今回、内観を体験しようと思った動機は、アルコール依存症の 父に何とか治療する気持ちになってもらいたかったからだ。「ア ルコールの専門の施設なら行かんぞ！」と言う父に、「お寺だか ら、普通の人が行って研修する所。」と説得しての親子での体験 であった。
足腰も弱り記憶力も劣ってきた父は心配であったが、そこは仏 様におまかせするとして、内観中は自分自身を調べることに集中 した。
とは言っても、最初の三日間は、集中どころか、早起きに慣れ ていない為、午前中は睡魔がおそってくるし、午後は思い出に浸 って関係の無い事を思い浮かべ吹き出したり、仕事の事がどうな っただろうかなと、内観は進まず、はてこのまま一週間ここに座 り続けるだけで終わってしまうのだろうかと、不安になったりし ました。
ところが三日目の夕食後の内観で、急に母のその時の気持ちが 伝わってきて、切々と胸に辛い悲しい感情がこみ上げてきました。 気付かなかったけれど、あぁ、母はこんな思いをしていたのか、 いや、させていたのだと解ると、もうそれからは、母に申し訳の ない気持ちで一杯になり、涙が溢れて止まりませんでした。
これで内観のコツがなんとなく解りました。それまでは昔の母 や父の姿を思い出して記憶を辿っていたのですが、その時は母か らみた幼い姿の私の態度を思い浮かべ、頭の中のスクリーンに映 し出してみたのでした。
次からはその方法で調べることにしますと、案の定、お世話に なった事、して返した事、ご迷惑をかけた事がすんなり思いつき ました。
調べてみるとどうでしょう。いかに自分がわかっているつもり で、ほんの氷山の一角しか見えていなかった事か。知らぬ間に父 や母に淋しい思いをさせていたか。甘えていたか。思いやりが足 りなかったか。それなのに、私の態度といったら、何と恩知らず であつかましかった事か。
生まれて成人までにどの位の養育費がかかったか試算してみて、 びっくりです。誰がこんな大金だしてくれるでしょうか。両親は 私達子供を育てる為、自分の時間、お金、いろんな事を犠牲にし て下さっていたのです。本当に頭があがりません。
今まで自分では、両親思いの娘だと思っておりました。感謝も していると思っておりましたが、そんなの全然足りませんでした。 それに感謝してると言いながら、何も行動に移してませんでした。 もしかしたら、今気がついた感謝すべことも、また、ほんの一部 なのかもしれません。もっと心の目を見開いて感謝し、お返しし ないといけないと思っております。
父がアルコール依存症になったのも、家族の愛の電池が足りな かったからかもしれません。淋しい思いをずいぶんさせてしまっ ていました。こんなに大切にして頂きながら、アルコール依存を 責めてばかりでした。父が一番の被害者です。本当にすまない事 をしてしまいました。
これからは、うんと親孝行をして、長生きして頂きたいです。 その為には、依存症の治療に行ってくれる様、あきらめずお願い して協力していきたいと思います。
また、母には本当に苦労をかけたと思います。私の年と母のそ の頃の年を比べて見ると、母はなんと自由のない家事と仕事と子 育てと忙しかったことか。今の私などほんと気ままなものですし、 何の苦労もせずにいます。母に残りの人生をもっと楽しく生きて ほしいと思います。
家に帰りましたら、できるだけ家族で食事に行ったり、旅行を したり、仲良く過ごしたいと思います。数年後は古くなった家を 改築し、年取った両親が楽に暮らせるようバリアフリーにしたい と思います。お世話になり、どうもありがとうございました。
