私は元来信心深い方ではないので、内観といっても半信半疑だ った。そのせいで、最初の頃は内観に身がいらずに規則を破り、 ご迷惑をかけた。
だが、内観というものが信仰心とは関係なく、一種のトレーニ ングだと気付いて、徐々に内観法というものに慣れていった。
最初は単なる思い出の呼び起こしであったのが、その時の相手 の気持ちを想像するようになり、また、具体的な金額や言葉とな って、現在の自分に語りかけてくれるようになった。
母に対する内観では、朝早く起床し、台所に向かう姿が常によ みがえってきた。母は感情が豊かな人で、その表情や投げかけて くれた当時の言葉を思い出すのは、簡単であった。
だが、母に辛い言葉と態度をとって、悲しませ泣かせた。その 場面は、まるでスクリーンを見るように詳細に思い出せるのだが、 どうにも自分の思いがその中に入りこんで、新たな登場人物とし て加わっていかない。自分がまだ殻に閉じこもって、真の内観を 行っていなかったからである。
私はその詳細を事細かに目の前のお坊様に伝えることさえすれ ば、「その時は、ああすればよかったのだよ。」という答えを言 っていただけると思っていた。しかし、いくら私の思い出話を打 ち明けても、回答は一向に返ってくる気配がない。
「おかしいな。こんなはずではないのだが。」と自問自答を繰 り返した後、「そうか、答えは自分の中にあるものだ。」という ことを悟った。
それから私は、「この時の母はこう思ったのではないか?」と いう推測を交えて内観するようになった。
しかし、それは推測ではない。親子の間で起こった感情の起伏 は、その時にちゃんと烙印のように刻まれている。分かっていな いフリをして見逃してきた事を、事実として認めることだった。 そして、それを口に出して第三者に伝えるというのは、私にとっ て思い経験だった。
だが、事実を認めないで先に進んできて、できあがったのが現 在の自分である。私は今の自分を自分で嫌っている。それは一つ 一つの事実から目をそむけてきた結果なのだ。
事実、私は1381万円もの大金を養育費として使っていただいて いる。幼稚園から大学卒業に至るまで、この間、住宅ローンや姉 に対する費用もあったであろうに。しかし、私はそれを当然の事 として受けとめ、両親に対する感謝の念が全く抜けていた。
当然のように、朝起きたら朝食が出てきて、晩に帰宅すれば夕 飯が出てくる。この時、母によく「勉強しなさい。」と言われた が、私は当時その言葉を憎んでさえいた。成熟していない無知な 子供であったと、今では思う。
そして、その本質的な問題を自分で解決できずに、今日まで生 きてきた。
会社の研修で訪れたとはいえ、自分の中の気持ちを整理するい い機会にめぐり会えたと思う。これからは父母に対する甘えを捨 て、一個の人間として、両親に対し喜ぶことをしてあげたい。
そのためには、まず自分が幸せになって成熟し、経済的にも時 間的にも余裕のある人間へと生まれ変わらないといけない。
その為には、まず現在の職場で全力投球をして、地盤を固める こと。会社の諸先輩方についても内観を行ったが、して下さった 事ばかりで、何もお返しできていないのが現状だ。早く与える側 の人間になって、確固たる地位を築き、信頼される人間になりた い。
親子の間での信頼はゆるぎないものとして当然あるのだが、そ れが時に甘えとなって、歪んだ情となり、トラブルを生む。会社 内での人間関係は、まず信頼関係を常日頃から築いていくことが 重要だと思う。
常々の日常内観を通して、今後の生活に役立てていきたい。
賢い人とは、常に感謝の気持ちを持ち、直接自分に親切にして くれた人だけではなく、すべての人に対して思いやりを持つこと によって、感謝の気持ちを表そうとする人である。(パーリ、増支部)
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