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2024年07月22日大日乃光第2407号
真如大僧正三十三回忌を前に「布施大道」の精神を心に刻む

皆さん、暑い中、ようこそお参りでした。
一昨日、早いもので一年の折り返し日(半夏生)を迎えました。年を重ねると共に、時の流れを余計に早く感じております。
 
私の記録によれば、去年は七月二日がこの地域における初蝉でした。今年はつい昨日まで梅雨の長雨が続きましたが、皆さんの所では如何でしたか?初蝉もまだ聴かれない所があるかもしれませんね。こちらはもう梅雨明けのような、そんな印象を持つ程、暑い気候になりました。
 
今日、七月三日は何を話そうかと色々考えておりましたが、四日後が先代真如大僧正様の三十三回忌に当たります。本当に早いものです。先代の何々回忌は、私にとっては住職を務めた期間と全く重なるわけです。
 
それともう一つ、七月八日と言えば、故安倍晋三元首相の三回忌に当たる日です。日本のマスコミは安倍さんの実績を批判して来ましたが、それでも国民は安倍さんをしっかり支持して来ました。特に若い人達はその前の三年間の失業率の高さ、円高の凄さ、国力の低下、日本国家の危機的な状況をよく憶えていました。
 
そんな中で安倍さんは、八年八ヶ月の間に様々な手を打って、そんな状況を打破して下さった。世界の首脳達との会合等の時、安倍さんは常にその中心的な役割を果たされました。全ての政策が正しかったとは言いませんが、国際的な日本の地位を高められた事は間違いありません。
 
七月八日は「文殊会」の日
 
七月八日と言えばさらにもう一つ、毎年先代の事を忍ぶに当たり、次の事で結果的にはこれほど良い日付は無かったとしみじみ思い至ります。
 
そこに「布施大道」と大書してあります。これは真如大僧正様の直筆の書です。布施こそが人生の大道、人生における大いなる道であり、佛法の大道なのだと。
 
この布施大道を唱えられた真如大僧正様のご命日が七月八日…。この七月八日という日付は、平安時代の天長五年(八百二十八年)に、『文殊師利般涅槃経』の教えに基づき、朝廷の命令で国家が一丸となって貧病者救済の社会福祉事業が行われた「文殊会」の日に当たるのです。
 
この日、全国の村々では前後三日間に亘り殺生を禁じ、参集した男女に文殊菩薩の名号を百回唱えさせ、三帰五戒を授け、貧病者への施しが行なわれました。政府自ら、朝廷自らが困窮する庶民のために様々な物を施した日。食料であったり、衣類であったり、薬であったり、そういった物を施した日が七月八日なのです。
 
日本における国家的な事業として、庶民救済を実施したのが七月八日なのです。ほとんどの人はこの事を知りませんが、これは世界の歴史の中でも特筆すべき素晴らしい事なのです。
「文殊会」はその後、京都の東寺と西寺(廃寺)において年中行事として、鎌倉時代初期までは毎年続けられました。
 
古代インドの聖王に遡る「無遮大会」
 
この「文殊会」の開催に当たり、中心となって朝廷に上奏されたのは元興寺の泰然上人様でした。元興寺は飛鳥時代に法興寺として推古天皇四年(五九六年)十一月に創建された日本最古の佛教寺院です。その開創法要の一環として「無遮大会」が開かれていました。
 
「無遮大会」はその後も六九七年五月十五日に持統天皇が薬師寺で開催されるなど、五年に一度、朝廷主催で「誰にでも限りなく施しをする法会」として続けられました。これが我が国初の、佛教思想に基づく貧者救済事業でした。
 
更に歴史を遡れば、約二千三百年ほど前に古代インドのアショーカ王(阿育王)が「無遮大会」を始められた事が漢訳佛典で伝わっています。出家・在家・男女・貴賤の区別なく、飲食・物品を平等に施す法会が行われたという事です。
 
アショーカ王は釈迦入滅二百年後に千人の比丘を集めて第三回佛典結集に尽力されるなど佛教興隆に務められ、佛塔を建立され、佛法に基づき国を統治される等、後のカニシカ王と共にインドの二大聖王と並び称されています。
 
受け継がれる叡尊上人の精神
 
さて、鎌倉時代の文永六年(一二六九年)三月五日、西大寺を中興された叡尊上人の真言律宗教団が般若寺を施場として、被差別の人々や、今で言うハンセン病患者を含む貧病者達への救済活動を「無遮大会」と称して始められました。それは毎年一回、国の制度として行われていた「文殊会」の福祉事業とは異なるものでした。
文殊信仰に基づく基本理念を継承しながらも、一宗団が従来の救済対象を超えて、当時は業病と見做されていた人々に対しても恒常的に医療活動を続けるための「北山十八間戸」を創建される等、画期的な救済活動を進められたのでした。
 
蓮華院誕生寺の国際協力活動や自然災害の際の被災地支援活動は、皇円大菩薩様の衆生済度の御誓願と、この叡尊上人の精神を受け継ぐものと捉えております。
 
国際協力を通じて、海外の難民の人達や、貧しい生活をしている人達、教育の届かない人達に対して、単に支援物資を分け与えるというやり方ではなく、彼ら自身の自立を促すような支援活動を四十四年間続けてきたわけです。まだまだ世間の人々に広く知られている訳ではありませんが、私は今や現代の佛教史に於ける貴重な一ページになっていると思います。
 
官民協働によるインド支援事業
 
準教師の伊藤祐真さんが、つい先週インドから帰国しました。それはアルティック(認定NPO法人れんげ国際ボランティア会)がインドのチベット難民居留地域で行う支援事業の為でした。これは三、四年前から進めてきた政府開発援助(ODA)を使い、民間のNPO(NGO)団体であるアルティックが出したアイデアを国と協働で行う支援事業です。
 
コロナ禍によって実施も報告も遅れましたけれども、一昨年には八ヶ所のチベット難民居留地域で上下水道の整備を中心に行いました。チベット難民に対して国の公的資金を使って支援を行ったのは、日本のODA史上この時が初めての事でした。
 
そして今年も外務省の審査が通り、チベット難民居留地域で、病院に付設するトイレの改修工事や、水を確保するタンクを造る等の事業に取り掛かる事になりました。また、同時にインドに対する支援活動も進める事になりました。場所はタージ・マハルという世界遺産の白亜の霊廟で有名なアーグラという都市の、被差別の人達が沢山住む地区に於ける教育文化支援活動、並びに公衆衛生環境改善の為の支援活動となるものです。
 
信者の浄財あっての国際協力
 
以上のアルティックの活動はインドを舞台とする国際協力活動の一環ですが、これは平安時代に元興寺の僧侶による提唱で、国家の一大事業として毎年七月八日に行われるようになった「文殊会」と軌を一にするものと考えております。
 
またその活動の淵源となった飛鳥・奈良時代の「無遮大会」や、鎌倉時代に叡尊上人が行われた真言律宗教団による被差別の人達やハンセン病患者への救済事業とともに、『文殊師利般涅槃経』の精神に基づく活動を、現代に於いて継承するものであると考えております。
今日の官民協働による支援活動は、二十年ほど前からのNGOの素晴らしいリーダー達による地道な努力の賜物であります。
 
そして何と言っても蓮華院の国際協力がここまで至ったのは、信者の皆さん方お一人お一人が、毎月二十日と八日に、自分のご飯を一食食べずに募金をして頂いた「一食布施」や、また常日頃から「同胞援助」として募金を続けて頂いた「慈悲行」としての浄財のお陰であります。
 
この募金活動がずっと続けられたお陰で、現在、こうして政府からの信用まで勝ち得るに至ったという事なのです。今日もこの後のお加持をする前に、この法座の前に設置する磬子は、お寺に対するお供えではなく、「同胞援助」としての募金なのです。
 
また、そういった対外的な支援活動以外にも、国内でもつい先週、二回目の能登半島地震被災者支援を、アルティックの久家事務局長を中心に行いました。九州看護福祉大学の口腔衛生科の三人の学生と二人の先生と合わせて六人で行ってきました。避難所ではとても喜ばれたという話で、近々『熊本日日新聞』で特集が組まれるそうです。
 
四十四年の歳月を経て開花した「布施大道」の精神
 
今を去る昭和五十五年の三月三日に、真如大僧正様がこの法座から「同胞援助」を提唱されました。そして同年十一月三日の第三回奥之院大祭では満座の聴衆に向けて「一食布施」を御垂示なさいました。それを機に始まった蓮華院の国際協力活動は、今や国レベルで認められる活動が可能になったという訳です。
 
来たる真如大僧正様の三十三回忌の御命日、七月八日を前に、その日付が先代の掲げられた「布施大道」の精神にぴったり符号する、平安時代の「文殊会」の日であったという事に、非常に不思議な巡り合わせと運命を感じております。それは飛鳥・奈良時代の「無遮大会」から、平安時代の「文殊会」を通じて、鎌倉時代の真言律宗教団の福祉事業に至るまで、一貫して『文殊師利般涅槃経』の精神を軸に行われたものでした。
 
その精神の元で奈良時代から、大きなお寺の一角には病院や孤児院、養老院などの福祉施設が設けられました。かつては蓮華院の一角にも病院が設けられていました。真如大僧正様の掲げられた「布施大道」の精神は、正しくそれを言い表し、継承するものであります。
 
このように社会に与えた佛教の慈悲の精神、そして布施の精神。そういったものが現代も脈々と残っているという事。とりわけ蓮華院の信者の皆さん達は、それを毎月毎月、またお参りの度に実践して頂いているという事に、改めて深く深く感謝すると同時に有難く思っております。合掌




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