2004年11月17日第247号
幸福ニュース

【 「人口減少経済」ー縮む世界ー(2) 】

 今回も、松谷明彦著『「人口減少経済」の新しい公式』(日本経済新聞社)を皆様に紹介させていただきます。これから、日本は高齢化と人口減少が急速に進むわけですが、個々の生活や企業経営においても、従来とは全く違ってきます。今後の日本人にとって必読の著です。

    

『「人口減少経済」の新しい公式』
           ー「縮む世界」の発想とシステムー(その2)

17)まもなく人口が急速に減少し、日本経済は終戦時にも匹敵する環境変化に直面する。われわれ日本人は、再び経済に対する考え方と、その枠組みについての選択を迫られることになるだろう。

18)人口の高齢化は投資比率を引き下げ、これまでの投資主導の枠組みに大きな影響を与えることになる。総投資は2013年には早くも2000年の水準を下回り、2030年には2000年より、約20パーセントも縮小する。

19)消費は2013年がピークであり、その後は縮小する。日本経済は、戦後続いてきた投資主導ではなく、「消費主導の経済」に向かって変化を始める。その流れは、政策をもってしても、企業行動によっても変えられない。人口の高齢化による国民貯蓄率の低下によって、必然的に投資に上限が画されるからである。

20)産業構造の変化は必至であり、投資財産業は急速に衰退する。代わって、消費財産業やサービス産業が伸びてくる。また、人々の消費行動は多様化するので、そこにも注意する必要がある。

21)企業間の関係も変化する。投資財産業では、ピラミッド構造だったが、消費財産業やサービス産業主体の経済では、消費需要の多様化に加え、さほどの関連産業を必要としないので、独立した並列的関係となり、それぞれに利害が相反する局面も多くなるだろう。例えて言えば、江戸時代から戦国時代に逆戻りするようなものである。

22)人口減少経済では基本的には多角化が成功する確率は低い。遊休ないし非効率な設備の存在はこれからは命取りとなる。損失は年々急速に拡大するのであり、一刻も早い本業の大幅な縮小、ないしは廃業を検討すべきだろう。企業としての存続を図るのであれば、多角化ではなく、転業こそが正解である。十分な付加価値が得られなくなったら、廃業ないし、転業を目指すのが、人口減少経済における新しい経営ルールだと言える。

23)大都市圏(特に、関東、中京、関西)では今後急速に高齢者が増加し、高齢化問題は地方より、大都市圏を直撃することになるだろう。

24)人口の高齢化は地域間の賃金格差を縮小する方向に働き、それが地域間の人口移動の形態を変化させると考えられる。賃金格差が少なくなれば、若い人を中心とした大都市圏への人口集中は現在より弱くなる。それがまた、大都市圏の高齢化を促進することになり、労働生産性のさらなる低下を招き、人口集中傾向もいっそう弱まるだろう。

25)三大都市圏の経済規模は、ほぼ確実に日本経済全体の縮小率以上に縮小する。そのほか縮小率の大きな地域としては、北海道、秋田県、茨城県、栃木県、富山県、石川県、静岡県、奈良県などが予想される。一方、滋賀県、鹿児島県、沖縄県では、地域の経済規模は拡大し、鳥取県、島根県、福岡県、熊本県でも現在と同程度の経済規模が維持される可能性が高い。

26)人口減少社会では今までとは逆に、労働力のあるところに企業が移動するという面が強まると考えられる。消費需要の拡大と多様化、そして地域的な労働力構造の変化がその要因である。それは地方地域の所得水準を向上させ、市場としての魅力を高めるだろう。産業分布は分散化するから、地方での就業機会は増加する。

27)一人当たり県民所得は地方で上昇し、大都市で低下する。大都市圏の住民の平均的生活水準は現在より低下し、地方地域の生活水準は向上する。地方が今までより豊かになり、都市との生活水準格差は縮小する。日本の至るところに豊かな生活が味わえるだけの経済的基盤が生まれる。人口減少社会とは、全体として日本人を今より幸せにしてくれるのではないだろうか。

28)公共事業は今後大幅に縮小し、また大都市圏の税収の大幅な減収によって補助金も縮小せざるを得ないだろう。公共事業の拡大は日本経済をいっそう縮小させる。総投資は急速に縮小する。従って、総投資を構成する、設備投資、住宅投資、公共投資、そして純輸出には、その合計に対して厳しく上限が画される。それ故、それらの投資に貯蓄をどのように分配するのが日本にとって最適なのかという、今までの日本経済では経験したことのない課題に直面することになる。

29)設備投資は生産力を向上させるが、公共投資は基本的には生産力とは無関係である。公共事業が拡大した結果、民間設備投資が縮小する現象を経済学では「クラウディング・アウト」という。民間設備投資の縮小は日本経済全体を縮小させる。だから、人口減少社会では、政府は公共事業の規模を決定する時、その結果として日本経済がどうなるかを説明する義務がある。今後の30年間で公共事業を現在の約半分に縮小しなければ、日本経済は予測値よりもさらに縮小してしまう。

30)公共事業による社会資本の更新費や維持改良費は年々急速に増加しており、2023年には更新費や維持改良費だけで100パーセントを越し、新規の公共事業は不可能になってしまうという予測値もある。

31)経済が縮小しても、対応次第だが企業経営は悪化しない。また、個人の所得水準も低下しない。経済の縮小に対しては、企業や個人のレベルにおいて十分対応が可能である。しかし、年金と公共事業だけは、早期の抜本的政策対応がなければ悪化の一途をたどり、近い将来確実に崩壊する。人口減少高齢社会が豊かな社会となるかどうかは、年金を含めた社会扶助と公共事業という社会システムがいかに再構築されるかにかかっている。

32)税収の減少により、既存の社会資本を再点検し、住民にすべての情報と財源を開示したうえで、地域住民にどの社会資本を残すのか、どの政策や工事を優先するのかの選択を行ってもらう必要がある。今までのように何でも整備するという大盤振る舞いはもはや不可能であり、人口減少社会で公共事業を今までのように行うと、日本経済はさらに縮小するのである。

33)今後の社会資本整備計画は、住民や地方自治体側から作られる必要がある。また、基本的には税財源も地方に移譲される必要がある。税財源との整合性のない計画は無意味であり、地域住民の増税か社会資本かの選択によって、社会資本整備のより一層の厳格化が図られるであろう。また、地域住民も自己責任を負うことになる。

34)人口減少高齢化により税収もまた縮小する。しかし、財政支出も教育費などのように減少するものも多い。財政支出の長期的拡大は人口減少社会では不可能であり、支出削減にもっと努力すべきである。増税は日本経済をさらに縮小させるだけである。

35)どう考えても600兆円にのぼる現在の債務を返済することは現実的でない。そこで、現在発行されている国債・地方債のそれぞれの償還期間が到来したところで、それを永久公債に切り替え、利子のみ払っていくようにするのがよいと考える。ただこの場合は、新規の発行を厳格に禁止することと、永久公債の市場を育成する必要がある。

36)人口減少経済においては財政による景気拡大効果は期待できないと考えたほうがよい。何故なら、企業が財政支出の拡大に誘発されて設備投資を行うのは、先行き需要は必ず拡大すると考える場合である。今後の企業にとっては、継続的に縮小する需要のもとで、いかにして自己の生産設備を縮小するかが経営の基本となる。財政支出が一時的に拡大したところで、人口減少による需要の継続的な縮小という事実は変わらないのだから、誘発投資はまず起きないだろう。筆者は、人口減少社会では均衡財政が望ましい財政の姿だと考える。

37)人々の生活の観点からすれば、重要なのは日本経済全体の規模ではなくて、国民一人当たりの経済規模である。日本の先行きを心配するのであれば、人口減少によって国力がどうなるかではなくて、日本という社会の豊かさがどうなるのかを心配すべきであろう。

38)実質国民所得のピークは2013年で、2030年においても2000年に比べて少ししか下がらず、ほぼ横ばいであると予測される。30年後においても一人当たりの国民所得から見る限りは、国民生活の豊かさは安泰だと言える。人口減少高齢化により、付加価値率の向上や設備投資の縮小によって、労働分配率は上昇する可能性が高い。戦後、経済規模の拡大を目指した官民の行動が、GDP世界第2位の経済大国のわりには貧しい国民生活を作り出したのであるが、今後はそういう行動がとれなくなるだけでも進歩であり、人口減少経済は日本人の生活を豊かにするだろう。(続く)

【坂村真民詩集】

《 一切無常 》

散ってゆくから

美しいのだ

毀れるから

愛しいのだ

別れるから

深まるのだ

一切無常

それゆえにこそ

すべてが生きてくるのだ

【仏語集】

たまたま他人に施しをする時は、すべてを捨てて貪(むさぼ)る心をなくそうと思い、集いの中にある時には、諸仏の集いに入ろうと思い、災難にあった時には、どんなことにも動揺しない心を得ようと願わなければならない。(華厳経)

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