2024年08月11日大日乃光2409号
「神佛習合」の精神性が育んだ伝統と最先端が共存する日本
皆さん暑い中、ようこそお参りでした。
二十四節気で言えば、昨日から大暑の候に入り、一年で最も暑い時期を迎えております。
お参りを始める前に気温を見ると、三十度ありました。今はとても便利で日本各地の気温がすぐ分かるのですが、大阪も東京も三十二度、奈良と京都は三十一度でした。
こちら九州の方が気温が低いというのは近年の気候変動の一種なのでしょうか。
世界には通用しない「四大文明」
皆さんは中学校の社会科で「世界四大文明」を習いましたね。メソポタミア文明・エジプト文明・インダス文明・黄河文明の四つと。
この「世界四大文明」を最初に提唱されたのは、騎馬民族征服王朝説で有名な日本の考古学者、故江上波夫博士で、彼が携わった世界史の教科書が初出という事です。
しかしこのような「四大文明」という論調が通用するのは日本と中国だけだそうです。
アメリカの政治学者、故サミュエル・ハンティントンの『文明の衝突』(一九九六年刊)では、現代の諸国家の源流となる八つの主要文明が提唱されました。
その中で、独立した単一の文明圏として日本が取り上げられています。
縄文文明が育んだアニミズム
これはほぼ確定的な事実ですが、青森県の三内丸山遺跡と、それと一連と考えられる各地の遺跡発掘調査の進展によって、日本の縄文時代を世界最古の文明発祥の地であるという説があります。
この世界最古の縄文時代から脈々と受け継がれてきた日本文明の特徴は何でしょうか?
一つには、日本民族が縄文時代からずっと先祖を大事にしてきたという事です。
いま一つは豊かな自然環境への感謝の気持ちです。四季折々に移り変わる季節の豊かな恵みに感謝する中で、自然の中の動植物、樹木から石ころに至るまで、あらゆるものに命が宿るという考え方が育まれました。
私が習った宗教学の分類で言えば、そういった全てのものに命が宿るという考え方をアニミズムと言います。
「汎神論」が導いた相対性理論
これを西洋の宗教観に照らして言えば、「汎神論」に近いものがあるとも言えるのかもしれません。「汎神論」は十七世紀のオランダの哲学者、スピノザが『エチカ』という大著の中で著した考え方です。
スピノザはこの汎神論で、万物は「神の本質的な性質」が表された物であるとし、自然界を支配している法則の美しさと合理的な統一性の中にこそ神が宿ると唱えたのです。
そして従来の一神教の、人間の運命や行動を司る超自然的な人格神を否定しました。
この考え方に最も共感したのが二十世紀初頭の天才物理学者と言われるアインシュタインです。彼は「私はスピノザの神を信じている。それは、この世界の秩序ある調和の中に自身を現される神である」と言って、物理法則の中に統一的な調和を見出すことを目指し、相対性理論を生み出したのです。
熱心なユダヤ教徒の家庭に生まれ、元々純心な信者でもあったアインシュタインは後に、
「宗教を伴わない科学は不具であり、科学を伴わない宗教は盲目である」
という警句を私達に残しました。
世界最古と先進性が共存する日本
さて世界で最も古く、しかも独立した文明圏である日本の文化への評価が最近では世界的に大変上がって来ています。
日本に来た各国からの旅行者や、滞在した人々を含めて、「日本はなんて素晴らしい国なんだ。どこに行っても綺麗で清潔、そしてルールをよく守る。国民は親切だし、お互いに助け合う。それでありながら、世界最先端の技術や文化を先取りしている」と。
二十一世紀はこれからも様々な変革が起こりますが、エネルギー革命を中心とした色々な科学技術の劇的な進歩を先導しているのは日本なのです。
縄文時代以来、文化的に最も古い信仰とされるアニミズム的な宗教、汎神論的な信仰を持ちながら、なおかつ最先端の科学技術を着々と進めている民族。
そして世界を平和な社会に導く温厚で融和な精神性を持っている。いわゆる助け合いの精神ですね。
そしてそれに加えて謙虚である事。
こういった様々な日本の特性を世界中の人達が認めつつあり、「日本は何て先進的な国なんだ、進んだ国なんだ」と言われています。
一方日本国内からは、日本の現状を褒め称えるような論評はほとんどありません。日本人は外国の事は褒めても、自分の事をほとんど褒めません。
それが謙遜と言う美徳なのかもしれませんが、自分の事を認識している内容よりも、外国の人が非常に高く評価しているというこのアンバランス。そして日本がここまで世界を思想的にと言うか、社会的にリードするというのは何なのかを私なりに考えてみました。
全ての長所の淵源は「神佛習合」?
日本は世界三大宗教の一つである佛教を取り入れながらも、古来からの信仰も捨てませんでした。例えばヨーロッパではキリスト教が入ると、ケルト文明などのそれ以前の古い文明はほとんど絶滅しました。
キリスト教には一神教の良い所も沢山ありますが、悪い所は他の宗教や信仰に極めて不寛容で、キリスト教の神以外を一切認めない事です。同じ一神教のイスラム教もアッラー以外を一切認めません。唯一絶対の神という一神教を信仰する世界では、それ以前に民族が守ってきた伝統的な文化や特に宗教は悉く滅ぼされ、否定されているのです。
ところが日本では佛教を受容するに当たり、古来からの神道も否定しませんでした。
日本人は一万五千年以上前の縄文時代から、自然に対する感謝、先祖への感謝、そして争いを好まない融和な精神性がありました。
こういった日本人の精神的特性は、佛教が入ってきてからも全然変わっていません。
これを一般的に「神佛習合」と言います。
こういう宗教体系を持っているのは世界で日本だけなのだそうです。
世界的な宗教が入ってきても一万五千年以上前から続く国民性をほとんど壊す事なくすっぽり包み込み、佛教の裾野も広げて行く。こういう社会は日本だけなのだそうです。
これは私見ですけれども、色んな情報を総合的にみると、それが日本の一番の長所に繋がっているのではないかと思っています。
真言宗の責務とされた護国の祈り
今朝、東寺第二百五十八世長者になられた橋本尚信管長猊下からのお便りが届きました。
東寺というのは京都駅のすぐ南側の五重塔で有名な、京都のランドマーク的なお寺です。
真言宗十八本山の筆頭で、正式には教王護国寺と言います。元々は平安京の正門(羅城門)の東西に国家鎮護の官寺として、対となる西寺と共に建立されました。
八二三年に真言宗の宗祖弘法大師空海上人が、嵯峨天皇から東寺を下賜され、真言密教の根本道場とされて教王護国寺と名前を変えました。これは天皇陛下を教導し、国家を守護する使命をお寺の名前にしたのです。
この伝統と栄誉ある東寺長者、橋本尚信管長猊下は、何と私の高野山専修学院の同級生なのです。嬉しく思うと同時に、私もそんな歳になったんだなと思いました。
その前の管長猊下も飛鷹全隆大僧正様と言って、若い時よりお付き合いをして頂いた、素晴らしい方でした。
その東寺で重要な法要が、一月八日から十四日まで一週間通して催されます。
これを「後七日御修法」と言います。
真言宗の十八本山の管長猊下が集まって、一週間籠って一日三座四座ずつ護摩を焚いたり、様々な修法が行われます。
私も若い頃参加した事がありますが、非常に身の引き締まる、寒い中にも凛とした空気が漂うとても有難い法要でした。
九世紀の始め頃から宮中で元旦から十四日まで年始行事が行われ、これを前後に分けて前七日には神道による節会が、後七日には佛教による御斎会が大極殿で行われました。
後に弘法大師の上奏により宮中に内道場(真言院)が建立されて、鎮護国家と玉体安穏(天皇陛下の健康祈願)の祈祷が行われるようになりました。
当初は天皇陛下の玉体に直接香水加持されていましたが、やがて御衣加持と言って、陛下がお召しになる御衣をお借りしてお加持をするようになり、これは今も続いています。
そして弘法大師以来、幾度かの中断を経ながらも、国家安泰と玉体安穏を祈る法要が連綿と続いているのです。
神佛習合の魁となった東大寺建立
日本には元々どんな先住民族がいたのか、日本人がどこから始まったのかはまだ定かではありませんが、古来の日本にたどり着いた人達が融和して縄文文化が形作られました。
そしてまた新しい人達が渡ってきて稲作が伝わり弥生文化が育まれ、やがて古墳時代を迎えて、その頃から天皇陛下がおられました。
そういう国家が続く中で、飛鳥時代の頃に佛教が入って来て、聖徳太子が十七条の憲法の第二条「篤く三宝(佛・法・僧)を敬え」と、佛教を重んじる立場を明文化されました。
歴代天皇の中で、最も篤く佛教に帰依されたのは、奈良の大佛様で有名な東大寺造立を発願された聖武天皇ではないかと思います。
その東大寺を建立するに当たり、聖武天皇は遥か九州の宇佐神宮より手向山に八幡神を勧請されて、神社も建立されています。
その時御神体を載せて運んだ輿が、日本初のお神輿ではないかとも言われています。
そしていよいよ大佛開眼大法会は、八幡社の神様も見守る中で落慶したのです。
これも神佛習合の現れの一つであります。
八幡神は「南無八幡大菩薩」と唱えます。
「南無皇円大菩薩」と同じですね。
八幡神を佛教の大菩薩として崇めている。
これも神佛習合の一つの形であります。
神と佛の共存は日本民族固有の気風
伝統的な日本の家庭には佛壇があり、神棚もお祀りされていました。それが全く何の違和感もない家庭の有り様でした。
このような神佛習合、神佛混淆こそが一万五千年前の縄文文明以来の日本民族の記憶、民族の生き様なのです。
家庭の中に神棚と佛壇を両方祀り、神様と佛様が何百年何千年と仲良く融合しながら、この国の家族というものを脈々と形作ってきた。こういう複数の宗教の平和な共存がみられる歴史を持つ国は、世界で日本だけです。
日本人古来の気風であるお互いに睦み合い、お互いに助け合う、そういう社会風土や、お互いに尊重し合う「情けは人の為ならず」といった考え方は、佛教の教えと矛盾するものではありません。それらは佛教の「慈悲」と親和性の高い考え方と言えます。
世界的な宗教である佛教を受け入れながら、民族固有の素晴らしい気風も失わなかった先祖の方々に感謝し、そして天地自然の恵みに感謝する。そしてお互いに助け合う。
これが世界を融和に導くとても大事な考え方ではないかと、一部の世界的なリーダーからも言われているのです。
日本人である事に自信と誇りを持とう
私達が謙虚である事は、確かに日本人の美徳です。しかし謙虚であっても、もっと誇りを持って良い。自分の国を愛する事と謙虚である事は矛盾しません。
最先端の科学技術、世界を救うような新しい技術、日本はそういう先進技術開発の先頭を突き進んでいるのです。
それらを支えているのは、実は日本人の和の心であり、お互いに助け合う基本精神です。
全てのものに神を見出す、神々がこの地球上に満ち満ちているという考え方は、まさに最先端の科学技術と何も矛盾しないのです。
そういう素晴らしい民族性を日本人は長年持って来ました。その事を私達は誇りに思い、これから先も次の世代へと確実に受け継いでいく事でしょう。
皆さん達が御先祖様から受け継いだ大切な信仰や、善き生活習慣などを次の世代にもきちんと伝えつつ、日々の勤めを果たして行かれますようにと、日々念じております。合掌
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