2023年09月27日大日乃光第2382号
子供達の成長を活写した第三十四回こどもの詩コンクール
子供達の成長を活写した第三十四回こどもの詩コンクール
コロナ禍を克服して変容するこどもの詩コンクールの表彰式
皆さん、ようこそお参りなさいました。この記事は九月中旬に書いておりますが、来たる二十三日には準御縁日法要の後、夕方から御廟で秋彼岸全体供養と観月会コンサートを催します。都合のつく方はぜひご一緒にお参り下さい。
その一週間前の十六日には、熊本市内のKAB熊本朝日放送さんのスタジオで「第三十四回こどもの詩コンクール」の表彰式を執り行います。
コロナ禍の前は、熊本駅前の森都心プラザで特別三賞と各学年一人ずつの優秀賞、各学年十人ずつの優良賞の合わせて百二人の小中学生に、その保護者とご家族、並びに祖父母の方々にもご来場頂いて、四、五百人規模の会場で表彰式をしておりました。
コロナ禍になり、令和二年には優秀賞以上の十二名とそのご家族のみで表彰式を執り行いましたが、令和三年・四年になると一ヶ所に集まる事が難しくなりましたので、テレビ局さんが工夫を凝らして、各学校ごとに表彰式を催してご家族にも取材を行い、その模様をテレビ放送し、合わせてインターネットにも配信する形となりました。
以前の表彰式では元アナウンサーの小出史さんに詩を朗読して頂くのがたいへん感動を呼び、好評を博して来ましたが、昨年からは番組の中で子供達自身に詩を朗読してもらうように形が変わりました。
昨年は特別奨励賞を加えて特別賞が四つに増えましたので、私はその中の「坂村真民賞」と「親を大切にする子供を育てる会賞」、そして特別奨励賞の三名を表彰するために、三つの小学校に赴きました。いま一つの「熊本朝日放送賞」は、KABの竹内圭介社長が自ら表彰されました。
それ以外の優秀賞と優良賞の表彰式では、KABのアナウンサーさんが撮影スタッフの皆さんと共に各学校に取材に行かれました。
学校側でも感染症対策にそれぞれ特色ある工夫をされました。校長室で表彰式を行い、リモートでその映像を全校生徒に届けたり、表彰者の属する学年だけを体育館に集めたり、中には通常通り、全校生徒を集めて表彰式を行った学校もありました。
今年は四千三百十九篇の応募があり、県外からの学校応募や個人応募もありました。
まず各学年担当の九人の審査員の先生方が、学年ごとに仕分けされた中から上位十五作品を選ばれます。
次に審査員統括の先生も含め、総勢十人で話し合いながら、各学年一篇の優秀賞作品を決めて行かれます。
そしてその中から詩碑に刻み、奥之院大祭で入魂除幕される特別三賞の詩を選ばれます。
と、こういった形で作業が進みました。
先生方は、皆さんコンクールの趣旨に大変賛同されていて、非常に熱心な方ばかりです。それぞれ担当される約五百篇ほどの作品を全て熟読されて、その中から良い作品を選んで下さっているのです。
親子関係に変化の兆しを感じた今年の小学校高学年以上の作品
今年の子供の詩の特徴として私が感じた点は、小学校高学年から中学生の詩に、幼さと言うか、私達の時代にはなかったような家庭内での父母との親密さ、スキンシップや仲の良さが表現されている事です。これもコロナ禍の影響なのでしょうか。
総理から何度も緊急事態宣言が発出され、全国一斉休校が行われる中で、運動会や修学旅行等の思い出になる行事の自粛や縮小、マスクの着用や他人との距離の確保、授業のオンライン化が進んで友達と実際に対面する機会も減少したり、家庭の中で両親とずっと一緒に巣籠り生活を続けたり、身近な人の生死を間近に感じたりした経験の影響なのでしょうか。
ひと昔前でしたら、中学生と言えば思春期を迎える時期で、第二次反抗期でもありますから、親や周囲から言われた事に反抗したものでした。特に男子は恰好つけて「そんなのいらんわい」「そんなのしないよ」とか、少し斜に構えるような態度をとったりしたものですが、今年の詩を読むと、小学校高学年以上の作品にも、まだ無邪気に母親とハグしたり、父親と遊んだりしている様子が描かれています。
十五年、二十年前の子供達は、中学生になると、親にはもう運動会に来ないでくれと頼んだりしたほどでした。親や家族に見られるのが恥ずかしいと。ですから中学校の運動会には、親はほとんど行きませんでした。この地域ではほとんどそうでしたが、皆さん方の住んでいる地域ではどうでしたか?
この第二次反抗期は子供の心身の成長において、親離れして自立していくために必要な過程として位置づけられてきました。
この傾向が今後も続いて行くのかどうかは分かりませんが、思春期を経て親子の距離感が再構築されて行く、試行錯誤のこの重要な段階が何か欠落してしまっているような、そんな違和感を感じてしまいました。全体の中で、そういった作品が特に印象に残ったコンクールでした。
心の成長が巧みに描かれた亡きお父さんに捧げる作品
特別三賞の中の「親を大切にする子供を育てる会賞」は、別名を「蓮華院賞」とも言っております。今年の蓮華院賞は、中学校二年生の作品です。題名は「見ていてほしい」です。
お父さん
あなたが死んだことがはるか前に感じます
死ぬ前日に手を握って
「死なないで」
と言ったこと
不登校になってから
色々なところに連れて行ってくれたこと
闘病生活を間近で見ていたこと
膵臓癌だったことを知ったときのこと
お父さんが死んだときのこと
数々の共に過ごした思い出は
今も僕の脳裏に焼きついている
もしまた会えるなら
そのときは会いに行くと思う
だけど今は
きっと会わない選択をとると思う
今の僕を裏切るような気がするから
今も学校には行っていないけど
僕は今確かな道を進んでいる
夢へと続く道
険しく厳しい道だと思う
だけど、この道を進み続けようと思うよ
だから見ていてね
お父さん
父親に「死なないで」と言ったのに、現実にお父さんは亡くなってしまった。父親の思い出をしっかり抱えつつも、思春期特有の心の中の葛藤、親からの精神的な独立が描かれています。この若さで最も近しい肉親の死という人生の重大な転機を迎えて、確固とした自我が芽生えたように感じ取れます。
父親が亡くなる前、不登校になった自分をお父さんは親身になって心配してくれて、愛してくれた。その中で彼は夢を見つけたのかもしれません。
ところが無情にもその父親が病に倒れ、その苦しい闘病生活を間近に経験して、でも恐らく本人的には何もしてあげられなかった、何も恩返し出来なかった無力感を強く経験した事でしょう。
だからもし会えたとしても、今の自分のままではまだ会うわけには行かないと。自らの意志で自分自身に納得の行くようになるまで、夢を叶えるまでは、厳しい道だけれどもこの道を進んで行こうという固い決意が見て取れます。また父親からしっかり愛情を受けた事が伝わってくる作品でもあります。
審査員の先生方の切なる願い
この作品を「親を大切にする子供を育てる会賞」に選ぼうとした時、先生方の中からは心配の声も上がりました。
この作品を特別三賞に選んでも、彼は果たして表彰式に来てくれるだろうか?と。
テレビ局がインタビューに行った時にテレビの前に出て来てくれるだろうか?
思いを語ってくれるだろうか?
また表彰式やテレビに出てくれても、周囲から理不尽な扱いを受ける事がないだろうか等と色んな心配事がありました。
ですが、最終的には皆でこの作品を選びました。
先生方の願いは、彼がこの受賞を機に変わって欲しい、できれば来年中学三年生になった時に学校に行って欲しい。さらに言えば高校にも進学して欲しいというものでした。
作品では明らかにされていませんので、彼の夢が何なのかは分かりませんが、将来、その道に進んで、やがて社会に出た時に、学んだ事が少しでも役に立って欲しいというのが先生方の切なる願いなのでした。
来たる十月七日、第一土曜日の午前十一時四十分から、KABの『家族のWA!』で今年の入選詩が放送されます。熊本県内の方は、皆さん時間があったらぜひ観て下さい。
またKABの公式ホームページやSNSで全国からも視聴できますのでぜひご覧下さい。
苦難の中にも希望を見失わない二人の「幸せの落穂拾い」の達人
過去に詩の表彰が、人生の良い転機となった方がおられます。その第一は、こどもの詩コンクールの発足当初、第一回目の最優秀賞を受賞された、当時黒石原養護学校の中学部二年生だった藤本猛夫さんです。
藤本さんは筋ジストロフィー症に罹っておられました。筋ジストロフィー症は遺伝性の国指定難病で、筋萎縮による筋力低下で十代から車椅子生活となり、ほとんどが二十歳前後で心不全や呼吸不全のため亡くなります。そして未だに根本的な治療法が確立していません。
ところが藤本さんは頑張って、四十三歳まで生きられました。
藤本さんは「こどもの詩コンクール」での最優秀賞受賞によって自信がついたと言っておられました。そしてそれからも詩を書き続け、自力で『ごはんとみそ汁』という自費出版の詩集を出された事もありました。
本誌においても貫主大僧正様がよく文通したり、会いに行かれた時の事を書かれました。
普通の健康な人でも「これが出来なくなった」「あれも出来なくなった」と、年齢と共にくよくよするようになって行くのでしょうが、藤本さんは「まだこれが出来る」「あれも出来る」と出来ることを探して行かれたそうです。これが「幸せの落穂拾い」です。
また最近、同じような難病と闘っている山本栞奈さんという熊本在住の二十代女性の事がよくニュースやドキュメンタリーに取り上げられています。
彼女は病気だけでなく、世の中の不幸という不幸を一身に背負ったような悲惨な境遇にありながらも将来の夢や希望を決して諦めず、大学に通い、出来る事にチャレンジされています。
病名は明らかにされませんが、やがて自力での呼吸ができなくなり、気管を切開して人工呼吸器を装着する事になるそうです。それにより声を失う前に、世の中に色んな事を伝えようと、講演会などにも出かけておられます。
信仰のある生活の有難さを伝えよう
子ども達は親の後ろ姿をいつも見ています。「こうしなさい」と親に言われなくても、子どもは必ず親の背中を見て育ちます。皆さん方も生活の中に信仰を持つ有難さを、普段の後ろ姿で子や孫達に見せ、自然に伝えていって頂きたいと切に願っております。
今はまだ信仰心が目覚めていなくても、これから先、何か困った事が起きた時、悩んだ時、そういう時にどうしようか?おじいちゃん、おばあちゃんは蓮華院にお参りしたな…と。そうだ!蓮華院に行ってお参りしようか、相談してみようか…と、子や孫達にとって、少しでもきっかけになればと思います。
ご縁がないと結ばれません。子孫のために、皆さん方がしっかりご縁を作って後に繋げて頂きたいと念じております。有難うございました。合掌
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