2022年12月09日大日乃光第2356号
「三密」の善行で願い事を叶え、国家安泰、世界平和を実現しよう
「三密」の善行で願い事を叶え、国家安泰、世界平和を実現しよう
柴燈護摩は神佛習合の祈り
今年の柴燈大護摩祈祷を、ただ今行じ終わりました。皆さん、本当に真剣な祈りを捧げて頂き、有難うございます。
今日初めてお参りの方は「変わった法要だな」と思われたかもしれません。先に神職の方々にこの道場を浄めて頂き、そしてその場を使って我々僧侶が神佛習合、佛教と神道の融合した修験道に基づく祈りを修しました。
「修験道」とは、日本古来の山岳信仰に佛教の思想が融合して、約千三百年前に出来た宗教的な修行であります。日本では千四百年以上前から江戸時代に至るまで、長きに亘り佛教と神道が融合し合い、そして相携えて助け合い、日常生活の様々な祈りや生活習慣などを形作ってきたのであります。
その証拠に、天皇陛下は皇祖皇宗から天神地祇(全ての神々)を祀る神主としての務めを百二十六代に亘り連綿と果たしておられますが、同時に皇室の御寺、泉涌寺では歴代皇族を供養されています。このように天皇陛下は、神佛習合のまさに象徴とも言えるご存在なのであります。これは間違いない事実であります。
日本人に共通する伝統的な道徳心
日本は戦後、憲法の政教分離の原則に基づいて、政治的な事柄から宗教色を極力排する事になりました。ところが現在のアメリカでさえ、大統領の就任式の時には聖書に手を置き、神の御名に於いて宣誓するのであります。
日本では敢えて宗教と言わなくとも、まず第一に、「お天道様に見られているぞ!!」「お天道様に恥ずかしくない行動が出来ているか?」といった、天からの目線に基づく倫理的な感性がありました。
第二に「ご先祖様に申し訳ないと思わないか?」「そんな事をしてご先祖様に顔向け出来るか?」という考え方。
第三に「隣近所、お互い様」「困った時にはお互い様」といった助け合いの精神が連綿と根付いておりました。
これは天皇陛下を始め、歴代皇族の方々、そして多くの政治家の方々の心の中にも通底する、日本人全体に共通する国民的な道徳意識だと思います。
今こそ「国家安泰、世界平和」を祈る
そういった中に於いて、神佛習合の祈りであるこの柴燈大護摩祈祷を沢山の信者の方々を迎えて来賓の方々と一緒にお参り出来た事は、非常に有難い事であります。
すでに皆さん方もご存知の事ですが、今日も北朝鮮がミサイルを発射しました。これがいつ日本に着弾するか?防衛関係の方々は必死に様々な情報を集めて、それに対応するにはどうしたらいいか、非常に切実に動いて頂いております。有難い限りです。しかし世間ではそういった情報に感心を持たない事が多く、「平和ボケ」と言われても仕方のない状態かもしれません。
これまでも柴燈大護摩祈祷では幟に「国家安泰、世界平和」と大きな文字を掲げて祈ってきましたが、今回皆さん方は自分の事以上に特にこの国家安泰と、そして世界が平和でありますようにと真剣に祈って頂いた事と思います。
現代の偉人に影響を与えた逸話
安倍晋三元総理が亡くなられて四ヶ月近く経ちましたが、日本の現代史で忘れる事の出来ない方がもう一人亡くなられました。京セラや第二電電(KDDI)を創業された稲盛和夫さんです。私が愛読している月刊誌にも特集記事が載りました。
彼は人生を通じて、若い人達に様々な事を訴え続けて来られました。自分自身がまず努力をする事。「とことん努力し尽くす事だ。後は天の采配にお任せしよう」といったお話をされましたが、その中にこんな逸話があります。
それは安岡正篤さんの『知命と立命』という本に書かれた、四百年以上前の中国明時代の有名な古典に出会われたお話です。
長江の南の蘇州に、後に『了凡四訓』とも呼ばれる『陰騭録』を著して、明治以降の近代日本にも多大な影響を与える事になる、袁学海(後の袁了凡)という少年がいました。
彼は頭脳明晰な少年で将来を有望視されていましたが、幼くして父を喪くしたため、お金のかかる科挙(今で言う国家公務員試験)の受験勉強を諦めて、生活の為にも医師を目指すように母から勧められました。
ある時、この母子は仙人のような一人の老人に出会います。孔と名乗る老人は易を極めた占術の達人でした。老人は学海少年を見て、母親に「この子はいくつの時に科挙の試験を受け、その何年後に上級の試験を受けて、そしてその後に一回失敗するけれどもまた受けて、最後には何番で受かり、地方長官として大変な出世をする。五十三才まで生きて、子供は出来ない」という予言を伝えます。それを聞いて彼は医術を止めて官僚を志し、老人の予言通りの人生を四十近くまで送ります。
そんな中、壮年となった学海は、雲谷禅師という高名な僧侶の噂を聞き、そのお寺に禅師を訪ねました。禅師の指導で学海は坐禅を組みました。そのまま三昼夜も心を動かさず正坐する学海に禅師は驚き、「あなたは素晴らしい。その若さで坐相を身に付けるとはたいしたものです。しかも妄念が一つも見えないのは如何なるわけでしょうか?」
と尋ねました。
彼はこう答えました。「私は、ただ運命に従っているだけなのです。私は幼少の頃にある老占い師に人生を予言され、これまでその通りに生きて来ました。ただ子供は授からず、そして五十三歳で死ぬであろうと。ですから私のこれからの人生も予言通りになるでしょう。そう思えば何も思い煩う事はありません。私はただ淡々と生きて行く事が出来るのです」と。
すると雲谷禅師の態度はガラリと変わり、落胆の色を浮かべられました。
運命は自分で切り開くもの
驚いた学海がその理由を問うと、禅師はこう答えられました。「確かに人間には運命というものがあります。しかし運命は決まっていますが、それは宿命ではありません。
運命は前世の行いによって決まっているものですが、それは現世の努力で変えられるものなのです。それが『立命』です。
自分の人生を創造的に生き、修行をしなさい。善きことを思い、思いやりの心を持ちなさい。そうすれば、あなたの運命は必ず変わるのです」と。
『本当の運命とは我より立つる立命でなければならぬ』という道理を懇々と教えられ、学海は大悟して生まれ変わりました。
彼は家に帰ると奥さんに禅師の教えを伝え、それまでの運命を受け入れるだけの態度を改め、二人で少しでも良い事をして陰徳を積もうと誓い合いました。
例えば隣りの人に、朝気持ちよく挨拶をしたり、困っている人がいたら「どうかしましたか?何かお助けすることはありませんか?」などと声をかける。そして自分の仕事を通じて良いことを精一杯やろうと。
一日の終わりに功(善行)と過(悪行)を書き記し採点する『功過格表』というノートを作り、夫婦で「今日はいくつ良い事をした」「今日は何人良い気持ちに出来た」「今日は何人助ける事が出来た」という風に書き続けて行きました。
するとそれまで外れた事の無かった予言よりも上位で科挙の試験に合格し、地方の行政長官になりました。また出来ないと予言された子宝にも恵まれ、五十三歳と言われた寿命から、二十一年も長生きして天寿を全うしたというお話です。
より良き人生を送るための秘訣
この話は私達全ての人に当てはまります。私達の人生は予め決められているものではありません。たとえ小さな努力でも積み重ねて行けば、一歩でも二歩でも前に進んで行ける。ほんの些細な事でも毎日積み重ねて行けば、人は運命を切り開くことが出来るのだというお話です。
誰でもそうです。自分も明日から、いや今から少しでも良い事をしよう。何か人の役に立つ事をしよう。そういう風に、皆さん今日から、この瞬間から人に笑顔で接するように心掛けたり、何かあったら「お助けしましょうか?」と手を差し伸べて下さい。
どうか皆さん達も、自分で出来る小さな事から、幸せを少しずつ周りに広げて行って下さい。
周りの人に対して「言葉で出来る事」「体で出来る事」そして「心で思う事」によって出来る事があります。この三つをフルに活かして頑張って頂きたいと思います。
口で言う事と、体で行う事と、心で思う事を真言密教では「三密」と言います。他の宗派ではこれを「三業」と言います。「業」は「カルマ」という古いインドの言葉を翻訳したものです。
人間は様々な業を積んでいます。悪い業を積めば、悪業が積もります。しかし良き業、清らかな三つの業が「三密」となるのです。この様に清らかな良き三密を積み重ねて行けば、先にお話した袁学海夫婦の様に、少しずつ少しずつ人生は変わるのです。人生は変えられるのです。そして願いも叶うのです。
国境を越える助け合いの精神
今日本は大変危険な状況にあると思います。しかし皆さん達の、自分自身の運勢を開いて行こうという思いが日本全国に満ち満ちて行けば、この国の方向性も少しずつ好転して行きます。
今まさに世界は狭くなっています。国境を越えて、自分が助けられる所には手を差し延べる事が出来るのです。今日はお見えではありませんが、隣町の玉東町長さんは、ウクライナから避難して来られた四家族を受け入れ、町の住宅に住めるように決断されました。
今、アルティック(認定NPO法人れんげ国際ボランティア会)では、そのための調査をはじめ、どういった支援が出来るのか、その人達のお世話をするための具体的なお手伝いをしています。信者の皆さん方に、口で言うだけではなくて、私達自身が率先して行動する事が大事であると伝えて行きたいからでもあるのです。
日々の善行を、家庭で語り合おう
日本人がかつて持っていた「お天道様に申し訳ないと思わないか?」「ご先祖様に恥ずかしくないか?」そして「困った時にはお互い様」という精神性で、これからぜひ皆さん一人一人が良い行いを実行して頂きたいのです。それが願い事を叶える一番大事な基礎になるのです。
ぜひ今日から、夫婦で誓い合ったり家族と話し合って、今日はどんな良い事をしたか、お互いに報告し合える様な、そういう家庭を営んで頂きたいと思います。
本日は沢山の方に真剣にお参り頂き、とりわけ信者の皆さんには遠くからもお集まり頂きまして、心から篤く篤く御礼申し上げます。合掌
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