今回は、カリフォルニア大学医学部教授で強迫性障害治療の世界的権威であるジェフリー・M・シュウォーツ博士の書かれた『The Mind and The Brain』から、脳と心の関係について驚くべき事実を量子力学もまじえながら、2回にわけて紹介させていただきたいと思います。
a.一時期、大人の脳は変化しないというのが、学会の通説であった。しかし、現在、脳は日々の我々の行動によって、日々変化しており、子供ほどではないが、成人の脳でも変化、成長することが認識されるようになり、その仕組みや、それを応用した治療法が考えられる時代になっている。今回は、この脳の驚くべき可塑性について実例をあげながら、紹介していきます。
b.病気などで、6〜7才までの子供の脳半球切除手術を行うことがある。6〜7才までは脳の神経の進路は決まっていないので、残った脳半球が失われた半球を代替する。(大人では不可能な手術である。)このように子供の脳の柔軟性、即ち、可塑性は奇跡的なほどである。
c.赤ちゃんは世界中のすべての音を聞き分けることができる。日本人の子供でも、生後6ヶ月までは、英語のrとlを聞き分けられる。しかし、生後6〜12ヶ月の間に、よく聞く言語の音以外の音を聞き分ける能力は失われる。よく使う神経回路は強固になり、使われない神経回路は廃れていくのである。
d.脳の中の再割り当て 生まれつき聴覚障害のある人は、情報の入ってこない聴覚野を視覚情報の処理にあてる。また、目の見えない人は、脳の中で触覚をつかさどる分野が広くなる。また、事故で損傷を受けた左脳言語野を、右脳が肩代わりした実例もある。また、脳の中のプロの弦楽器奏者の左手の分野は、普通の人に比べて広くなっている。
e.胎児期から2〜3才までの赤ちゃんの脳は驚くべき発達を遂げる。シナプスの結合の数は、2〜3才でピークに達する。その後は、よく使われないシナプスは消えていき、よく使われるシナプスの結合だけが残る。諺にある「三つ子の魂、百まで」とは、よく言ったものである。
f.脳が育つためには、経験が大切である。子猫が臨界期と呼ばれる生後30日から40日の間に視覚的インプットを脳が受け取れないと、使われなかった目は永遠に見えるようにならない。脳の皮質の視覚機能の発達は視覚的インプットに左右され、生まれてすぐにインプットを奪われると皮質が変化する。この研究は、ノーベル生理学賞につながったほどである。
g.12才から16才までの子供の脳は、自制、判断、感情のコントロール、組織的な考え方や計画といった執行機能をつかさどるとされる前頭葉が目立った変化・発達をとげる。中学生頃が人間形成にとって一番大事であることは、脳神経学からみても言える。だから、中学時代をどの国で過ごしたかは、その人にかなり大きな影響を与えるとみられる。
h.大人の脳も固まっているのではなく、毎日の経験すなわち脳へのインプットにより変化しており、これを治療等に役立てることができる。成人の脳は、損傷した部分を修復する能力があるだけでなく、新しいニューロンも形成される。成人の脳ですら驚くほどの可能性を持っている。だから、老年になっても興味のある新しい事にチャレンジすることは、ボケ防止も含めて、いいことなのである。
i.切断された手を顔で感じる少年(幻肢)
自動車事故で左腕を肘から切断した少年がいた。よくあることだが、この少年も失くなった左手の感覚があった。その後の検査で、この少年の脳内の体性感覚野は再構成され、顔の部分の感覚野が失った左手の部分の感覚野に入り込んでいることがわかった。だから、左頬にさわると、左頬と左手の甲に触れられるように感じる。少年は失くなった左手がかゆく感じる時、どこをかけば痒みが止まるかが分かって喜んだそうです。
j.失語症の脳を書き換えるCD-ROM
失語症の多くは、視覚処理ではなく、音の処理の欠陥に起因する。言葉を継続的な音に分解できず、数千分の一秒で消える破裂音を判別するのに苦労するのである。失語症者は、間違ったインプットをもとに聴覚野を形成している。判別に苦労する音を人工的に引き伸ばす処理をした録音テープやCD-ROMを作り、何回も繰り返し繰り返し聞かせることによって、失語症が治っている。音の長さは最初長く、だんだん短くしていき、最後は通常のスピードになっている。機能的磁気共鳴装置(fMRI)の画像でも左前頭葉(変化の早い音を処理する部分)の変化が確認された。
k.脳に行動が足跡を残す
よく使われる神経回路どうしの結びつきは強固になる。そして、使用頻度を上げれば、利用できる皮質をめぐる競争が起こり、いちばん使用される機能がその部分を獲得する。失語症の治療や脳卒中の治療に使われている。
l.新しい技術を習得すると新しい脳ができる。
大脳皮質は感覚的インプットの減少あるいは増強に応じて、自らを再構成する能力を持つ。そして、大脳皮質の再構成に最も重要なのは、関心である。意識的な気付きは能の回路を変えるのである。
m.運動野は動きのイメージだけでも活性化する。つまり、実際の運動と同様に、想像上の運動も皮質レベルでシナプスを変化させる。イメージ・トレーニングや、手の焦点性失調症(指を個別に動かせない)の治療に応用されている。
n.以上より、脳は生涯、日々の行動、経験により修正が続いており、このことが、正常な行動と異常な行動の両方に関係するのである。(続く)
教えのしかれている世界では、人々の心が素直になる。この素直な心は、同時に深い心、道にかなう心、施す心、戒を守る心、忍ぶ心、励む心、静かな心、智慧の心、慈悲の心となり、また、方便をめぐらして、人々に道を得させる心ともなるから、ここに仏の国が立派にうち建てられる。(維摩経)
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