今回は、カリフォルニア大学医学部教授で強迫性障害治療の世界的権威であるジェフリー・M・シュウォーツ博士の書かれた『The Mind and The Brain』から、脳と心の関係について驚くべき事実を2回にわけて紹介させていただいています。
(A)強迫性障害(OCD)・・・望みもしない陰鬱な考えがしつこくつきまとい(強迫観念)、それが引き金になって儀式的な行動をせずにいられなくなる(強迫行為)、神経精神科の病気。
アメリカではおよそ40人に一人で、約600万人いる。大きな男女差はない。(例:トイレに行った後などに、冬など赤切れが出るくらい何十回も手を洗わないと不安で気がすまない。)
OCD患者は強迫行為をおこなっても少しも楽しくない。そこが、衝動的ギャンブルや衝動的ショッピングとは違う点である。
(B)OCD回路(別名:不安回路)・・・OCD患者の脳は前頭眼窩皮質や尾状核や帯状回全部の代謝活動が過剰に活発になっている。
神経回路の中の尾状核は思考と感情のギア・チェンジを受け持っている。OCD患者は、これが正常に働かず、不安増幅にギアがロックされているような状態(ブレイン・ロック・・・脳の回路に鍵がかかり、さび付いてうまく動かない状態))になっている。
(C)ニャナポニカ・セラ著『仏教の瞑想の真髄』・・・わきおこってくる想念に対して反応しないことが大事である。事実をあるがままにみつめ、退けるのでもなく、追求するのでもなく、想念に短い関心を向けたあとは、打ち捨てられる。
どんなに激しい強迫観念や衝動も、じつは脳の回路の不調の表れに過ぎないのだから、OCDの不快な症状に感情的に反応しない方が良いと患者に教える。
D)OCDの4段階療法(薬物に頼らない精神科療法)
1.ラベルの貼り替え・・・患者にこの不安な心は脳の間違ったメッセージで、脳のトランスミッションが混乱しているせいであることを認識してもらう。症状は脳の病的なプロセスの表れで、OCDの症状であり、本物ではないとラベルを貼り替える。
2.原因の見直し・・・PET画像(PET・・陽電子断層撮影装置)を見せ、脳の過剰に活動している部分が原因で、不安が消えないのだと説明する。この脱線したメッセージは脳の病気から生じており、本当の自分ではない。脳は脳で働いているが、あなたがそれに振り回される必要はない。間違った考えに取り付かれるのは、脳の代謝異常のせいで、OCDの症状は深い意味を探らなければならない重要な思考ではない。これにより患者は少しOCDから解放される。
3.関心の焦点の移動・・・異常回路のかわりに良い回路を使ってもらう。肉体的な活動が効果的である。例えば、庭に出る、刺繍、バスケットのシュート、庭仕事、コンピューター・ゲーム、料理、散歩など。OCDの症状が襲ってきたときには、これらに関心を移し、この新しい習慣が定着するまで、繰り返し繰り返し行う。
つまり、脳内に正常な活動をする新しい神経回路をつくるのである。そうすると、不安を異常に増幅する神経回路は廃れていく。意思と勇気を必要とし、時間がかかるが、患者が関心を移すと、脳も変化し始める。
(「15分ルール」・・・強迫行為をしたくなったら、少なくとも15分だけ我慢して「強迫行為」を遅らせてもらう方法もある。)
4.価値の見直し・・・さらに突っ込んだ形でのラベルの貼り替え。患者の意識的な気付きを強化する。
UCLAグループでは、患者の脳活動の変化をPET画像で調べたが、約10週間で症状がかなり改善した事が確かめられた。心理的治療により、脳内回路の異常反応(脳の回路の化学作用の欠陥)を治療で変えることができた。強力な向精神薬を使って治療した場合に見られるのと同じ変化だった。
(E)脳の可塑性
これらの治療法の成果は、大人の脳でも可塑性を実証付けるものである。脳の可塑性は、本人の心の向け方、つまり、関心に大きく左右される。関心のない事では、脳の物理的変化は起きにくい。意図と関心のある事柄だと脳は活性化し、新しい神経回路が形成されやすい。
トゥレット症候群(チック症状)やうつ病の治療にも同じような治療法が導入され、効果を上げている。
現在では、脳内神経回路の作用を行う科学物質の反応が、最先端の量子力学により、説明される時代になっている。
(F)意思が生まれる瞬間
脳波データの分析により、意思的な筋肉運動が起こる550ミリ秒前に「運動準備電位」と名付けられた陰性波が現れる。行動しようという決断が意識されるのは、運動の100ミリ秒から200ミリ秒前、即ち、運動準備電位が現れてから350ミリ秒後だった。
つまり、ニューロン電位の変化でみると、1.準備電位(無意識)、2.決断(意識)、3.行動の順番になっているのである。(意識、無意識、運動の順番ではないことに注意)
このデータは、自由意志は運動を起こそうとする始まりではなくて、運動をそのまま進行させるか、押し止めるかという働きをすることを示している。つまり、「しないという自由意志」により、我々は行動を選択しているのである。
(G)意識的な気付きは能の回路を変える
前頭葉が損なわれた場合を除き、卒中患者が課題に集中すればするほど、関心を向ければ向けるほど、機能の再編と回復が強まる傾向がある。
神経の可塑性の方向を決める力を持つものは心の状態(関心)なのである。関心を向ける行動と感覚のインプットがあいまって初めて変化を起こす。だから、心が脳を生み出すと言えるのである。(終)
教えを説く者は、忍耐の大地に住し、柔和であって荒々しくなく、すべては空であって、善悪のはからいを起こすべきものでもなく、また執着すべきものでもないと考え、ここに心のすわりを置いて、身の行いを柔らかにしなければならない。(法華経)
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