内観とはいかなるものなのか？ 自分を見つめ直すことだと聴かされていた私は、その様なことは日常よく考えさせられてきている事で、いまさら時間をとってする価値があるのかと疑問視していました。
しかし、その最初の思い込みは、始まってすぐ打ち砕かれました。それはお坊さんの説明でした。私達の前に手をかざし、「手が自分だとすると、普通、人間は自己中心的ですから、手の甲の方からだけ見て、それが自分だと思っています。けれども回りの人から見えている私は手の平のほうです。ですから、普段意識していない、他人からみた自分をこの一週間徹底して見つめてみるのが内観です。」と、申されました。その時の気付きは新鮮でした。
日常我々は、己を振り返る時、手の甲の方しか見ようとしていないのではないか。それは、自己実現のためには、自分をポジティブにだしていかねばならないし、そうしないと競争に勝てない。また、その反省としての振り返りも、当初の予定通り事を運べたかというもので、全ては利己主義であり、他人と接する当たり前の環境にいながら、他から見えている自分を考えていませんでした。恥ずかしい思いと、何か悲しい思いを心に抱いてスタートした内観研修です。
さて、部屋の隅に立てられた屏風の中で、座布団にあぐらをかいてすわります。半坪ほどしかない空間の中で、家族のことを考え始めたのですが、どうにも集中力が続きません。時には雑念、時には睡魔、そして空腹との闘いでした。
なかでも、母をテーマにし、してもらったことを考えるのは、困難でした。何故ならば、何かをしてくれて当たり前の存在でしたから、言おうと思えばキリがない、その中から選ぶことが大変でした。
しかし、食事中のテープの中で、吉本先生が申されていた「お母ちゃんには女中のように何でもしてもろうとる。」という発言に、なるほど、他人だったら、してもらえなかったことばかりで、そう考えると、いやみをチクチク言いながらやってくれていた事も、本当に有難く感じてしまい、途中、屏風の中で涙を浮かべることもありました。
弟について考えた時も、新たな発見がありました。私がして返したことが多いと思っていたのですが、その存在によって私が活かされてきたことが本当に多く、どれだけ自分が傲慢であったかを恥じました。
悔やむ点もありました。週の前半はお坊さんへ本音で打ち明けきれなくて、照れであったり、させられているというような気分を感じてしまった。自分の人生の中で、赤裸々な自分を聴いてもらえる所は日常生活の中ではどこにもなく、また、聴いても決して批判や注意をするわけでもないし、その様な人はどこにもおりません。チャンスを十分にいかしきれなかったという思いが後から込み上げてきました。
屏風の中にいるので、時間をとても長く感じた研修でしたが、気持の良い事もありました。それは朝のお堂参りとお経をよむことです。映画のような美しい世界を見ることが出来、また、般若心経を誦めば誦むほど、何も考えていない自分をそこに感じ、お経や３８トンの大梵鐘から発せられる振動も気持よかったです。
今の日本人が、いかに走り続けなければならないフィールドにいるのかを確認できました。しかし、そこから逃げることはできません。逃げ出したくもありません。そんな環境の中で、本当の人間になるために、心の修行をさせて頂いた一週間でした。誠に有難うございました。
