2024年12月24日大日乃光第2421号A
国際協力、振り返って前進
認定NPO法人 れんげ国際ボランティア会
専務理事 川原光祐
慈悲の御心を具現化する使命
信者の皆様、読者の皆様、新年明けましておめでとうございます。 昨年は能登半島地震に始まり、海外では争い事が続いており、なかなか心穏やかとは行かない一年でしたが、こういう時だからこそ国家安泰・世界平和を祈りつつ、前向きに明るく新年を迎えたいと思います。
さて、私が専務理事を務めております「れんげ国際ボランティア会」(ARTIC=アルティック)の活動は、今年で四十五周年を迎えます。その根本精神は、皇円大菩薩様の慈悲の御心を具現化する、現世において実践する事にあります。 またその運動は、あくまでも受益者が主役であって、私達は黒子に徹して支援して行かなければなりません。
現在の主な支援活動は、五年前からインドに於けるチベット人居留区の、四ヶ所の病院の上下水道とトイレ施設の整備事業に取り組み、外務省の助成金(日本NGO連携無償資金協力)による第一期支援事業を完了させました。
現在第二期支援事業と致しまして、インドの首都ニューデリーから百七十キロ程離れたアグラ(世界遺産のタージマハール廟で有名な観光都市)に於ける、最貧困地域の学校の改新築事業を行っております。
給水施設から青年会の設置まで
ここで少し過去の支援を振り返って見ます。インドのヒマラヤ山脈の麓に位置するサトゥンというチベット人居留区での事でした。 その居留区は人口約三百人程の小さな村でした。砕石事業が村の主な産業でありましたが、インド政府から採掘許可が発行されなくなり、事業自体が出来なくなっていました。またチベット絨毯の工場があったのですが、次第に時代に合わなくなり、工場が閉鎖されていました。
そこに於ける最初の支援は、給水のための井戸ポンプの設置と、各家までの給排水管の設置事業でした。 それまでは一日に一、二時間しかポンプを稼働できず、給水所から水を人力で運び込まなければならなかったのです。
それが支援の結果、各家で老人でも簡単に水を使えるようになりました。
次に、村の中心にもなっている寺院の食堂と宿坊の建設事業と並行して、村を活性化させるための青年会作りに取り組みました。 こちらからは年に一回しか訪れる機会がなく、三年掛かりで漸く青年会が発足しました。 その青年会では、子供達にチベットの伝統文化を伝えて行く事業を始める事になりました。
しかしそのためには、まず彼らの故郷のカム地方の民族舞踊を先輩達から習う必要がありました。するとこの踊りはああだとか、いや違うこうだよ等と、若者の輪に年配の方達も加わるようになりました。
まず一年目には楽器の購入を支援し、二年目には音響設備を導入して、三年目には民族衣装を十人分揃えました。
自立心への鍵となった成功体験
このような活動を続けていく内に、正月などの祝日に若者の帰省が次第に増えていくようになりました。それから二年経った頃、お寺の本堂を綺麗に改修したいといった要望が出されました。 しかしその時は、アルティックに支援を要請するのではなく、自分達で自発的に取り組むという流れになりました。
本堂を改修するために、まず帰省した若者達は、出稼ぎに戻る時に予め領収書を準備して、都会で他の多くのチベット人達への募金を呼び掛けました。 そして村に残った人々も、居留区から手紙を出して、海外に亡命している同胞達に募金を呼び掛けたという事です。 このやり方はうまく行き、募金が集まって本堂の改修が出来るようになりました。 こうした成功体験を積み重ねて行く事で、アルティックのような外部からの支援に頼らなくても、彼ら自身が自力で事業を立案し、成功を収める事が出来るようになったのです。
やがて本堂が完成すると、その落慶法要に招待されました。 参列した時、私としてはチベットの楽器が奏でられて、民族衣装を着けたチベット舞踊が披露されるとばかり思っていました。 ところが楽器はチベットの物でしたが、せっかくの衣装が私服なのです。
そこで、なぜチベットの民族衣装を着ないのか尋ねてみると、 「青年会の活動を始めてから帰郷する若者が増えて、誰が着て誰が着られないかで揉めるようになったので、皆で話し合って誰も着ないようにした」 と、これは嬉しいやらガッカリするやら、私達の想像を超える答えでした。
そこですぐに、さらに十人分の民族衣装を追加支援しました。それもあって青年会活動が益々発展する様子が伺えたのでした。
インド社会の難しさに直面
さて、今年は先に述べたアグラでの学校改新築事業が二月には終了します。四月からは同じくアグラにて、第三期事業を継続して行って行きます。
まず住民の方々の話を伺って、次は何が必要かと打ち合せを行った所、現地の狭い地域にさえカースト制度が根強く残っていて、カーストの位の高い人々は、位の低い人達とは話もしないし、同じ空間にいることさえ我慢が出来ないと言うのです。 インドの階級社会がこれ程大きな壁になるとは思いもよらなかった我々アルティックのスタッフにとっては大きなショックでした。
しかしやがてこの地域でも、最貧層の人々に届く支援を模索して地域の同意を得て、昨年の七月には外務省への申請書の提出が終わり、十一月には認可を受ける事が出来ました。 いよいよ今年の四月から事業開始となります。
最貧困地域での支援に向けて
この事業は元々水はけの悪い地域で、住民にはごみを分別するという意識が全く無く、そこらじゅうにごみを捨てる事が当たり前と思われている人々を相手に行います。 衛生状態が非常に悪いこの地域でも、住民自らの手により清掃活動を開始する事で、住民の意識に次第に変化が見られるようになりました。
そこで上下水道の整備に取り掛かります。 上水の方は比較的簡単な作業になるようですが、高低差がほとんど無いこの地域では、下水は大変困難な作業になると思われます。 チベット居留区への支援について述べた時のように、成功体験が鍵になると思います。 成功体験を積んで住民の意識が変わり、行動が変わる事で、自分たちの手で村や地域を変えることが出来るようになり、共存自立への道が開けて来るのでしょう。
アグラでの支援活動も、学校が綺麗で大きくなった、次は一部ではありますが上下水道が整備されたと、物事が上手く運ぶ事によって、そこに暮らしてきた人々自身に益々の意識変化が起きる事を熱望しています。
活動の根幹は慈悲行の実践
アルティックの活動は、先代真如大僧正様以来の「布施大道」の精神が全ての根幹であり、信者の皆様方の尊い浄財を元に長年支援活動を積み重ねて来た結果、今の段階に至っているのです。 どうか今後とも、皆様方のご支援の程を宜しくお願い申し上げます。合掌
大日新聞(月3回発行)を購読されたい方は、
右の「お申し込みはこちら」からお申し込みいただくか、
郵送料(年1,500円)を添えて下記宛お申し込みください。
お問い合わせ |
〒865-8533 熊本県玉名市築地玉名局私書箱第5号蓮華院誕生寺 TEL:0968-72-3300 |