今回はメンタル・トレーナーの高畑好秀先生の書かれた『こころを強くする言葉たち』(永岡書店発行、コスモ文庫)を紹介させていただきます。
[パート1:自分に克つ]
松坂大輔(野球)
野球活動禁止の処分が下された時は、本当につらかった。でも人の弱さは、時が経つとそういうつらさを、つい忘れてしまうことなんです。だから僕はあの時のつらさを忘れないように、あらゆるところに書いています。寮とか、自分の持っている物とか、あらゆるところにです。
松井秀喜(野球)
チームの勝利が僕にとって一番大切です。でも自分が打てなくても、誰かが打って勝ったんだからそれでいいという考えは間違っている。巨人の打線は、いいメンバーがそろっているだけに、自分はダメでも他の選手が打ってくれるだろうという依存心が大きな落とし穴になるんです。
琴錦(相撲)
入門したての頃は、大きい相手と対戦するのが嫌でした。僕は小さい方なので、心のどこかに不利だという意識があったんです。しかし発想の転換をすることで、逆に大きい相手と対戦する方が有利なことに気づいたんです。
西村晃一(バレーボール)
バレーボールに限らず、スポーツというのは、技術力対技術力という世界ではないんです。技術力以外のものの力が微妙に左右する。そういったものの力を、どれだけ味方につけられるかどうかが、勝負の分かれ目でしょう。
[パート2:力を発揮する]
田村亮子(柔道)
今回のシドニーは、本当の意味で金メダルを取るという目的意識が自分の中ではっきりしていました。試合内容は全て納得のいくものではなかったです。でも今回は、試合内容が問題ではなかったんです。内容がどうであれ、一つ一つの試合を勝つことが目的でした。
井上康生(柔道)
僕は転んでもただでは起きないタイプです。どんなに悲惨な状況でも、その中で何かをつかんでやろうと常々考えています。そのつかんだものを絶対に自分の柔道に活かしてやるくらいの執念を持っていますね。
宇津木麗華(ソフトボール)
私は打つ技術も磨きますが、心理面での戦術にはもっと力を入れています。相手投手との心理面での駆け引きを考えるのが好きなんです。試合の時も、自分のイメージの環の中にうまく相手投手がはまるように持っていきます。そのためにはストーリーを作成し、相手投手にそのストーリー上の役をしてもらう必要があります。そのためにはあらゆる工夫をしますね。例えば、捨て打席をつくったり、狙い球を投げさせるために、わざと空振りしたり、悔しそうな表情を見せたり、色々な演技をします。
牛島和彦(野球)
僕は投球練習をしてマウンドに登る最後の一球だけは、140%くらいの力で思い切り投げるようにしていました。この一球の意味は、体と心の力みをマウンドに登る前に、全部出し切ってしまおうという考えなんです。僕は体も心も最大の緊張の後には最大の弛緩が来ると思っているので、あえて最大の緊張を自分で作ってから臨むようにしていました。(筋肉の緊張を取り除けば、心理面の緊張も解消される。)
本並健二(サッカー)
以前、大怪我をしたんです。ケガの期間は7ヶ月。その間は全く練習ができません。サッカー選手にとって致命的でしたが、自分自身にも、他の選手や取材を受ける時も「来年は再起してピッチに立っている」と言い続けました。あえてそうすることで、自分も周りの人もその方向に持っていきました。
渡邊高博(陸上)
レースの本番で、どのような状況になってもあせることのないように、相手選手とのレースの駆け引きを100パターン以上はイメージするようにしていました。このようにあらゆるパターンをイメージの中で体験しておくと、今までのレースでは体験したことのないようなレース展開になっても初めてという気がせず、あせらずに冷静にレースを組み立てていけるんです。
柳沢敦(サッカー)
フォワードというのは、点を取るのがメインの役割です。だからゴールチャンスにかける一瞬の集中力は、ものすごいものがあるんです。しかし、時には、ゴールに成功した直後は、一気に集中力が切れてしまうということがあります。張り詰めていたものが、プツンと切れるという感じです。そういう時にディフェンスに回るような状況だと、抜かれやすいんです。
[パート3:こころをコントロールする]
上村愛子(スキー)
滑り出す前は、イメージの中でコースをあえて難しく考えるようにしています。それは最悪を想定しておけば、実際はそれよりも楽なはずだから。そうしてスタート台に立った時、簡単だと思えればその気持ちの勢いで思い切って滑り出せるんです。
工藤公康(野球)
ピッチングをするときに、そのピッチングを生み出すために体内のどの筋肉がどのような動きをしているかまでイメージします。そうすれば、試合中は無駄のない動きができるし、試合後も効率的に体のケアーができます。筋肉の動きをイメージできれば、普段も何気なく歩くのではなく、こういう筋肉の動かし方をして歩こうと考えられ、歩くこと自体もトレーニングにしていけるんです。
渡辺康幸(陸上)
マラソンではよく35キロの壁と言われます。でも僕はそれを信じません。それを信じてしまうと、35キロ地点が近づくにつれて、心の中で不安感が大きくなります。そうすると本当は何ともなくても、苦しいような気がしてきて、最後は本当に苦しくなってしまうものなんです。僕は素直じゃないから、人からそう言われても、「人は人、自分は自分」と割り切って考えています。
星野伸之(野球)
投手というのは、9回を0点で、もっと言うなら、1本のヒットも打たれたくないと強く欲求する生き物です。でもそのように思って投げていると、1点取られた時にガタガタと崩れてしまう。やはり遊びの部分がないとダメでしょうね。
村主章枝(フィギュアスケート)
私の表現力は、感性を大切にしています。私が自然と親しむことを大切にする学校に通っていたことや、幼少の頃から綺麗な星や星座、それに美しいものを父親が一緒に見てくれたことが私の感性を豊かにしてくれたのだと思います。
黒岩彰(スケート)
僕はある程度自分の体を自由にコントロールできるんです。疲れているのであれば、その疲れているところに意識を集中させて、そこから疲れを取り除くんです。この部分部分に集中できるようになったら、急にスケート技術が伸びました。とにかくリラックスして、体の各部をコントロールするトレーニングは僕にとってもとてもプラスでした。
三谷大和(ボクシング)
選手というのは、ほめられ上手、叱られ上手という両面をバランス良く持っている方が絶対に成長していけるんです。コーチからほめられて有頂天になって失敗する。叱られた時は、全てを自分の中に貯めこんで落ち込んでしまうというのではダメでしょう。そのあたりを上手にコントロールしていくことが、何よりも大切だと思います。
[パート4:モチベーションを高める]
大内愛(アーチェリー)
体を作るための食事というのは多くありますが、心を作るための食事というのは見かけません。でもアーチェリーの場合、体よりも心のウェイトが大きな競技なので、私なりに心を作る食事というのを実践してきました。朝一番の試合では、朝食を食べない方が集中できたり、昼食は腹六分くらいに抑えておくといい集中力を維持できました。
川口能活(サッカー)
フォワードというのは、何本シュートミスしても、1本シュートを決めると評価を受けます。でもゴールキーパーというのは、何本好セーブしたとしても、1本決められれば「1点取られた」という見方をされます。同じスポーツでもポジションによって正反対の評価のされ方をする。だから、1点の重みを大切に考えられるんです。
清水宏保(スケート)
長野五輪で金メダルを取って周囲は大騒ぎだったんですが、僕はすごく冷静でした。メダルを取って改めて気付いたのは、自分はスケートを通して人間がどれだけ進化できるのか、自ら実験台になって調べてみたいという欲求のために滑っているということです。
伊東浩司(陸上)
陸上競技は、人との闘いよりも、時計との闘いと捉えることが面白いと思うんです。そう考えていくと、人間の優劣は他者との比較で決めるものではなく、自分自身の中で決定されるものであるべきだと思うんです。
山本美憂(レスリング)
私の父は、私の短所も直しましたが、長所を伸ばしてくれるところがすごくありました。この技が得意という程度ではなくて、ケタ外れに上手くさせるんです。その技に関しては天才的と言われるくらいまでです。他人よりもはるかに勝ってる部分を持つことで、自分に合ったレスリングが見つけられると思うんです。
中村俊輔(サッカー)
Jリーグで中途半端なサッカーをするんだったら、他に行ってズタズタにされた方がいいと思うこともあります。人って自分の置かれている環境レベルに自分のレベルを合わせようとしますよね。絶対に、環境が選手を作ります。厳しいところへ行けば行くほどレベルも上がって、通じないことも多いけど、更に成長できますよ。
吉田秀彦(柔道)
もし本当に強くなりたいんだったら、本当に強い選手の真似をしてみるといいんです。最初はただの物真似でもいいんです。それを繰り返すうちに、自分の形にねっていくものです。僕も、古賀先輩が不精ひげを生やしていた時は、真似して生やしたりして、外見から入っていきました。
衣笠祥雄(野球)
よく野手は、投手がピンチの時にマウンドに集まって「がんばれよ」と声をかけます。でも考えてみれば、がんばる気のない投手がマウンドに立っていいるはずがない。窮地に追い込まれた投手に「がんばれ」と言っても、それは投手の気持ちをつぶすことになるんです。かける言葉というのは本当に難しいですね。こちらが習慣でかけた言葉で、相手をつぶしてしまうことが案外多いものでしょう。
元木由記雄(ラグビー)
日本代表の難しさは、長期的な強化と短期的な強化を並行してできないところにあると思います。勝ってなんぼだから、目先の勝利のための短期的な強化にしか目が向かない。でも本当に、どこにも負けないようなチームを作るためには、目先の1勝よりも、長期的な強化をする時がいずれは必要になると思います。
佐古賢一(バスケットボール)
優勝を一度でも味わうと、自分の世界が変わるものです。体験するのと想像するのとでは、まったく違うんです。だから、僕は若い選手にそれを体験させてあげたい。一度それを体験すると、優勝でなければ、二位もびりもかわらないと思うようになる。それが再び優勝するための原動力になるんです。
佐々木主浩(野球)
僕はサインを頼まれると、「初心」と書き添えるんです。自分が野球を続けていく上で、この言葉を大切にしています。これだけ野球をやっていると、楽しさを失いかける時があります。いつも「初心」と書くことで、その気持ちを忘れないようにしています。
このように心と戦って、真に道を求める人は、常に強い覚悟をもって進むから、あざけりそしる人に出会っても、それによって心を動かすことはない。こぶしを持って打ち、石を投げつけ、剣をもって斬りかかる人があっても、そのために瞋(いか)りの心を起こすことはない。(大象跡喩経)
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