外からのボランティアを受け入れないという規則になり、大災害にも関わらず全国からのマンパワーを得る事が出来ないからです。そのため物資配布や泥出し、家の片付け、炊出しなどが思うように進みませんでした。
 
そこでアルティックでは、現地で一緒に活動してくれる学生ボランティアに限り、五千円の支度金を渡すことにしました。これは県内のみで何とかマンパワーを確保しなければならない事と、コロナ禍でバイト先がなく困っている学生さんを支援するという一挙両得を考えての事でした。
 
おかげで、被災者の皆さんも学生さんも喜ばれました(五千円はバイト代ではなく、あくまで支度金としての食費や交通費、装備品代です)。被災者はこの学生ボランティアのおかげで、業者を雇って自費でやらなければならない部分をやってくれるので大助かりです。
 
このようなことができるのは、信者さんからの浄財のお陰です。被災者にお金を直接渡す事はできませんが、結果的に募金のお陰で負担が軽くなっているのです。最近では水没して泥まみれになった、床や柱を磨く作業が続いていますが、「自分の親や祖父母が住むと想って、埃やカビで二次被害にならないように磨き上げよう!」と気合を入れて作業に邁進しています。
 
他人事と思わず災害に備える
 
さて、この度の熊本での豪雨災害、そして四年前の熊本地震で、いくつかの知見を得ることができました。信者の皆さんに是非ともお伝えしておきたいと思います。
 
まず、どんな人も本能的に「自分は災害に遭わない、自分だけは大丈夫」と思い勝ちです。これは最近よく使われる「正常性バイアス」と呼ばれるものです。人は何かあるたびにパニックに陥っていては精神的ストレスを感じて疲れてしまいます。中には鬱になる可能性もあるでしょう。そこで心の平安を守るための自己防衛として、この本能があります。
 
ただし、この本能のために生命の危険にさらされたり、実際に逃げ遅れて命を落としてしまうことがあるので注意しなければなりません。
 
災害時に避難しなかった人達に話を聞くと、
①「自宅にいるのが安全と判断した」
②「被害に遭うと思わなかった」
③「被害に遭ったことがない」
と答えられます。しかし①は客観性のない自己判断で、②は勝手な思い込みで、③は誰もが皆そうです。
 
逆に難を逃れた方々のお話を聞くと
④「テレビやメール、地域警報に従った」
⑤「家族・親族や近隣の人、消防団、自治会関係者の声掛けに素直に従った」
との答えでした。
 
少し不謹慎な表現ですが、何度空騒ぎに終わっても、楽しんで避難行動をとることです。また、最低三日間の家族分の水と食料の備蓄をして下さい。あとは何とかなります。
 
最後になりますが、地域との繋がりを大切にする事こそ、命を守る方法です。
⑤のように、避難行動に消極的だった方がご近所さんの声掛けに従って避難されて助かった例や、普段から気掛けて頂いている自治会役員や近隣の方が「あのお家の人が見当たらない、助けてあげて!」との言葉で、消防団に命を助けられたという例がたくさんあります。
 
「普段の繋がりが非常時の力」となるのです。佛教は「縁起」の思想とも言われます。是非とも人や社会とのご縁を大切に暮らして頂ければと思います。合掌




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