まさか私がこのような修養場に来るとは思ってもいなかった。 きっかけは会社で研修を担当して３年目に入り、若い幹部の方々 に今後どのようなことを経験していただこうかと悩んでいたから だ。

　たまたま出張の宿泊先の東横インで内観を知り、すぐ参加しよ うと決めた。会社の成長も私の成長も、心の幸せがなければ始ま らないと、覚悟していたから。

　実際に訪れて、お寺だし、泊まるところは古そうだし、こんな 所で寝るのはいやだと感じたが、先生の笑顔に安心できたので、 内観のことだけに集中しようと決心した。

　３日間は本当につらかった。とにかく眠い。母や父を思い出し て、集中して行けばいくほど寝入ってしまう。

　ただ参加する２ヶ月前からとても楽しみにしていた理由が何度 も感覚として訪れていた。「こんな贅沢はないよー。なんて私は 幸せだろう。電話もテレビも会社の事も、全て関わらずに一週間 も過ごせる。」

　「この幸せ感！！！私だけの時間があるなんて！」と、この感 じは、一週間の間ずーっとあった。これが、私にとって内観を集 中できた一つの理由でもある。また、一日の時間がどれだけ限ら れたものであるか、これも内観を通して再確認できたことだ。

　４日目から不思議と眠たくない。たまに時間が気にはなるが、 集中できる。母や父からすごく愛されていたんだと、１回目から 素直に感じることができた。

　しかし、２回目になってくると、より関わりの内容が具体的に なって思い出す前からドキドキしたりする。

　過去に何度も自分なりに両親について分析して出した結果や感 情がよみがえる。そんな時は面接者が来る事を考えて、他者に簡 潔に伝えられるよう努力してみると、モヤモヤした感情が抑えら れて、落ち着いた私になれた。

　また、内観創始者の吉本伊信さんの文章をいつもいつも読み返 して念じる事で、集中できたと思う。

　５日目はとてもスムーズで、今もどのように過ごしたか思い出 せないほどだ。

　６日目も楽しかった。時間のありがたさや、残された母や私の 生命、祖先からのＤＮＡのらせん図が浮かんできて、満たされた 気持ちになった。

　こんなにも私は幸せで、急に家族にありがたい感謝の気持ちが 湧き上がる。ただ不思議なことに、この感覚は突然消え去る。面 接者がお見えになるから説明するのに消えないでと思っても、さ っと消える時は消える。

　面接者がお見えになるころは醒めた私になっていて、再び探し 始めるけれども、毎回うまくいくとは限らない。ただ、先生のお 蔭で、何度も何度もあきらめない姿勢になる。ここが重要なポイ ントの様な気がした。私一人では、消えたものをまた探す気には なれないだろう。

　集中内観では、面接者に対して、調べた事を何かしらお答えし なければならない。この他者に対しての取り組みから、周りの方 々の愛情や思いやり、自分勝手な心を知ることができた。

　最後の日は、少し落ち着かなかった。やはり、「わかった！」 と思っても、感謝の気持ちがまた消えたり、慈悲による暖かさが 薄れていって、気持ちがあせるからだ。でも再び先生がお見えに なるし、やってみようと思って５分もすると、母からの暖かな光 が降り注がれてくる。

　何だかよくわからないけど、あの怒った母が大日如来のように なるから不思議だ。最初に説明があったように、内観を私は宗教 とは思わない。母や父を思うことで、初めからあることに気付き、 再確認した一週間だろうと思う。

　水があり、空気があり、私をうみ育てた父や母がある。今まで は当たり前のことに気付かず、ただ時間を食って生きて来ただけ だと思った。この様な私に、この様な体験をさせて頂いて、皆様 に心から感謝申し上げます。