2023年02月28日大日乃光第2363号
輝かしい日本の未来に向けて家庭の中から子供を啓発しよう
輝かしい日本の未来に向けて家庭の中から子供を啓発しよう
梅の開花に世の平穏を祈る
九州でもまだまだ厳しい寒さが続いておりますが、本誌が皆様に届く頃には梅の花が咲き誇り、春の足音を感じておられる事でしょう。
本院の境内でも、今(二月十五日)紅梅が満開を迎え、そろそろ白梅も咲き始めております。
花が咲くのを見るのは心が満たされ、自分自身の意欲も高まります。
そして、故坂村真民先生の『念ずれば花ひらく』の詩が思い起こされます。寒く辛く悲しい時こそ、開いていく花々に思いを寄せて念願を開き、日々の平穏を念じ、さらには世の平穏を祈り続けたいものです。
待望のマスクの無い卒業式
さて、来たる四月一日以降、全ての学校で基本的にマスク着用を求めないとする通知が文部科学省から出されました。
四月の入学式以降、強制ではありませんが、義務教育の現場ではマスクを着けず、お互いの顔が見える形での学校生活が再開される事になります。(三月末まではまだ従来通りマスク着用を求めるとの事です)
ただし卒業式では校歌などを歌ったり、生徒らが呼びかけをするときを除いて、教職員と児童・生徒はマスクを着けないことを基本にするとも明記されました。
これにより、今度の卒業式ではまだ幾分限定されますが、ようやく子供達と先生達がマスクを外した、明るく伸びやかな卒業式が実現する事になりました。
この三年間、一度も級友や先生達の素顔をまともに見る事なく過ごして来た子供達も、来たる卒業式では晴れ晴れとした別れの集いになる事でしょう。
個人の意思が薄弱な日本人
昨年十一月~十二月のサッカー・ワールドカップで、現地では誰もマスクを着けていない観衆の映像が流れたのをきっかけに、中国では習近平政権への強い不満が爆発し、ゼロコロナ政策終了へと急転換した事は皆さんの記憶に新しい事と思います。
このように世界的にはコロナの蔓延が収まって来ていますが、にも関わらず、現在の日本ではほぼ百パーセントの人々が、室内ではまだマスクを着けているようです。これは世界から見ると、なんとも奇異に目に映る事でしょう。
さらに先日の報道では、三月十五日からマスクの着用は屋内外を問わず、基本的に各人の判断に委ねることになりました。
この「各人の判断に委ねる」ということについて、私達日本人の性質を考えると、恐らく戸惑う人が圧倒的に多いのではないかと思います。それは、現代の日本人が周囲から、社会から、何らかの規制を受け続ける状態に慣れ過ぎている結果だと思います。
世間の常識に合わせる。周りの空気に従う。そういった行動規範を従順に受け入れる習慣を、必要以上に身につけてしまっている様に思います。いわゆる同調圧力に弱い日本人になってしまっているのです。
一方では「個性の尊重」とか、「多様性の尊重」などとも言われています。そう言われるのは、私達の社会が個性を尊重せず、多様性も尊重出来ていない事の裏返しなのではないかと思います。
多様性が調和した佛様の世界
この本院の本堂の両脇内陣には、金剛界・胎蔵界の両曼荼羅が祀られています。
中央の大日如来を始め、透明感を持って慈悲と智慧に満ち満ちた如来様方がおられる反面、凄まじい憤怒の形相をした明王や天部の神様達や、その中間に衆生を救済するために様々な個性を持たれた菩薩様達がおられます。
この様に、極めて個性的で多様性に満ち満ちておられる諸佛諸菩薩様達が、整然とその役割を発揮すべく、調和を持ってその場その場を占めておられます。
これはまさに大日如来様のお働きが存分に発揮される為に、智慧と慈悲がバランスよく調和された、完全な救済と調和の世界なのであります。
人間社会と曼荼羅世界を直接対比する事は相当無理がありますが、しかし私達の人間社会も国際社会も、少しでも理想に向かって努力する時、この個性発揮と調和の精神は決して捨て去るべきではないと確信します。
各人それぞれが、「あるべきよう」を追い求めよう
皇円大菩薩様から少し後の時代の鎌倉初期に、明惠上人という高僧がおられます。この方に『あるべきようは(阿留辺畿夜宇和)』という有名な言葉があります。
これは、人は世間から求められた役割をただ受け入れて生きるのではなく、今、どのように生きるべきなのか(あるべきよう)を常に自らに問いかけ、その答えを深く求めながら生きようとすべきなのだという意味です。
夫婦や親子のあるべきようを、先生や生徒のあるべきようをそれぞれが探し求めながら生きて行くのが、人としてのあるべき姿という事です。それがその人その人を存分に輝かせ、生き生きとした人生に繋がるのです。
佛教的には、その人本人があるべき行い、あるべき働き、あるべき在り方を本来分かっているという考え方があります。
全ての人が心の奥深いところに、佛様の子供としての『佛性』を厳然として持っているのであります。この『佛性』を見つめましょう。
その一方、人は生まれながらにして人間とはなりません。人として育てられて初めて人となるのであります。これも確かな事実です。狼に育てられた少女は、残念ながら人としての生を全うできなかったそうです。このように、人の成長にとって、いかに教育が大切かは言うまでもありません。
子供の心の成長に必要な仰ぎ見る偉人へのあこがれ
この子供への教育について、私にはいくつかの疑問があります。
その第一は、現在の小・中学校で偉人伝を元にした道徳教育がほとんど行われていないという事です。
かつて私自身、小・中学生の頃には数多くの偉人伝を読み、人生の目標を探すのにとても参考になりました。時には「この人の様になりたい、生きたい」と思った事がありました。
具体的にはシュバイツァー博士の伝記を読み、自分は医学と音楽を目指そうと、強く思ったのです。その結果、高校ではコーラス部に入り、医学部への進学を目指しました。音楽は一生の趣味として楽しみますが、残念ながら医学部には合格できませんでした。しかし、一時期医学を目指したことは、その後の人生で決して無駄ではなかったと思っています。
仰ぎ見る様な人物、尊敬する様な人物の生涯を知る事は、人生の目標や、努力する目的を見つける事に繋がり、人が成長するためにとても大きな良き影響を与えると思います。
人生で、目標にすべき人物や尊敬すべき人物の足跡を知る事は、人に向上心を与える大きなきっかけとなるに違いありません。
この様に偉大な人物に憧れたり尊敬する事は、子供に「人間は素晴らしい!」「人生は生きる価値がある!」と肯定的に生きる、意味のある人生へと導く大切なよすがとなるはずです。
ご先祖様達の歴史を肯定しよう
そして第二には、私達の先祖の物語である日本の歴史を、あまり肯定的には教えて来なかったという事です。
これを個人に置きかえれば「あなたのお父さんお母さん、お祖父さんお祖母さん、もっと古くのご先祖様達は、あまり良いことをしていなかった」と教え続けられたら、元気で生き生きした子供にはなれないと思うのですが、いかがでしょうか?
これを七十年以上に亘って、戦後教育の中で小・中学校、更には高校・大学でも教え続けて来たと言われているのです。
教育界だけでなく、新聞やテレビなどのマスコミでも、戦前・戦中、さらには古くからの歴史さえも否定的・自虐的に報道し続けて来た側面があります。
その結果、ほとんどの子供たちは二月十一日の「建国記念の日」の世界史的な意味が分からず、知ろうともしない惨憺たる現状になってしまいました。
故郷への愛情を育てよう
第三には、個人と国家の中間にあって、全ての人々が暮らす故郷でもある地域の歴史を、子供達にほとんど教えていないという事です。
私は有難い事に、玉名歴史博物館の初代館長であられた故田邉哲夫先生(先代真如大僧正様の同級生にして親友)に、玉名の輝かしい歴史を繰り返し教えて頂いたお陰で、ふるさと玉名を大好きになりました。
自分の先祖を嫌い、故郷を嫌い、更には祖国日本をも嫌うような人が、親を大切にしたり、ふるさと愛を持ったり、愛国心(この言葉もあまり使われません)を持つ事が出来るでしょうか?そんな日本で、各地の故郷で育った子供達が、果たして生き生き伸び伸びと育つでしょうか?
答えは明らかです。このまま自己否定的、故郷忘却的、自虐史観の時代が続けば、未来の日本はどうなってしまうでしょうか?
信仰生活に通じる子供への教育
ご先祖様と故郷と祖国を否定する事は、信仰生活とは明らかに真逆の心の方向ではないでしょうか?
先の三つの私の意見を無批判に肯定すべきと言っているのではありません。しかしせめて、小中学生の子供達には、肯定的な側面から教えても良いのではないかと思います。客観的に、時には否定的に学ぶのは、その後の段階で遅くはないと思います。
信仰でも肯定だけでなく「自分はこれで良いのか?」という反省や懺悔は大切です。
ではありますが、今の日本人が同調圧力に弱かったり、自信なさげであったり、あまり活力がないように見えるのは、先の三つの教育の悪い結果ではないかと思っています。
皆様どうかそれぞれのご家庭で、父母、祖父母、そしてご先祖様達の良き行い、良き伝統、良き家風を子や孫達にしっかりと伝えてあげて下さい。更にはそれぞれの故郷の良き伝統文化や、素晴らしい歴史などを教えてあげて下さい。
コロナが収束へと向かい、各地で交流が活発化しつつあるこれからに向けて、地域や故郷の歴史探訪やふるさとの偉人を偲ぶようなひと時を、ぜひ子供や孫達と過ごして下さるよう心より念じております。合掌
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