その本には「記憶は捏造されている」と書いてありました。簡単なことを一週間続けるだけで人間関係が好転し、仕事や勉強、スポーツなどの能力も上がるという夢のようなことも書いてあり、半ば疑いつつもその本の著者を信頼していた私は、「内観」というものをやってみようと思いました。
当時は家族をはじめ人間関係に苦しんでおり、この問題はもっと自分にカをつけ、余裕をもってあたらないと解消できないと決めつけていました。今考えれば、自分を上に置くことで相手を見下し、バカにすることで楽になろうとしていたのだと思います。
まず内観所に来て最初の感想は、「少し怪しい、最後は何か高額なものを買わされるのではないか。」というものです。やり始めても、ただ思い出を時おり回ってくる人に話すだけで、周囲の人が立てる音や外の様子も気になり、少しも集中できませんでした。
三日目になっても、何がよいのかさっぱりわかりません。食事の間に流れてくるカセットテープを聞いて身体的、心理的に分析し、「だいたいこんなもんか。」と見切りをつけ、「もう家に帰って自分でやるうか。」と思っていた時、『内観をより深くするために』という小冊子を研修所のほうからいただきました。
四日目の朝から、小冊子に書いてあったように「単純、簡単」に過去にあった事実だけを話すようにしたところ、まったく別な世界に入って行くような感じを覚えました。それまであった父や母、祖父母に対するわだかまりがすーと引いていき、素直な感謝の気持ちが湧いてくるのです。
最初は予想外の出来事に戸惑い、この感情をどう処理していいかわからず戸惑っていましたが、考えるのを止め、事実を細かく思い出すことを始めてから内観するのが楽しくなりました。思い出すことを指定されているからとはいえ、自分は周りの人にたくさんのことをしてもらっていることにはっきりと気づき、そのことをあたり前だと思い、物事を都合のいいように解釈し、一方的な思い込みで人を判断する自分は、何て身勝手でわがままな人間なんだろうと、深く思いました。
母が毎日食事をつくってくれたこと、掃除や洗濯をしてくれたこと、畑仕事や会社の事務をして働いてくれたこと、父が暑い日も寒い日も休まず仕事をしてくれたこと、魚取りやコマ回しなど遊びを教えてくれたこと、祖父が庭先を掃除してくれたこと、いつもテレビの見にくいところにすすんで座ってくれたおかげで、自分たちは見やすい場所に座れたこと、祖母が洗濯物をたたんでいる姿、お風呂を先に譲ってくれたこと、どれを思い出しても心の温まるものばかりでした。
西洋医学は精神的な悩みの解決方法として原因を徹底追究しようとします。そしてその原因は幼い頃の何か、主に家族関係になることが多く、そういうことになってしまうと今さらどうにもなりません。内観のいいところは、自分の欲求において自分の中に原因を求め、自分で問題を解決していけることだと思います。しかも、いつでも、どこでも、一人でできます。
私の場合すべての問題が解決するというわけにはいきませんでしたが、人間関係の悩みの多くを解消することができました。これからは自分と周りとがうまく噛み合った生活ができるよう、内観をうまく活用していきたいと思います。研修所のみなさん、大変お世話になりました。本当にありがとうございました。
世は常に燃えている。貪(むさぼ)りと怒りと愚かさの火に燃えている。この火の宅から、一刻も早く逃げ出さなければならな い。(法句経)
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