一週間の集中内観を通して私が気付かされたのは、根っからの 悪人などこの世にはいないのではないかということです。

　罪は悪かもしれないけれど、それを犯した人自身は善なる存在 なのだと思うようになりました。というのも、内観を通して、様 々な人の立場から一つの出来事を見つめてみたからに他ありませ ん。

　私は幼い頃非常に母を恐れていました。母は食品添加物に対し て異常なまでの注意を払っており、いわゆる健康食品以外の食べ 物は口にさせてもらえませんでした。

　その為、私が色のついた駄菓子などを買って来たのを見つける と、すごい剣幕で私を叱りつけ、お菓子をゴミ箱に投げ捨てたこ とがあり、その出来事が私の心に深い傷となって残っていたので す。

　しかし、内観で見えてきたのは、子供に健康でいてほしいとい う母の愛でした。そして、市販のお菓子はあまり買ってくれなく ても、手作りのおやつをひんぱんに作ってくれていた母の姿を思 い出しました。

　叱られた記憶だけが長い間私の心を支配していましたが、母は いつだって一生懸命子供の健康を気遣ってくれていたのだと思い 知らされました。母の行為は時に行き過ぎていたかも知れません。 しかし、それも愛の深さ故のことだったのだと思うようになり、 感謝の念がわいてきました。

　それから、父に対して内観する際に、養育費の計算をしたので すが、その額の多さに打ちのめされました。父は一度投資に失敗 し、母とのケンカが絶えない時期がありました。その為、私はこ の二人の間に生まれてこなければよかったと思ったことがあり、 どこかで父を軽蔑している節がありました。

　しかし、ギャンブルやタバコにお金をかけるでもなく、働いて 稼いだお金を私のために使ってくれている父に対して、そんな思 いを抱いていた自分がとても恥ずかしくなりました。

　快く一年間留学に送り出してくれ、遠くの私学に通わせてくれ、 病気を繰り返して、いつまでたっても自立しない私の面倒を見て くれている父に対して、改めて申し訳なく思い、また感謝の念が わいてきました。

　両親に対する内観をして、自分がいかに愛され見守られ続けて きたかがわかり、今度は自分で自分を愛していかなければならな いと思うようになりました。

　私は何度か軽いうつ病を繰り返しているのですが、その原因を いつも幼い頃から現在に至るまでの家庭環境のせいにしていまし た。

　他人の家と自分の家を比べて、ないものばかりを見てきました。 与えられるものは、全て当たり前のことだと受けとめ、足りない ものばかり探し、理想の家庭像を両親に求めてきました。しかし、 私は求めるばかり、与えられるばかりで、何一つ両親にお返しし てないのです。

　うつになるのは、何でも自分でやらなければ気が済まない、人 を信じられない、加減を知らない、自分の傲慢な心のせいだと気 付きました。

　愛されたい、愛されたいと願ってきた私でしたが、愛はいつだ ってそこにあったのに、それを自分が見ようとしていなかっただ けでした。

　現在休職中で、これからのことを考えることからずっと逃げて いましたが、内観をすべて終え、過去や未来にとらわれずに、今 出来ることに取り組んでみようという気持ちになりました。

　人と接することに恐れを抱いていましたが、それは人に良くみ られたいという虚栄心のせいだと思います。全てはとらえ方次第 で、人の行為を全て与えられているものだと考えると、何も恐れ ることはなく、あるがままでいいのだと、肩の力を抜いて生きて いける気がしています。

　集中内観をした一週間は、いつもより気分が晴れる時間が多く、 人は悩みを持っていても、悩みは悩みとしてそこに置いたまま、 穏やかな気持ちで過ごせるのだと気付きました。

　内観で得た気付きをこれから生かしていきたいと思います。あ りがとうございました。

　心は抑え難く、軽くたち騒いでととのえ難い。この心をととのえてこそ、安らかさが得られる。

　恨みを抱く人のなすことよりも、かたきのなす悪よりも、この心は、人に悪事をなす。

　この心を、貪（むさぼ）りから守り、瞋（いか）りから守り、あらゆる悪事から守る人に、まことの安らかさが得られる。(Dhammapada)