2024年03月20日大日乃光第2397号
日々の先祖供養と三項目の実践が家庭円満への秘訣
日々の先祖供養と三項目の実践が家庭円満への秘訣
皆さんが本誌を手にされる頃、春のお彼岸を迎えている頃と思います。当山では今年も三月十八日から、貫主大僧正様が彼岸供養を厳修なさいます。
ところでこの時期になると、貫主様が度々仰っておられる道歌に思い至ります。
春彼岸 悟りの種を 蒔く日かな
まさにこの時期は、「暑さ寒さも彼岸まで」と昔から言うように、凌ぎやすく過ごしやすい気候になります。
そしてお彼岸と言えば普通はお墓参りですが、それだけでなく、この歌のように「悟りの種」を蒔き、私達が佛様になる、または人が佛様に近づくのに相応しい時期とも言われてきたのです。
〝サトリ〟の持つ多様な意味
ここで佛様になる、または佛様に近づくための智慧を表す「悟り」とは何かを、少し考えてみたいと思います。
『佛教語大辞典』（中村元著）では、「真実の智慧。真理に目覚める事。またその自覚的内容等」と書かれています。
これでは少し難しいので、以下のように考えてみます。立心偏に吾と書く悟り(サトリ)は、「吾(われ)の心を知る事」と、文字の形から解釈することが出来ます。
『大日経』ではサトリの事を、「実の如く自心を知る事」、つまり自分の本当の心をそのままに知る事であると説かれています。
当山で三十年以上前から行なっている「内観」も、この自分の心を知る大きなよすがでありますから、暑くも寒くもないこのお彼岸の時期は、「内観」の実修にも相応しい時期と言えるでしょう。
またサトリを「覚り」と書く場合には、物事の道理をしっかりと見定めるという意味になります。これも自分の心を明らかに見るのと同じように、周囲の世界をありのままに見るという考え方です。先の「悟り」の文字と合わせて「覚悟」と書く時には、強い信念を表します。
今ひとつ「諦り」と書くサトリもあります。「諦」は日常的には「諦める」と訓読みしますが、日本語の「望みや希望を捨てて諦める」という意味合いではなく、元々は真理や智慧という意味を表す言葉です。
信者さんのように佛教に慣れ親しんだ人達は「四諦・八正道」や、「四聖諦」の言葉がすぐに思い浮かぶと思います。
諦には「物事や自分自身の真実をアキラカ（明らか）にする」という意味があり、転じて「サトリ」と読む場合があるのです。
ダジャレのような話としては、サトリとは差別の「サ」を取る、つまり全ての人や物が、本来平等である事を自覚する事がサトリであるという話もあります。
以上をまとめると、悟りとは
一、自分自身の心の奥底にある本来の 自分に目覚める
二、物事の道理を見極める
三、周りの事柄や自分の心をありのままに見る
四、全ての命の平等性に気付く
などとなります。
輪廻転生を信じる感性
世間一般で「佛になる」「成佛する」という言葉を耳にする時、誰か人が亡くなった事を表す場合が多いようですが、これは間違いです。人は亡くなると亡者(もうじゃ)になるのであって、亡くなれば直ちに佛になれる訳ではないのです。
人が亡くなったら、遺族や親類縁者の懇ろな供養を受け、そして僧侶の引導を受けて、ようやく四十九日後に次の四聖界（声聞界・縁覚界・菩薩界・佛界）の何れかに往生する、というのがインド伝来の佛教に一般的な往生のあり方なのです。
また日本人は、その九十パーセントの方が普段は自覚していなくても、神道と佛教が混じり合った宗教観の元に生活しています。
そのような私達の日常的な感覚では、たとえば祖母が亡くなった頃に赤ちゃんが生まれると、「この子は亡くなったお祖母様の生まれ変わりかもしれない」などと、何気なく思ったりします。これは佛教以前から伝わる魂の生まれ変わり、つまり輪廻転生を信じ、その影響が強いアジアに広く一般的な感覚にも通じます。
一方で極楽浄土は西方十万億土、つまり西方のとてつもない遥か彼方にある浄土と表現されています。しかし私達の日常的な意識では、すぐそばの山や川や海に亡くなった方々が居られる、といった感覚があります。その意味では私達の故郷の山々が、まさに浄土であり、先祖の魂が宿る浄地なのであります。
日本の風土が生んだお彼岸の行事
人が今現世を生きている内に佛になろうという教えが、本来の佛教です。
佛教とは人が佛になるための教えなのです。しかし、現実にはなかなかそう簡単に佛になれる訳ではありません。
佛教は、お釈迦様が初めて教えを説かれてから二千五百年の間に、インドを始めアジアの多くの国々に伝わりました。その伝わった先々でその国の伝統や文化、そして様々な民族の個性に応じて変化して行きました。
一方で日本の気候風土は砂漠のような過酷な環境ではなく、厳しい暑さの熱帯や、厳しい寒さの寒冷地でもありません。最近は地球温暖化の影響が取り沙汰されていますが、それでも日本はアジアの他の国々よりもまだ穏やかで優しい気候風土であると言えるでしょう。
そんな環境の中で生まれたのが、春と秋のお彼岸の行事なのです。彼岸とは読んで字のごとく、「彼の岸」です。彼の岸に対して此(こ)の岸が「此岸」。この暑くも寒くもない極楽のような日本の風土の中で、お彼岸の行事が定着したのです。
佛教の説く「中道」とは
令和六年のお彼岸の中日、春分の日（三月二十日）と秋分の日（九月二十二日）には、午前と午後、昼と夜の時間がちょうど半分半分になり、太陽が真東から上り、真西に沈みます。
これを佛教では「中道」と表します。
また「二河白道」という言葉もあります。二河白道とは、まっすぐ西に向かって続く白く細い道（白道）があり、その道の南側が火の河、北側が水の河（二河）という状態を表し、人が迷いの此の岸から悟りの世界に至る過程を比喩的に表されたものです。
お彼岸には、ご先祖様の居られる彼岸とこの世（此岸）の間、火の河と水の河の間に真っ直ぐ真っ白な道が繋がるから、お彼岸にお参りすると先祖供養の功徳がよく届き、ご先祖様が救われますよという事で、昔からお参りを続けてきたのです。
先に「中道」と申しましたが、この二河白道の喩え話の真っ白で火と水の二河の真ん中を通る道、これが中道なのです。
この「中道」はちょっと考えると、熱い火の河と冷たい水の河の真ん中と解釈したくなる言葉です。ところが佛教で言う「中道」は、ただ単に真ん中という場所を表すのではなく、右にも左にも傾いていない、バランスのとれた状態という意味なのです。
この世界には明るい昼と暗い夜があるように、楽しみも苦しみもあります。中道の「中」は、一つのものの中間ではありません。互いに矛盾し、対立している二つの極端なものの間でバランスが上手くとれていて、安定している状態、それを「中道」と呼ぶのです。
「暑さ寒さも彼岸まで」の譬えの通りに、お彼岸の時期は昼と夜の長さが等しく、暑くもなく寒くもない「中道」そのものの快適な気候となります。
どちらかに偏る事は、バランスを崩すという事です。バランスを失えば、転倒してしまいます。
コロナ禍による巣籠り生活が終わるか終わらないかの内に世界では戦争が始まり、その情報が毎日延々と続きました。今年に入ると先の能登半島地震が起きる中、心のバランスを崩してしまう方が増えているという話も聴き及びます。皆さん、どうか心のバランスを崩さないように、ぜひ心がけてください。
良き伝統が途切れがちな最近のお墓事情
日本ではご先祖様を大切にする良き伝統が、過去の先人や歴史を尊ぶ民族性となって連綿と受け継がれ、家庭生活や社会生活に良い影響を与えてきました。
ところが戦後、この良き伝統がなしくずしに衰え、日本人本来の心のバランスが危うくなりつつあります。
ご先祖様を大切にする伝統も、歴史を尊ぶ国民性も急激に衰退し、最近では「墓仕まい」や「樹木葬（自然葬）」、果ては「散骨」などを助長するような浮評がまことしやかに広まっています。
当山の霊園「蓮華院御廟」に於いても、「今後、子供達の時代になるとお墓を守るのが難しくなるかもしれない…」とか、「子供達に迷惑をかけたくない」などといった不安から「永代供養を付けて欲しい」という要望が増えています。
子孫の続かない家庭では「永代供養」を付けるのもやむを得ませんが、子孫が続いている家庭では、ご先祖様を供養していく事が蓮華院信仰で最も大切な事です。私達の幸福を支えて頂いているご先祖様に感謝し、今一度、お子さんやお孫さん達と膝を割って、お墓のあり方について話し合って頂きたいと切に願うものであります。
お佛壇に手を合わせる習慣をしっかりと残そう
ご先祖様を大切にする思いと、安定した家庭生活の間には、密接な関連性があります。
家族が朝から互いに挨拶を交わしあう家庭。
食事を一緒に食べ、家族の団欒のある家庭。
父母、祖父母、そしてご先祖様を大切にする家庭では、当然のように家の中の佛壇に皆がよく手を合わせ、春秋のお彼岸には皆でお墓参りをする事が家庭の習慣になっている事でしょう。
お墓を守れないかも？と思われる家庭では、先のような家族の良き家庭習慣が充分に機能していないのではないかと思います。
私達が自分自身の心のバランスを崩さず、幸せな家庭生活を送り、老後や死後も、引き続き幸せな生活を送り続ける子や孫達から大切に供養してもらう…。
そんな未来を叶えるためには、先の良き家庭生活の習慣を率先して実行する事が、いかに大切かと思うのであります。
春のお彼岸に当たり、今一度、貫主大僧正様が年頭に示された家庭生活の三項目、
（1）互いに挨拶を交わし合う
（2）食事の時、合掌して「いただきます」「ごちそうさま」をはっきり心を込めて言う
（3）「はきもの」を揃える
をしっかりと実践して頂いて、そこから幸せな家庭を築いて行って頂きたいと切に念じております。合掌
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