2002年1月15日第145号
幸福ニュース

【 やりたいことは全部やれ 】

(Don't wait for tomorrow!)

(大前研一著、講談社)

《私の人生観》

私の人生観は、「いつ死んでもいいように悔いのない生活を送る。」ということである。生き方として何を基準にしているかというと、死ぬときに「これでよかったのだ」ということであり、そのための生き方を工夫しているのである。私の生き方は、やりたいことを先延ばししない、やりたいことがあったらまず実際にやってみる、である。

私の結論はただひとつ。「そのうちに------」ということは人生では禁句なのだ。もし、「そのうちに」やりたいことがあれば、今、そう今の今やりなさい、というのが私のアドバイスだ。やりたいと思ったときが旬なのであり、先延ばしする理由はないのだ。今楽しいと思っていることが、年をとってからも楽しいとは限らない。

「ああ、おれの人生なんだったのか?」というかわりに、「悔いはない。おれは自分で選んだ人生を生きた」と言えるだけで幸せではないか。少なくとも、死ぬ最後の瞬間に後悔しないですむ。いや、もっと積極的に、これからは最後にこのセリフを言えるような生き方をしようではないか。これは何才からでも始められる。

幸い多くの事例から、私自身が引退する前に「引退」というものに関しても充分研究させてもらった。その結果わかったのが、「やりたい時がすべき時」「やりたいことをやっているうちに、豊かな老後を迎え、やることがたくさんあって、飽きることのない楽しい人生を送れる」という結論なのである。

私はいつもだめになったら電卓のAll Clearボタンを押すように、すべてをチャラにすることを考える。思いきってやりなおしをするために退路を断つのである。

一度しかない人生なのだから、生きている間はリセットを何回か繰り返し、思い切り可能性をトライしてみてはどうだろうか。自分で自分の人生を縛っている「思い込み」が問題なのだ。それから、自分自身を解放し、他人の人生ではなく、自分の人生を生きよう。私が言いたいのはその一点だけである。

要は、失敗を恐れずに何回もトライするから成功するのであって、はじめから成功するような天才や、フォレスト・ガンプのような運のいい人はそうざらにいるものではない。人生は案外なんとかなるものである。(最悪のケースも考えて、代替案や保険策も考えておく)

会社の事業なら当然作成するであろう資金計画やキャッシュフローの予測を自分の人生に関しても作っておき、かつアップデートしていつでも使える状況にしておくことである。要は、「自分はいかなる時にも、借金や資産のために人生で何をしたいのか、どう生きたいのかという判断が狂うことはない」と言い切れるような人生設計ができていればいいのだ。

《経営について》

自分ならどうするかが、するすると頭に浮かんでくるようでなければ、これからの人生を能動的に生きることは難しい。仮に会社の課長にでもなれば、せめてその一部門くらいに関しては、具体的に処方箋が書けるようでなくては金はもらえない。

政治に関しても、少なくとも自分が明日大臣になればこうするぞ、という発想のひとつも出てくるようにしたいところだ。平素からこうした思考訓練をしていれば、自分の会社、他人の会社、地方自治体、国の政策に関しても具体的な提案が出てくるようになる。

「とらわれない素直な心」で「ゼロベースでのビジネス・プロセス・リデザイン」すなわち部分的な手直しをしないで、全部一度壊して、もっとも進んだ装置や考え方で作り直す。(ゼロベースでの企業再構築)

本当の大経営者は、成長しているときに一番慎重になるという。企業が成長している間はとにかく勢いがある。何をやっても、売り上げの伸びが小さなミステークを消してくれる。だから、こうした経営者が、他の経営者(のミステーク)から勉強し、墓穴を掘らないようにしてくれることが一番よい。

ところが、やはりマスコミや経済界でちやほやされると、ほとんどの人は舞い上がって、失敗を隠してしまう。また、人に誉められているうちに、悪いニュースは聞きたくなくなり、社内はシラケてしまい、急に本当のことを言わなくなってしまう。謙虚な経営者が、舞い上がった危ない経営者になるのに3年はかからない。かくして、有力経営者といえども次々とミステークを重ねていくことになる。

《日本再生について》

イタリアの都市国家は強い。それぞれが独自の産業を持っており、しかも世界を相手に商売している。高級ファッションに特化して生き残りをかけ、世界中のどこも追いつかないくらいのトレンドセッター(流行を作り出すことのできる人)としての地位を確立している。

世界がその町なしにはやっていけない、というほどのポールポジションを獲得した市町村が日本にはどれだけあるだろうか。新潟県燕市は数少ない事例のひとつだろう。こうした町が全国で1500くらいあるのがイタリアである。

イタリアがファッションで強いのは、こうした優れた部品がほとんどすべて近くにあり、それぞれが世界最高の品質を競いあっているからである。これなら、日本の繊維のように中国に一気に追いやられてしまうこともない。価格ではなく、価値で競うことが大事。

ファッションの世界も値段で勝負するところと、高級ブランドのように顧客満足度という価値で勝負するところに二極化している。

大分県の一村一品運動は有名だが、その規模が小さく、また世界を相手にしていなかった点が惜しまれる。

イタリア人は、自分達の町は自分達で、国の世話にならずに、世界を相手に商売して守っていかなくてはならないと考えている。日本は、補助金に恵まれ、すっかり働かなくなってしまった。

《子育てについて》

親は子供より早く生まれたぶん、人生経験が豊富だ。だが、世の中が大きく変化し、それまで当たり前とされてきた前提自体が崩れている時代では、経験を持っていること自体がマイナスに働くことがある。明治維新はそのいい例である。

今の時代の親がやるべきことは、価値観を押し付け、答えを教えることではなく、子供が自分の力で考えるようにしむけ、親自身が子供と一緒に考えることである。

私が息子達に強調したのは、「自分に対する責任、家族に対する責任、社会に対する責任、日本人として日本という国に対する責任ーーーこの4つの責任だけは常に自覚していろ。あとは自分の好きなことをやれ、自分の人生は自分で決めろ。」

大事なのは、子供の能力を信じてあげることだ。子供の能力とは、どんな社会になっても生き抜く能力であり、それは学校では身につかない。責任感のない人間はダメである。

父親と母親が基本的な価値観を共有している必要がある。子供に対する教育でいちばん大事なことは、自分で自分の人生のハンドルを握れる人間に育てることだ。

《人生、寄り道・わき道・回り道》

およそ日本人は皆が同じ事を考える国民であるから、人と逆のことをすると余裕が生まれる。

死ぬ時は貯蓄ゼロに、という考え方で生きれば、人生すべて、いや日本の経済さえもうまくいくのだ。少なくともお金が世間に出回るようになる。

死ぬ時に貯蓄をゼロにするということは、65才の時の平均的蓄え2500万円を平均寿命80才でゼロにするという生き方である。(現在では85才くらいか)

人生、寄り道、わき道、回り道、なんでもおおいにやればいいのだ。急いでも、結局最後は使い切れないくらい余ってしまう。むしろ問題は「そのうちに」と先送りしている間に、お金と時間の余裕が出てくる頃には、精神的にも肉体的にも人生を楽しめなくなっているということ。だから、禍根が残るのだ。

我々が「人生を楽しむ」という一点において「価値観を変えれば」、この外から見て不可思議な日本の景色も変わってくるのではないか。そしてそれが、実は人から言われないとなかなか気がつかない、変われない日本人の習性ではないだろうか。

【坂村真民詩集】

《 こころ 》

こころを持って生まれてきた

これほど尊いものがあろうか

そしてこのこころを悪く使う

これほど相すまぬことがあろうか

一番大事なことは

このこころに

花を咲かせること

小さい花でもいい

自分の花を咲かせて

仏さまの前に持ってゆくことだ

【仏語集】

牛飼いは、春になって野原の草が芽をふき始めると牛を放す。しかし、その牛の群れの行方を見守り、その居所に注意を怠らない。人もまた、これと同じように、自分の心がどのように動いているか、その行方を見守り、行方を見失わないようにしなければならない。(法句経)

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