今回は、作本全真氏よりの投稿を掲載させていただきます。人間にとって避けられない問題について、しみじみと考えさせる内容です。
先日、西日本新聞を読んでいて、家庭欄《紅皿》の記事が眼に止まった。長崎県佐世保市の六十九歳の女性からの投稿記事【なぜ私を残して・・・】である。
『夢ではない。現実として受け止めるには、あまりにもつらすぎる。四十六年間連れ添った七十三歳の夫が、急性肺炎で黄泉の国へ旅立ってしまった。
「急変」と呼び出されること三回。三回目は霊安所だった。冷たくなった夫の耳元で「お父さんありがとうと言いたかったのに、別れの挨拶もなく、何故待っていてくれんやった」と叫んだ。
七人兄弟の末っ子で甘えて育った夫。人を疑うことも知らぬお人好しだった。四十六年間、決して順風満帆ではなかったが、いたわり合い助け合いの歳月であった。
あなたと所帯を持った時は、米一粒もなかったよね。二人で一生懸命働いたよね。人並みに家も建て、その家に二十三年間暮らし、私が障害者となり十六年、あなたは私の手となり足となり介助してくれた。
そのうちの二年は、心臓手術を受けた体で台所に立ち、食事を作ってくれたよね。今でもあなたが、スーパーの袋を提げて帰ってくるような気がしてなりません。今日もあなたの写真を見ながら、私を残してなんで死んだのよ、と大粒の涙がほおを流れます』と。
ところが、それから約一週間後の同じ家庭欄《紅皿》にこの記事を読んだという長崎県西有家町の七十九歳の女性からの投稿記事【運命】が載っていた。
『十五日付の紅皿【なぜ私を残して・・・】を読み、胸打たれた。老いて夫婦のどちらかが世を去れば、一人寂しい余生を送らねばならない。私の夫も昨年二月、寒さのまっただ中にあって、それでも懸命に芽吹こうとする木々たちの新しい命と入れ替わるかのように、永遠の眠りについた。
私は脳梗塞で八年近く、毎日毎日我が身をかえりみず、夫の介護に病院に通った。寝たきりで言葉も出ない。介護のつらさ悲しさに涙の出ない日は一日もなかった。
夜中の急変の知らせに病院に駆けつけた時、夫の息はなかった。夫の死後、私は気力をなくし、ただぼうぜんと日々を送ってきた。しかし、子どもたちや周りの方々に支えられ、間もなく一周忌を迎える。
周りを見ると、老老介護の果ての悲劇もあるが、皆それぞれにつらい運命という十字架を背負って生きていかねばならない。私も命ある限り、夫の菩提をとむらい、仏前の花を絶やさず墓を守っていこう。
寂しいときは夫の遺影に語りかける。生きている人に話すように。外出するときも「とうさん行ってくるよ」と』
たまたま眼にとまった二つの印象的な新聞の投稿記事を読みながら、誰もが決して避けて通れない『老いと死』という人生の重い課題(テーマ)を垣間見たような気がした。還暦を迎えた今、正直に言って自分には関係ないまだまだ先のことと考えていたが、 改めて考え直す機会を与えてもらったように思う。
そして、数年前に亡くなった俳人と教育者の最晩年の生き方が漠然と脳裏をかすめた。その俳人は妻の死後、家人の誰もが近づきがたいほど何かに憑かれたように鬼気迫る勢いで句作に没頭し、膨大な量の作品を残して他界した。
また、教育者の方は最愛の妻にも子供にも先立たれながら、たった一人の孤独に耐えて教育の原点を伝える使命感に燃え、老骨に鞭打って全国を講演行脚しながら、なおかつ膨大な著作を仕上げて、燃え尽きるように九十七歳の生涯を終えている。
人それぞれであり様々な生き方があってこそ人生である。しかし七十歳を過ぎる頃ともなると、誰もが人生の最終ゴールと言える『老いと死』の問題と否応なしに向き合わざるを得なくなるのではないか。
そして、生身の現実の場面ではいろいろと強がりを見せていたところで、実際に最愛の伴侶の死に直面した場合、むしろ、この記事の投稿者以上に落胆狼狽するであろう自分の姿を想像するにつけ、誠に平凡ではあるが、健康な肉体と命を与えられていることに日々感謝しながら、ごくささやかでも良い、いまのうちに自分ができる限りのことを、家族をはじめ周囲の身近かな人々に施していこう、そして悔いの残らないよう生きていこうと・・・。自分にいまできることはこれしかないなあと思っている昨今である。(終)
悲しみがあれば喜びがあり、喜びがあれば悲しみがある。悲しみも喜びも超え、善も悪も超え、はじめてとらわれがなくなる。
過ぎ去った日のことは悔いず、まだ来ない未来にはあこがれず、とりこし苦労をせず、現在を大切にふみしめてゆけば、身も心も健やかになる。
過去は追ってはならない。未来は待ってはならない。ただ、現在の一瞬だけを、強く生きねばならない。(法句経)
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