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大日乃光






大日乃光

2024年12月17日大日乃光2420号
佛縁に恵まれた一年をふり返り来たる年に一層の精進を誓う

本山最大の法要でお務めした重責

『大日乃光』も今年最終号となりました。本誌が皆様のお手元に届く頃には大掃除もひと段落し、新年の準備を始めておられる頃かと思います。

私自身も今年一年を振り返ってみますと、大変貴重な佛縁を沢山頂きました。 その中でも特に印象に残っている事は、「光明真言土砂加持大法会」で「綱維」を務めさせて頂いた事です。

当山は真言律宗に属しておりまして、本山は奈良の西大寺です。その西大寺で一番大切にされている法要が、毎年十月三日、四日、五日と三日間に亘り執り行われる「光明真言土砂加持大法会」になります。

鎌倉時代の文永元年(一二六四年)に、西大寺の創建を発願された称徳天皇の御忌日を開白日と定め、七日七夜不断の法要として始められ、現在に至るまで約七百五十年間連綿と勤修されてきた行事であり、真言律宗の宗団一門にとって最大の年中行事でもあります。

「光明真言」の有難い功徳

普段の「在家勤行次第」の中で信者の皆さんもお唱えされている「光明真言」は、大日如来の秘密呪にして一切諸佛諸菩薩の総呪、根本陀羅尼とされ、真言密教では特に重要なご真言であります。 光明真言の功徳は罪障消滅、抜苦与楽があげられます。このご真言で加持した土砂を亡者に散ずる事により、その者が極楽浄土に往生すると言われてきました。

土葬が主に行われていた時代には、死後硬直したご遺体を甕の中に収める際に、体を柔らかくするために使われました。またこの土砂はお守りとしても大切にされました。

法要前の荘厳では、西大寺の御本尊、釈迦如来立像の須弥壇の上に土砂を入れた瓶を安置し、祈念いたします。現在は三日間の法要として執り行われていますが、その精神と形式は伝統を守って厳修されています。

功徳を表現する「提灯たたみ」

さて私が務めさせて頂いた「綱維」とは、事前の資料によれば、その心得として「綱維は開白前日、客殿に於て読聞せある通り、大なる権力と責任とを帯ぶ。換言すれば、宗内及び随喜登山の取締役兼世話掛りなり」と記されています。簡単に言いますと、法要を進めるにあたって、準備や統括等責任をもって行う役になります。

法要中は「オンアボキャベイロシャノウマカボダラマニハンドマジンバラハラバリタヤウン」の光明真言を、一文字ずつ節をつけて、七、八分程かけてお唱えします。 その間ゆっくりと、立った状態から五体投地し、次の一回でまた元の状態に戻ります。

その姿が提灯をたたむような姿に似ている事から、「提灯たたみ」とも言われております。 なぜそのようなゆっくりとした動作になったのかは定かではないようですが、光明真言の功徳により、亡者が徐々に蘇生する情景を抽象的に表現しているという説もあるそうです。

宗祖叡尊上人のご遺徳を偲ぶ

この法要を通じて本山の空気に触れ、改めて宗祖叡尊上人の偉大さを強く感じました。西大寺は奈良時代には東大寺と並ぶ大伽藍を誇っておりましたが、叡尊上人が入られた頃には東塔、四王堂、食事堂の三つのお堂しか残っていなかったそうです。

そこでお大師様(弘法大師空海上人)の、「佛道は戒なくしてなんぞいたらんや。すべからく顕密二戒を堅固に受持し、清浄にして犯すことなかれ」とのお言葉に触れられて、改めてお釈迦様の説かれた佛教に立ち返り、戒律を守りながら西大寺の復興に取り掛かられました。

そのため叡尊上人は西大寺中興の祖と崇められているのです。 また西大寺だけではなく、全国数百のお寺(国分寺・国分尼寺)の復興、再建にも尽力されて、佛様の教えを多くの人々に広められました。

文殊信仰が布施行の根本

そして「興法利生」(佛教を盛んにし、民衆を救済する事)を理念として、具体的な菩薩行にも力を注がれました。

叡尊上人は文殊菩薩を篤く信仰されました。文殊菩薩は貧窮孤独の民に姿を変え、信仰者の前に現れると経文にあります。叡尊上人は貧困、孤独、病気などで苦しんでいる多くの人々を文殊菩薩の化身とみて、直接手を差し伸べられました。

医療や科学の未発達な当時の状況を想像すると、断固たる決意であったに違いありません。 そのような行いから、御遷化の後、時の皇室より「興正菩薩」の諡号を頂かれました。 叡尊上人は現在でも菩薩様として多くの人々の信仰を集め、その教えを通じて人々を導いておられます。まさに蓮華院の御本尊皇円大菩薩様と同じように、この身このまま佛になるという「即身成佛」を体現された方でもあられます。

蓮華院では昭和五十五年よりれんげ国際ボランティア会(アルティック)として国際協力支援活動を継続しております。 信者さん方はご存じですが、「一食布施」と申しまして、故真如大僧正様のご提唱により、月に一度は意識して一食を断食し、その食費を募金して頂き、その援助資金を中心に、様々なボランティア活動を行ってまいりました。

月に一度の断食は、特段難しい事ではないと思いますが、その断食を通じて飢餓に苦しむ同胞の苦難を少しでも経験し、その思いの下に社会に奉仕しようという志です。 こうして振り返ると、私達の日々の活動は、叡尊上人の教えも手本となっている事に気づかされます。改めて真言律宗の根本理念を念頭に、日々の勤めに精進努力していかなければと感じました。

佛様の御心に照らして精進

ここでもう一つ、叡尊上人のお言葉をご紹介したいと思います。 興正菩薩七百年御遠忌を記念して刊行された『興正菩薩御教誡聴聞集』の「和上御教誡等打聞撰集」では、叡尊上人のお言葉をなるべく私語を加えずに通釈されていますので、少しそのまま抜粋いたします。

「一、 学問は、その韻(意趣)を心得るべき事 ある時の御教訓で仰せになりました。学問をすることは、心を直そうとするがためである。 今時の人はものをよく読もうとする許りで、心を直そうと思うものはめったにいない。 学問というものは、まずその本来の意趣を心得て、常に自分の心が聖教(佛典)に説くところに合っているか否かを知ることである。自分の心を聖教の鏡に照らしてみて、その教えに背くことは止め、またそれ自体が適っていれば一層それに努めて、道に進むことを学問というのである」云々と。

これは学問に限った話ではなく、全ての行いに通ずる事かと思います。自分の全ての行いは心を直すために行じるのだと、佛様から見られても自信をもって出来る事ならより一層はげみ、見られてまずい事はやめなさいと。 これは貫主大僧正様が常々仰られている開山上人様の御遺誡と同じように、佛様の御心に適う生き方の重要性を説かれているように感じます。 「お天道様がみられている」「ご先祖様に恥ずかしくないように」等、最近ではあまり耳にしませんが、その感覚に近いものがあると思います。

「幸せ」になれる心の持ち方

ここで以前実際にあったという古いお話をさせて頂きます。 ある時、奥之院の境内で、ちょうど同じ時期に二人のおばあちゃんが躓いて転倒された事があったそうです。奥之院が落慶してすぐの頃の出来事だそうで、当時の駐車場は砂を固めて、細いロープで駐車スペースを作っていました。そのロープに足をとられてしまったという事です。

お二人共膝を擦りむいた程度の怪我で済んだそうですが、一人のおばあちゃんはすごい剣幕で寺務所に怒鳴り込まれて、病院に行くからと慰謝料を請求されました。もちろんお寺側にも非はありますから、治療費をお渡ししたそうですが、その方は怒って帰られました。

もう一人のおばあちゃんは、帰り際の怪我だったにも関わらず本堂に引き返し、もう一度お賽銭をあげて佛様に、「お寺の境内で転んだのでたいした怪我にならずに済みました」と、感謝のお参りをして帰られたという事です。

さて、どちらのおばあちゃんの方が幸せと言えるでしょうか? このように同じ現象が起きても、心の持ち方ひとつで後の結果が変わってきます。 日頃から、「佛様だったらこんな時どうされるかな?」と考えるだけでも、今後の行いがより良い方向へ進んで行くことと思います。

お大師様の息吹を感じた記念のお勤め

今年の奥之院大祭には五年ぶりに横綱土俵入りがございまして、大勢の方にご縁を結んで頂きました。また今年は九州三十六不動霊場会と、九州八十八ヶ所百八霊場会の四十周年記念の年でもありました。 当山も、本院が九州八十八ヶ所百八霊場の第五十七番札所で、奥之院が九州三十六不動霊場の第二十一番札所となっております。

九州三十六不動霊場会では記念法要といたしまして、奥之院大祭に合わせて信徒会館で「お砂ふみ」が行われました。 三十六ヶ寺と番外を合わせて三十八ヶ寺の境内のお砂を踏みながらお参りする事により、実際にお遍路した時と同じご利益を頂けるという有難いお参りでした。

九州八十八ヶ所百八霊場会でも、十一月十一日に福岡県の鎮國寺にて、「大般若法会」と、同じくお砂ふみが執り行われました。 鎮國寺は、平安時代初期の大同元年(八百六年)にお大師様が創建された真言宗最古の寺院で、その奥之院は実際にお大師様が修法された場所であります。そのような場所でお勤め出来て、お大師様を身近に感じる事が出来、大変有難く思いました。

喜び一杯の笑顔でお迎えしたい

最後に私事ではございますが、この四月三十日に第二子を授かる事が出来ました。南大門春まつりの御祈願中に破水し、次の日、お陰様で母子ともに健康で生まれてきてくれました。最近、つかまり立ちが出来るようになってきて、来年の一月十三日のけむり護摩の時には、はじめの一歩が出ている頃かと思います。初まいりの際にお見掛けされましたら、ぜひお声掛け頂ければ有難いと思います。

これから大晦日、お正月にかけては奥之院にて、またお正月初まいりでは本院にて、信者の皆さん方のお参りを、寺内一同共に心よりお待ち致しております。合掌




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