2025年10月06日大日乃光2438号 貫主権大僧正様御親教
信者皆と善き笑顔で集い、共に祈りを捧げる奥之院大祭
信者皆と善き笑顔で集い、共に祈りを捧げる奥之院大祭
この文は秋のお彼岸の最中に書いていますが、徐々に日が短くなると共に、ひと頃の厳しい残暑に比べて朝夕の気温の低下を感じます。早暁の祈願祈祷の中で、皆さんがどうか健康で過ごされますようにと念じております。さて今回は、来たる十一月三日の奥之院大祭のお話を致します。
大祭の歴史を彩る横綱奉納土俵入り
奥之院大祭と言えば、一般参詣者にとっては「横綱土俵入り」が最大の関心事になると思います。昨年は照ノ富士関(現伊勢ケ濱親方)に、五年ぶりとなる横綱土俵入りを奉納して頂きました。
照ノ富士関はその後の九州場所の途中で休場されて、そのまま引退されましたので、奥之院大祭が一種、有終の美といった形になりました。今思えば本当に有難い事でした。
この方は大変苦労して横綱になられて、コロナ禍の厳しい中で独り横綱としての重責を背負い、使命を全うされて、今ようやく肩の荷を降ろしておられる事と思います。
今年は豊昇龍関と大の里関のお二人の新横綱がおられます。大祭には新横綱にお越し頂く伝統ですが、今年は先に横綱になられた豊昇龍関に横綱土俵入りを奉納して頂くべく、準備を進めております。
柴燈護摩の由来とは
さて、奥之院大祭は今年で四十七年周年に当たり、あと三年で五十周年です。 僧侶や信者の皆さん達にとっては、午前中の開白法要と開創法要、午後からの柴燈大護摩と、この三つのお参りが大切な行事であり、とりわけ柴燈大護摩祈祷が最も重要な法要になります。
真言密教は今から千二百年程前に弘法大師様によって日本に伝わりました。それより二百年ほど前から山や峯々を神々に見立て、お参りや修行をされていた修験道という日本固有の山岳信仰がありました。
平安時代初期に、弘法大師様の孫弟子の理源大師様がこの修験道を復興され、真言密教と融合されて、山中で護摩を焚くという柴燈護摩を始められました。
道場を清める様々な作法
奥之院大祭の柴燈大護摩祈祷では、まず先達を務める啓照が、道場に張った結界の綱を断ち、一行は道場の中に進み入り着座します。 次に法斧・法弓・法剣を用いて道場内を浄化する作法を執り行います。 法斧の儀は山の木を切り開き、道場を造る事を表す作法です。ですから斧で切り開く所作となっています。
続く法弓の儀では、法弓先達は、まず東方に進み、 「そーれ東方と曰者、降三世夜叉明王の守護したもう所なり。(中略)かーるが故に七里結界、金剛タク、ア、バン、ウン!」と叫んで矢を放ちます。降三世夜叉明王は仏教における五大明王の内、東方を守護される仏様です。
続いて、南方の軍荼利夜叉明王、西方の大威徳夜叉明王、北方の金剛夜叉明王と、順に矢を放って四方を守護される仏様をお参りします。
最後に道場の中央に進み、 「そーれ中央と曰者、大日大聖不動明王の守護したもう所なり。(中略)かーるが故に七里結界、金剛タク、ア、バン、ウン、南無皇円大菩薩!」 と中央護摩壇に向けて矢を放ち、法弓の儀を終わります。
「七里結界」ですから、一里四キロとして二十八キロ四方、要は一つの山や峯全体を結界して、邪悪なものが入って来ないように、これから柴燈護摩を焚く道場を清めるというのが法弓の儀の作法なのです。
そして最後に法剣の儀です。 法剣先達が剣で四方、中央、そして鬼門を「光」の字の形に切り、様々な障害を切り祓います。 その後、二人の閼伽先達が護摩壇に閼伽水を注ぎます。 ここまでが作法の前半です。
次に松明を交差させて掲げる中で、導師たる私が願文を奏上し、護摩に点火します。 先達の啓照が大御幣加持を務める中、中央に座して護摩の作法を修し、壇木を炎に投じます。 皆さん方の願い事を叶えて頂きますようにと、祈りと読経の続く中、修法が続くのであります。
時代に応じた意義の変遷
この護摩という法要は、最初から願い事を叶えるために始まったのではありません。 かつて護摩の炎で清めて頂くという作法がインドで起こりました。仏様に邪悪なものを焼き尽くして頂くというのが護摩本来の意義なのです。
護摩の火と仏様と行者が三位一体となり、行者一同、そしてお参りされる方々の不浄を焼き尽くす。 それが時代が下ると共に、清めて頂いた上で、願い事を仏様に届けて叶えて頂くとなって行きました。
その後、護摩札や添え護摩が生まれ、皆さん方が申し込まれたお札を道場の御本尊様にお供えし、添え護摩木を炎に投じて願い事を叶えて頂くという、今日の作法に至っているのであります。
祈りと実践の契機として
柴燈大護摩祈祷は年に一度の大きなお参りです。皆さん、この機会にぜひお参りして、心願成就を達成して頂きたいと思います。
出来ればご自分のための願いばかりでなく、家族皆が幸せでありますようにと願い、そして地域の人々の幸せを願い、さらに多くの人々の幸せを願ってご一緒にお参りして頂きたいと思います。
柴燈護摩道場には「国家安泰、世界平和」と「一願成就、諸願達成」の二つの幟旗を掲げています。 私は常々「祈るだけでは平和は来ない」とお伝えしてきました。
今世界各地で戦争が起きています。世界平和、世界平和とただ祈るばかりではなく、悲惨な目に遭っている人達を少しでもお助けするお手伝いが出来ればと、同胞援助堂の募金箱に、それこそ五円からでも十円からでも、ご自身の懐の許す限りで、心のこもった募金等をして頂ければ有難いと思います。
皆さんから頂戴した浄財は、アルティック(ARTIC=認定NPO法人れんげ国際ボランティア会)の国際協力事業に使わせて頂きます。
これから十一月三日に向けて、お互いに体力を十分に蓄え、奥之院大祭でぜひ晴れやかな笑顔で挨拶を交わし、ご一緒にお参り出来ますようにと、寺内一同と共に願いつつ、楽しみにお待ち致しております。 合掌

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