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2023年03月16日大日乃光第2364号
春の彼岸供養で、未来へと紡ぐ先祖供養の心

春の彼岸供養で、未来へと紡ぐ先祖供養の心
 
早春の候に、「供養」の意味を振り返る
 
春に向かって季節が進んでいます。先の二月二十三日は天皇陛下のお誕生日でしたので、毎朝の信者の皆さんの御祈祷と共に、天皇陛下の玉体安穏・健康祈願を至心にお祈り致しました。
 
コロナ禍により三年振りに奥之院で開催された、第十九回「玉名盆梅展」は、久しぶりに沢山の参詣者で賑わいました。
 
一方本院では、来たる今月十八日からの、「春の彼岸追善供養」へのお申し込みが、全国の信者さんから次々に届いています。
 
この春の彼岸供養の他に、七月・八月のお盆供養、そして秋の彼岸供養、そして既に正月に修した正月供養を合わせて、当山では「四度供養」と言い習わしております。
 
「慈悲行」は、同時代を生きる人びとへの供養
 
さて、四十三年前から始まった当山の国際協力の募金活動、「同胞援助」や「一食布施」などの「慈悲行」は、まさに奉仕行そのものなのであります。
 
この「慈悲行」を長年続けて頂いている方々は、今私たちが生きているのと同じ時代を苦難の中で生きる人々への、「供養」としての奉仕を続けておられることになります。
 
供養の「供」は私達の真心を供え、「養」は自分自身の修養として、心が養われる事を意味しています。
 
その意味で、これは亡くなったご先祖様や恩人への供養に比べて、今の同じ時代を同じ地球上で共に生きている人間同士の、「同胞」への奉仕行であり、供養でもあるのです。
 
二月六日に発生したトルコ・シリア大地震では、五万人以上もの犠牲者が出て、世界中から支援が集まり、国内のニュース番組でも連日募金が呼びかけられています。
 
一方、タイ国内に命からがら逃れている数十万のミャンマー避難民については何の報道もなく、国内は勿論世界中でほとんど知られていません。そこで以前から右枠のように、皆さんに支援募金のご協力をお願いしているところです。
 
供養という時、ほとんどは亡くなったご先祖様やお世話になった方々への「追善廻向」(ついぜんえこう)として、鎮魂の供養として行うものがほとんどです。
 
しかし今を生きている人々にお供えする事も、広い意味の供養なのであります。
 
忘れ難き高野山での「大衆供養」
 
例えば四十九日法要や、一周忌法要等の回忌供養の後で、参列者に食事をお接待する時など、
「どうぞ、故人への供養と思って、存分にお召し上がりください」などと言いながら、有縁の方々と一緒に食事を頂きます。
 
このように故人を偲ぶ時、故人の美点や徳性など、故人の良き人柄を思いながらひと時を過ごします。これも追善廻向、追善供養なのであります。
 
その昔、私が高野山の修行道場にいた頃、通常は一汁一菜の質素な食事なのですが、ごくまれに「これは〝大衆供養〟の品です」と、どなたかが全ての修行者にお供えされた胡麻豆腐などの一品が加わる事がありました。
 
この大衆供養を大喜びした思い出があります。この大衆供養は、まさに修行者へのお供えであり、供養なのです。
 
親思ふこゝろにまさる親ごころ
 
さて、今現在、子供を育てておられる多くの若いお父さん・お母さんは、それこそ子供が気づかないところで我が子に心を砕き、子のために良かれと、それはそれは大事に育てておられる事でしょう。
 
かつて、今よりもっと貧しかった頃は、子育て以上に生きること、生活そのものが大変でしたから、その頃の子育ては現在から思うほど手を掛けられなかったかもしれません。それでも子供が親を思うより、親は子供の事を遥かに真剣に考えていたでしょう。
 
親思ふこゝろにまさる親ごころ
  けふの音づれ何ときくらん
 
(私が親を思う以上に、親は私のことを思ってくれている。私の訃報を聞き、両親はいったいどう思うのだろう)
 
これは幕末の偉人、吉田松陰先生が処刑される一週間ほど前に、江戸の獄中から父・叔父・兄らに宛てて遺された辞世の歌です。この和歌からも、親の深い思いを痛切に感じ取る事が出来ます。
 
これから春の彼岸追善供養を申し込まれる方も、既に供養を申し込まれた方も、今は亡きご両親様やご先祖様方の、在りし日の良き思い出に浸ってください。そして有難かった事柄や、お世話になった事などを、しっかりと思い起こして頂きたいものであります。
 
内観修養で噛みしめる、名前も知らぬご先祖様の恩
 
当山で長年行っている「内観」では、先ずは一番身近な母に、
一、して頂いたこと
二、お返ししたこと
三、ご迷惑をかけたこと
 
この三つを具体的に思い起こして、過去から順にその時々の母の姿や、思い出に映る自分自身を見つめます。
 
するとほとんどの人は、「して頂いたこと」の多さに驚きます。それに対して、「お返ししたこと」のあまりの少なさと、「ご迷惑をかけたこと」の多さに愕然とします。
 
だとすれば、ご先祖様や、縁の深い方々に対しても、お世話になった事が数多くあるのは間違いないのです。
 
直接お会いした事もないご先祖様に、して頂いた事柄は思い出せなくても、今のこの命は間違いなくご先祖様からの命の繋がりの中にあるわけですから、ただそれだけでも有難いことなのです。そのような感謝の心を込めて、彼岸供養をされることをお勧めいたします。
 
未来の世代からも恩を受ける?
 
私達が一生の内に巡り会える人は、果たして何人でしょうか?
生涯に出会い、影響を受ける人は、心の繋がりの深さの度合いにもよりますが、果たして何人になるのでしょうか?
 
昔、ある研修会で「百人の恩人ゲーム」というのがありました。約十分間で、恩人を何人書き出せるかというものでした。多くの人は、親や兄弟、叔父さんや叔母さんなどの親戚、さらには学生時代の先生や友人などを書かれました。恩人と言われて、自分の子供や孫を書く人はまずおられないでしょう。
 
しかし私は過去に巡り合った多くの恩人と共に、これから生まれてくる多くの命や、今同じ時代を生きている若い人々をも恩人として書き加えました。それは私に、未来に向けた使命感や責任感を持たせてくれるからです。ですから私よりも長く未来を生きる、未来からの使者とも言える若い人達を、敢えて恩人として数に入れたのです。
 
子供達との挨拶に、未来への希望と責任を思う
 
何故こんな思いだったかと申しますと、私が以前、妻を車に乗せてデイケアやショートステイに通っていた頃、多くの小・中学生の集団登校とすれ違っていました。
 
毎日ほぼ同じ時間帯なので、同じ子供達と挨拶をしたのです。私達の孫と同じような子供達と、朝から挨拶を交わしながらすれ違うとき、
〈今日も元気でね!〉
〈未来は君達にかかっているんだよ〉
と、言葉には出しませんでしたが、祈るような思いで手を振っていたものです。元気な子、うつむいた子、ふざけている子、遠くを見つめて何か思いにふけったような子と様々でした。
 
十年後、二十年後には大人になり、さらに三十年、四十年も経てば、彼らは間違いなくこの地域や日本を、大きくは世界を支える人材になっていると思う時、
〈君達のために少しでも良い社会をしっかりと残すように努力しますよ!〉
〈未来は、あなた達のためにあるんだよー!〉と、時には心の中で口ずさんだものでした。
 
今を生きる私達の幸福は、連綿たる先人の願いの結晶
 
それと同じように、過去に遡って先人の皆さんの思いを想像してみれば、おそらく父母や祖父母の世代の人々は、今の我々の時代に対して「良かれかし!」と念じながら、生きて来られたに違いありません。少しでも未来を、将来を良くしようと思っておられたに違いありません。
 
近年、日本の文化や日本人の生き方に対する世界中の賞賛の言葉を、よく耳にするようになりました。
 
それは先人の方々の次の世代への深い愛情の連鎖が、国家の滅亡で中断される事もなく、天皇陛下を中心に連綿と祈り続け、願い続けて来られた蓄積があったればこその事ではないでしょうか。
 
子供や孫のことを心配したり、幸せを祈ったりするのは世界中の全ての人に共通する思いに違いありません。
そこには宗教の違いも、民族の違いも、思想の違いも超えた、人間としての根本的な願いが凝縮しているはずです。
そしてご先祖様を大切にして来た私達日本人は、ご先祖様から連綿と伝わる「先祖供養の心」を、次の世代にしっかりと引き継ぐ事こそが、ご祖先様への恩返しにもなるのであります。

それはまた、未来の世代である子孫に民族の歴史をしっかりと伝承する事であり、未来へと繋がる祈りの橋渡しでもあると、確信致しております。
 
ご先祖様達が築いた歴史に、先祖供養の心で感謝を捧げよう
 
混沌とした世界情勢の中で、私達が歴史を改めて振り返る事が増々大切になって来ています。
 
その時、私達は個人としては祖父母や父母の欠点よりも、良き思い出や、ご恩を受けて有難かった事をより多く思い起こす事でしょう。
 
春彼岸 菩提(悟り)の種を 蒔く日かな
 
という作者不詳の道歌があります。
「悟りの種」とまではいかなくとも、ご先祖様への感謝の心と、この国の歴史への感謝の心が私達を安らぎに導き、日本社会を安定に導く大切な要素であると確信致します。
 
春のお彼岸を迎えるに当たり、より多くの人々がご先祖様を供養して頂くと共に、日本の近代史の良き面にもっともっと光を当て、先人への感謝の心を伝える事も、併せて行なって頂きたいと、切に念じております。合掌




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