2021年03月18日大日乃光第2301号
新年度を迎える時期に清新な気持ちで子供に範を示そう
新年度を迎える時期に、清新な気持ちで子供に範を示そう
今朝は少し寒かったですね。二、三日前の朝の気温が十二度、今朝は四度です。やはり「三寒四温」と、徐々に季節が春へと移り変って行くようです。
さて、今日は令和三年三月三日で、雛祭りの日です。今朝、テレビで林修先生が「桃の節句」にまつわるクイズを出題されていました。江戸時代には雛壇に雛人形と何を飾っていたか?答えは金魚でした。江戸時代にはそういう風習が流行っていたようです。もともとは雛壇に、ハマグリやスルメなどの水に縁のある物を飾っていたことから、金魚も飾られるようになったようです。
そもそもこの雛祭りとは、どういう行事なのでしょうか?
季節の変わり目に催される行事
聖徳太子より少し前の時代に中国から暦が伝わると、季節の変わり目に健康を願う儀式が宮中で始まり、「節会」という名で天皇陛下を中心に群臣を集める饗宴が始まり、「曲水の宴」が催されるようになりました。
やがて三月三日に雛人形を飾る風習が、平安時代に貴族社会で始まりました。これは日本固有の文化であり、そこには子女の健康と厄祓いを願う意味が込められていました。
江戸時代になると、数ある「節会」の中から、次の五つを「五節句」として、幕府が公式に行事・祝日と定めました。
一月七日が「人日」。七草の節句とも言われ、今も七草粥で健康祈願をします。三月三日が「上巳」、桃の節句です。五月五日が「端午」、菖蒲の節句。七月七日は「七夕」。そして九月九日が「重陽」、菊の節句です。
中でも端午の節句は、武家社会において、菖蒲を「尚武」にかけて、男の子の節句と見做されるようになりました。
これらは全て旧暦の日付に従っていましたが、明治維新を経て新暦(太陽暦)が採用されると、約一ヶ月も季節がずれるので、桃の節句を四月三日にする案もありました。この五節句の内、現行法で祝日に定められているのは、五月五日の「端午」だけで、ご存知のように「こどもの日」と改称されています。
禊ぎ清め、邪気を祓う風習
さて、この三月三日の「上巳」という祭りは、古代中国では季節の変わり目に災いをもたらす邪気を祓うため、官民そろって水辺に出て身を清める禊(衣類も洗濯して清めていた)、厄祓いをする行事でありました。
一方日本には、草木を素材とする「形代」(依り代)に穢れを遷して川や海に流し、子供の無事な成長を祈るという風習が縄文時代からありました。これは紙の人形代に息を吹きかけ、また体の調子の悪いところを撫でて穢れを遷し、川や海に流すという行事で今でも各地の神社で行われています。
この二つの風習が日本で重なり合い、雛人形を飾る祭りにも結びつき、現在も「流し雛」として各地で行われています。
元々、全ての「節会」「五節句」は暦の上で、病気に罹りやすい季節の変わり目でありました。林先生のクイズの答え、雛壇に金魚を飾ったという風習も、「曲水の宴」も、「形代流し」も「流し雛」も、全て水に関わる行事でありました。そこにはこの祭りの本来の意味、心身を禊ぎ清めて邪気を祓うという健康祈願、厄祓いの意味が一貫しているのです。
中でも三月と五月の節句には、昔は非常に死亡率の高かった子供たちの無事な成長を祈る祭りという意味が込められているのです。
子供を大切にしてきた文化
昔から日本に伝わる行事や習慣の殆どには、宗教的な意味があります。佛教では、お釈迦様が出家を志すきっかけとなった「四門出遊」を説きます。お釈迦様がまだ出家される前、王太子だった頃に王城の東西南北四つの門から郊外に出かけ、老いの苦しみの様子、病気の苦しみの様子、葬送の行列、最後に出家された僧侶に出会われました。
これに生まれる苦しみ、生きる事の苦しみを加えて、生・老・病・死の「四苦」に、人間の業が殆ど関わっていると説きます。他に睡眠欲であったり名誉欲であったり、色んな欲が有りますが、一番の根本は「生・老・病・死」にあります。
今日は子供の健康を祈り、すくすく育って欲しいというお参りの日です。皆さん方も色んな行事の日に、昔から込められた祈りの意味をもう一度考えながらお参りをしてみて下さい。ぜひご自分の健康を祈願して、長生きして人の役に立ちます様にという願いを持って頂きたいと思います。
子どもの一生を左右する言葉
さて本誌が届く頃、子供たちにとっては新入学・新学年を迎える時期となります。コロナ禍によって、昨年から例年とは随分違う家庭生活、学校生活、社会生活を送られているご苦労を、いつも案じております。
この時期に、新入学の一年生を持つ親御さんや祖父母の方々に、いつも必ずお願いしていることがあります。それはこれから通う小学校、そしてそこで出会う担任の先生について、子供たちにぜひ伝えて頂きたいことです。
「あなたがこれから行く小学校は輝かしい伝統を持つ学校で、素晴らしい先生方がたくさんいらっしゃいます。担任の〇〇先生は、それはそれは素晴らしい先生ですよ。あなたは運がよく幸せだね!」と、子供たちに元気を与えるように語りかけて頂きたいのです。
傷つきやすい子どもの学習意欲
私の父、つまり先代の故真如大僧正様は佐賀の東妙寺におられた頃、子供会や少年研修館、また小学校・中学校のPTA会長などを通じて子供たちの教育に大変熱心でした。その経験から、新入学の保護者の皆さん方に、その小学校や担任の先生を大いに褒めて欲しいと常々言っておられました。それは、教育の効果は子供たちが先生を尊敬するところから始まるという信念に基づいていたと思います。
ともすると、近年は先生より保護者の方の学歴が上であったり、人生経験が豊富であったりします。そのことから保護者自身が先生を尊敬するということが少なくなっているのではないでしょうか?
しかし仮に、子供たちの前でその学校や先生に批判的であったり、「あ~○○先生が担任なの。それは不運だね」などと言ってしまうと、その子は途端にやる気をなくし気力も失せてしまうでしょう。
ずいぶん昔の事ですが、父が旧制中学校に入学した時、二つ年上の伯父から「英語の先生は誰?」と聞かれて「○○先生」と答えると、「お前は運が悪いな!あの先生はつまらんぞー」と言われ、そのお陰で遂に英語が好きになれず、成績もあまりふるわなくなったそうです。
先生方の気持ちを代弁したPTA
このような話を先代から聞いて来られたので、貫主大僧正様が母校のPTA会長を務められた時、入学式で保護者のみなさんに次のようなことを仰ったそうです。
「子供たちには、担任の先生の悪口は決して言わないでください。逆にその先生を全く知らなくても『○○先生が担任なの!それは良かった。あの先生は良い先生だよ。あなたは運がいいよ』と伝えて下さい。もし万が一、何か不都合なことがあったらその不満を担任の先生に直接言うのではなく、ましてや子供に言うのでもなく、私たちPTAの役員や教頭先生、校長先生に伝えて下さい。そのことがひいてはあなたたちの子供さんのためにもなります。このことはぜひお約束下さい」
すると入学式の後、校長先生がわざわざ近くに来られて、
「先ほどは私たちが言えないことを、よく仰って下さいました。本当にありがとうございました」
と、しみじみとお礼を言われたという事です。
良き信仰生活を送る秘訣とは
信仰においても、この新入学の子供達と担任の先生の関係と、似たような関係を見ることが出来ます。それは皆さんお一人お一人が、御本尊皇円大菩薩様と、どの様な関係を結ぶことが出来るかに掛かっています。御本尊皇円大菩薩様への全幅の信頼と信仰を心にしっかりと持ち続けることで、その方の生活と人生が変わって来るのです。
先代はよく、「皇円大菩薩様と恋愛するような気持ちで接しなさい」と話されました。
貫主大僧正様は、これまでの様々な修行の時、一歩一歩歩く時も一呼吸一呼吸の中でも、常に御宝号を唱え、皇円大菩薩様に心を向け続けながら、修行の時間も日常の様々な時も、四六時中皇円大菩薩様を思い、皇円大菩薩様の霊波を感じるよう努めて来られました。
時には皇円大菩薩様の気配や体温までも感じ取れる事があったそうです。そのような時は何とも言えぬ安らぎと、大いなるエネルギーを頂いている実感があったということです。
皆さん方も少しでも多く、皇円大菩薩様の御宝号を唱えてみて下さい。必ずや偉大なお恵みを実感する事が出来るはずです。
それと同じように、子供が親を思うように、生徒が先生を尊敬する心持ちで、学習に打ち込む生活を送る事が大切です。そうすれば、穏やかな日々の中で学習の成果を上げ、さらには充実した豊かな家庭環境が実現するに違いありません。
次世代に対し、範を示す!
一方で、私たちは自分の子や孫達から尊敬に値する人格と思われるように努めなければなりません。少なくとも子や孫の前ではいくつかの生活上の原理原則を、率先して示し続ける事がとても大切です。
近年では親子や孫と祖父母が友達のような関係である事が理想のように思っている方が多くなっているようですが、それだけでなく、良き人生の先輩として、子や孫に指針や規範を示す事がさらに大切だと思っています。
私の場合は二人の祖父をとても尊敬してきました。父方の祖父、つまり開山上人様は、もの心ついた頃から巌のように大きく、とても厳しい方、といった印象を強く受けておりました。
この事からおじい様(開山上人様)の言われる事には、「絶対に逆らえない」という厳然たるものを感じていました。この絶対的な祖父に導かれて、貫主大僧正様も私も僧侶の世界に入って行く事が出来たのでした。
そこまで厳しくしなくても、私達は家庭でも子や孫から何らかの敬意を受けるような生き方を、後ろ姿で示すべきだと常々思っています。子や孫から尊敬される人物になるよう努力する事が、ひいては自己自身を向上させる大切な契機ともなるのであります。
大乗佛教の菩薩の基本的な姿勢を表す、「上求菩提 下化衆生」という言葉があります。これは自分自身が悟りを求めて努力する一方で、苦しんでいる人の手助けをする事を意味します。
新年度を迎えるに当り、新入学生を送り出す家庭も、受け入れる学校側も、生徒や児童、子や孫達から「尊敬に値する人間たるべし」という心構えをしっかりと持ち続けたいものです。
新年度前のこの時期に、もう一度新年を迎えるように清新な気持ちで、子供たちを新たな学び舎へとしっかり送り出せるよう祈っております。合掌
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