一週間の集中内観を終えた今言えることは、来るべくしてこの 場に踏み入れ、気付くべくして気が付かされたと、自信を持って 答えることができるということです。

　職場に振り回され、疲れ果てた末に、うつ状態と医師に診断さ れ、長期休暇を願い出ました。その間にうつを打開するつもりで、 今回集中内観を申し込んだ訳ですが、私にとって「うつ」という のは、大した問題ではないことに気付きました。

　「うつ」よりも何よりも家族に対するわだかまりというか、ゆ がんだ気持ちを持っていたという事実の方が大問題だったのです。

　内観そのものを知ったのは、集中内観を体験した弟からでした。 それまでは、私達家族でも手をつけられないような躁鬱を繰り返 していた弟が、まるで魂を入れ替えたように、内観後に様変わり をして帰ってきたのです。

　私と母親はその様子に驚き、喜びましたが、「いつまでこの状 態が持つかわからない」とうがった見方で、私は思っていました。

　その後再三にわたって、弟から内観を勧められ、興味は持ち始 めていたものの、実際体験しようとまでは思わないまま、一年が 過ぎてしまいました。弟が躁うつで苦しんだ一年後、今度は私が うつ状態になってしまいました。そしてようやく本気で内観をや ってみようと決心できたのです。

　集中内観前日まで、休職にあたって残務引継ぎで残業していた こともあり、体調を万全にして望んだと言うわけではありません でした。

　疲れを残したまま内観に入ってしまった、と書くと言い訳がま しいですが、三日目午前中までは、まるで内観らしい内観など出 来ていなかったように思います。あったことをただ思い返すだけ で精一杯でした。

　その変化として表れたのが、三日目の昼食時に聞いた二人の女 性の問答でした。聴いていくうちに涙がでてきたのです。何とな く母親に対する感謝の気持ちが出始めたのでした。

　三日目以降、母と父を二回内観した時に、父親に対する感情が、 母親に比べ、本当に湧き出るかのように沢山溢れてきたのです。 私自身この事実に驚きましたが、今までがただ真剣に考えたこと がなかっただけでした。

　父親にとってよい娘である事をいいように手玉に取り、演じ続 けていた愚かさに愕然としたのは、四日目の晩だったかと思いま すが、その頃から、ようやく内観が軌道に乗り始めた気がします。 五日目に入り、弟について内観を始めると、さらにペースは加速 したかのように感じました。

　幼い頃から暴力を振るわれ、これまで敢えて避けてきた弟に対 し、弟が加害者だという思いがボロボロと落ちてゆくかのように、 私こそ加害者でありうるという事実に愕然とし、これまで、家の 男達を冒涜してきたというはっきりした事実に、その日の晩は涙 が止まらず、なかなか寝付けない程でした。

　次の日も、迷惑をかけられていたと思っていた弟に、むしろ私 の方が迷惑をかけていたという事実が溢れてきます。これほどま で私は歪んでひねくれていたかと思うと、一人で唸らずにはいら れませんでした。

　また、今回休職に追い込まれた原因を作ったであろう上司につ いても内観しましたが、彼もまた、私以上に犠牲を払った上、私 自身が彼を退職に追いやった決定打を打ち付けていた事実に、シ ョックをかくせませんでした。

　そういう流れを経て、母親について二回目の内観をした時、母 に対して本当に迷惑をかけていたと実感することが出来ました。 始めの二回では、中々出てこなかった侘びの気持ちが、心の底か ら湧き出ている実感があります。

　これまでは、手のかからない、出来た子供という事を、母親も また、私自身も自負していましたが、この一週間で、ものの見事 に崩れました。

　とある人に、「我が強い」やら、「わがまま」だとか言われた ことがあった時、それを信用するどころか、否定すらしていたの に、今では、その自分の「我」というものに対する理解がようや くできたように思います。

　事実は小説より奇なりと言われますが、それはまさに本当だと 思いました。五日目以降は、その言葉を当てはめながら内観して いったようなものです。

　今回集中内観を体験できてよかったと思いますし、その足掛か りを準備してくれた弟に、とにかく感謝したいと思います。そし て、この事実を喜びを家族に周りに伝えていけたらと思います。

　本当に有り難いです。お世話になりました。もう、うつに関し ては何も問題ありません。これからも日常内観を続けていければ 大丈夫だと思います。