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2021年03月08日大日乃光第2300号
春のお彼岸を前に、いま一度家庭生活の三項目を実践しよう

令和三年の天皇誕生日に思う 

二月二十三日は天皇陛下のお誕生日でしたので、毎朝の全国の信者の皆様の祈願祈祷の前に、天皇陛下の玉体安穏、健康祈願を至心に祈りました。
 
天皇陛下は誕生日の記者会見に当り、新型コロナウイルスの感染拡大により活動が制限され、国民と直接の触れ合いが困難になる中で、オンラインでの活動に手ごたえがあった事にも言及されました。平成の上皇陛下の御代以来の「国民に寄り添う」という皇室の在り方を、真摯に模索されているご様子がうかがえました。
 
そして、天変地異や疫病の蔓延の際の歴代天皇陛下の御事蹟をお示しになりました。天変地異等の続く不安定な世を鎮めたいとの願いを込めて奈良の大佛を造られた聖武天皇をはじめ、疫病の収束を願って『般若心経』を書写された平安時代の嵯峨天皇、戦国時代の後奈良天皇、正親町天皇などの御先祖様方の思いを受け継ぎ、国民に寄り添うべく、自らができることを為すよう努めて行くと毅然として仰いました。
 
また被災やコロナ禍による自殺者の増加や、家庭におけるDVや児童虐待などにも言及されて、社会における最も弱い立場の人々の苦しみにお心を痛めておられるご様子をうかがい知ることが出来ました。
 
私達も陛下が仰られたように、一人びとりが痛みを分かち合い、感謝と思いやりの気持ちを持って、明るい未来に向けて歩んで行かなければなりません。
 
コロナ禍でのお寺の在り方とは
 
さて、蓮華院でもこの時期の『玉名盆梅展』や恒例の『大茶盛』などは残念ながら中止と致しましたが、来たる四月二十九日の『南大門春まつり』については、実行委員会で熟慮を重ね、コロナ対策を厳格に実施した上で、健康祈願の『赤ちゃん土俵入り』だけは何とか実現出来るよう進めております。
 
コロナウイルスの感染拡大以来、全国の様々なイベントや神社、お寺での行事のほとんどは規模を縮小したり延期や中止を余儀なくされました。
 
蓮華院でも最も大切な六月大祭をはじめ、奥之院大祭など、宿泊や行事、付随するイベントを中止したり、規模を縮小してお参りを中心に実施して参りました。中止や延期、縮小には大きな勇気と決断が必要であり、私たちは日本各地で様々な形での「苦渋の選択」を見守り続けてきました。
 
しかしコロナへの感染やクラスターを生じてしまう事態を恐れたり、世間や自粛警察からの批判を恐れる余り、何もかも中止するばかりで、果たして良いのでしょうか?天皇陛下が仰られたような不安な人達への寄り添いや、先祖供養をはじめとする最も大切な祈りの継続など、お寺が本来果たすべき役割を果たしていくべきだと強く思います。
 
お寺としては、むしろこういうときだからこそ、信者さん方の祈願祈祷や先祖供養に一層祈りの力を込めると共に、被災地の犠牲者追悼と早期復興、コロナ禍の早期終息と犠牲者追悼、感染者の病気平癒などを国家安泰、世界平和と共に、断固たる決意でしっかり祈り続けていく覚悟であります。
 
春のお彼岸を迎えるに当り
 
さて、皆さんが本誌を手にされる頃は三月の中旬と、春のお彼岸を迎える頃になります。
今年のお彼岸は、「春分の日」の三月二十日を中日とする一週間ですので、三月十七日が「彼岸の入り」、二十三日が「彼岸の明け」になります。当山では、今年も例年通りに十八日から二十二日まで、皆さんからの彼岸供養、先祖追善護摩供養をしっかりお勤め致します。
 
ところでこの時期になると、いつもこの古歌を思い起します。
 
春彼岸 悟りの種を 蒔く日かな
 
まさにこの時期は、「暑さ寒さも彼岸まで」と言われるように、凌ぎやすく過ごしやすい気候になり、右のような「悟りの種」を蒔き、私達が佛様になる、または人が佛様に近づくのに相応しい時期なのです。信者の皆さん方には、ぜひ厳粛な気持ちで、お彼岸を迎えて頂きたいと思います。
 
〝サトリ〟の持つ多様な意味
 

世間一般では「佛になる」「成佛する」と言えば、人が亡くなる事と勘違いしている方が多いようですので、まず「悟り」とは何かから少し考えてみたいと思います。
 
立心偏に吾と書く悟り(サトリ)は、「吾(われ)の心を知る事」と解釈することが出来ます。
『大日経』ではサトリの事を、「実の如く自心を知る」事、つまり自分の本当の心をそのままに知る事であると説いています。当山で三十年以上前から行なっている「内観」も、自分の心を知る事を実修の中心に位置付けております。
 
またサトリを「覚り」と書く場合は、物事の道理をしっかりと見定めるという意味になります。これも自分の心を明らかに見るように、周囲の世界をありのままに見るという考え方です。この二つのサトリの文字を合わせて「覚悟」と書く時には、強い信念を表します。
 
今ひとつ、佛教には「諦り」と書くサトリもあります。これは、ただ単に望みや希望を捨てて「諦める」という意味ではなく、「物事や自分自身の事を明らかに見定める」という意味なのです。
 
以上をまとめると、悟りとは
一、自分自身の心の奥底にある本来の自分に目覚めること
二、物事の道理を見極めること
三、周りの事柄や自分の心をありのままに見ること
などとなります。
 
身近な転生を信じたい気風
 
さて、人が亡くなる時に「成佛する」とか「佛になる」とよく言われますが、しかし人は亡くなると「亡者(もうじゃ)」になるのであって、亡くなれば直ちに必ず佛になれるという訳ではありません。
 
人が亡くなると、遺族や親類縁者の懇ろな供養を受け、そして僧侶の引導をしっかり受けて、四十九日後に次の「四聖界」に往生する、というのがインド以来の佛教の一般的な往生のあり方です。
 
ところで日本人の九十パーセントの方は自覚しなくても、神道と佛教の混ざり合った生活を送っています。そのような私達の普通の感覚では、たとえば祖母が亡くなった頃に身近に赤ちゃんが生まれると、「この子は亡くなったお祖母さんの生まれ変わりかもしれない…」などと、何気なく思ったりします。これは佛教以前から伝わる魂の生まれ変わり、つまり輪廻転生の影響下にある東アジアで一般的な感覚にも通じます。
 
一方で極楽浄土は西方十万憶の佛土を過ぎた、とてつもない遥か彼方にある浄土と表現されています。しかし私達日本人の身近な感覚では、そんな遥か彼方の有難い浄土ではなく、すぐそばの山や川や海に亡くなった方々が居られると意識したり、近年は天空から見守られているとも意識するようです。その意味では私達の故郷そのものがまさに浄土であり、ご先祖様の魂が宿る浄土なのであります。
 
日本の風土が生んだ麗しき風習
 
人が今現在を生きている間に佛になろうというのが、本来の佛教です。佛教とは人が佛になるための教えなのです。しかし現実には、なかなかそのように簡単に佛になれる訳ではありません。
 
佛教は、お釈迦様が初めて教えを説かれてから二千五百年もの間に、インドを始めアジアの多くの国々に伝わりました。その伝わった先々でその国の伝統や文化、そして様々な民族の個性に応じて変化して行きました。
 
一方で日本の気候風土は砂漠のような過酷な環境ではなく、熱帯や厳しい寒冷地でもありません。最近は温暖化が進んでいますが、それでも日本はまだ他の国々より穏やかで優しい気候風土と言えるでしょう。そんな中で生まれたのが、春と秋のお彼岸の行事なのです。
彼岸とは読んで字のごとく、「彼の岸」です。彼の岸に対して此の岸が「此岸」。この暑くも寒くもない極楽のような現実の気候の中で、お彼岸の行事が定着したのです。
 
コロナ禍の中で見直されるご先祖様とのタテの繋がり
 

この日本民族の先祖を大切にする良き伝統が、日本人の過去の先人や歴史を尊ぶ麗しき民族性となって連綿と伝えられました。その中で、家庭生活や社会生活にまで良き影響を与えて来たのです。
 
ところが戦後、この良き伝統がなし崩しに減少しました。ご先祖様を大切にする伝統も、歴史を尊ぶ国民性も急激に劣化し、近年ではお墓を守れなくなって「墓仕まい」などという事も急激に進んでいます。
 
先代の発願で開園された当山の霊園、「蓮華院御廟」でも、残念な事に「今後、子供達の時代になるとお墓が守れないかもしれない…」という不安から、「永代供養」を付けて欲しいという要望が増え続けています。
 
しかし一方で、昨年、公益財団法人「全日本佛教会」で実施された臨時調査では、コロナ収束後、「ご先祖様を大事にしたいから」という思いで「家系のお墓参りをしたい」という若い人々の回答が六割を超えていたり、各地のお寺や霊園でコロナの禍中にも関わらず、お盆や秋彼岸などでお墓参りが例年になく急増したという話も聞き及んでおります。
 
この一年、コロナ禍の中で不安を抱え、自らを支える土台が揺らぐ思いがして、個人や家族にとっての心の拠りどころとなるご先祖様に、いま一度気持ちが立ち戻るような辛い瞬間を、多くの人々が経験されたからなのではないかと思います。
 
ご先祖様を大切にする習慣が円満な家庭生活を実現する
 
ご先祖様を大切にする思いと、円満な家庭生活の間には、密接な関連性があります。家族が朝から互いに挨拶を交わしあう家庭。家族が食事を一緒に食べる、団欒のある家庭。
 
父母、祖父母を大切にする家庭では、当然のように家の中のお佛壇に皆がよく手を合せ、春秋のお彼岸やお盆には皆で墓掃除をしてお墓参りをする事が、家庭の中で習慣になっているはずです。お墓を守れないかもしれない?と心配される家庭では、このような家族の良き生活習慣が充分に機能していないのではないかと思います。
 
春のお彼岸を迎えるに当り、ここに改めて初まいりでお伝えした良き生活習慣の三項目、
①互いに挨拶を交わし合う
②食事の時、合掌して「いただきます」「ごちそうさま」をはっきり心を込めて言う
③「はきもの」を揃える
をいま一度お伝えし、しっかり実践して頂いて、ご先祖様から祖父母や父母、子や孫達への命の繋がりを大切にする、円満な家庭を築いて頂きたいと切に願っております。合掌



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