今回は、大前研一著の『考える技術』(講談社)を皆様に紹介いたします。いままでの常識が通用しなくなった新しい時代で、多くの日本人に欠けている思考力をどう養うか。実績ある著者の長年のコンサルタント業務で鍛えられた思考力のノウハウが述べられています。価値ある、推奨の一冊です。
(A)実践的思考力
1)1985年Windowsバージョン1.0が登場してから、今までにない大きな変化が始まり、世界は新しい時代に入り、新しい経済が始まった。思考力により極めて大きな格差が生まれる「思考力格差」の時代にはいったといえる。過去のビジネスモデルが通用しなくなり、過去の成功体験ほどアテにならないものはない時代となった。
2)考えるとは、常に質問をし、答えを一生懸命に見つけるということである。問題解決に至るまでには、仮説、検証、実験を無限に繰り返さねばならない。
3)結論を出す前に必ず現場で実証することが重要である。本当の原因を探るフィールドインタビュー(現場調査)は、問題解決だけでなく、あらゆる論理的指向の基になる大切なものだ。フィールドインタビューの注意点は、外部の人間が行う事である。現場の声を聞くときに社内組織を使うと、間違ったデータになる恐れが強い。
4)徹底的に考える。ほとんどの人は仮説を立てた段階でそれを結論だと思い込んでしまうが、本当の勝負はそこからだ。問題解決能力とは、仮説を裏付けていくために労を惜しまない行動力であり、それが絶対に正しいと結論づけられるまで徹底的に考える思考力であるとも言えるだろう。
5)仮説を証拠で裏付け、結論を導き出すうえで最も大切なのは、「その問題の原因は何か」を明確にすることである。現象はあくまでも現象に過ぎず、原因ではない。この当たり前のことを明確に認識できないで、深く本質的に考えず、表面だけ見て騒ぐ人が日本人には多い。
6)仮説と結論を混同しない。重要なのは、「仮説」ではなく、「結論」を導き出すことである。いかなる問題にも解決策は必ずある。大切なのは「さまざまな現象の中で本当の原因は何か」を考えることである。最悪なのは、すべての現象を個別に改善しようと考えてしまうことである。
7)問題解決のための思考トレーニング法・・・「自分が2階級上のポジションにいたらどうするか。」を考える。「最大の問題点は何か。自分だったらどうやってその問題を解決するか。」を徹底的に考えてみる。(毎日の努力の差が大きな力の差となって現れる)
(B)人を納得させるための論理構成法
1)説得力とは、相手の心理までも勘案した論理構成の力であり、その論理構成を生み出す思考回路の組み立て方こそが、提言のノウハウなのである。その提言を相手が受け入れ実行してくれれば成功、受け入れなければ失敗である。
2)提言は一つが鉄則である。提言がいくつもあると経営者は実行に二の足を踏んでしまうが、「社長、とにかくこの一つだけをやってください」と言われれば、気持ちが動きやすい。「社長に対して1分間しか時間がなかったら、あなたは何をやるか」を徹底的に考えてみる。
3)事実に裏付けられた提言には抵抗できない。結果は測れるもので測る。コンサルティングを依頼してきた社長には、真っ先に「何がやりたいんですか」と聞くことにしていた。それを聞いた上で、目的を一本に絞ってもらう。さまざまな問題であってもその多くは現象にすぎず、原因は一つであることがほとんどだ。まず最も重要で根本的な問題を解決することが、結局は問題解決のベストウエイなのである。
4)また、私はあらかじめ相手に「何か一つを実現するとしたら、これがやりたい」というものを聞いておく。これは、その後の提言に極めて大きな意味を持つ。なぜなら、結果的に相手がいちばん嫌がっている意思決定をさせなければならないこともあるからである。
(C)プレゼンテーションの必要十分条件
1)必要条件「こうしなければいけない」と、十分条件「こうすればよくなる」は違うものだが、提言を相手に納得させるためには、この両者が揃っていなければならない。また、感情の問題を解決するためには、プレゼンテーションの後でみんなで飲みに行き、愚痴を聞いたりするのも大切である。特定の人が悪者になる場合もあるので、その人たちに対しては事前の根回しや後のフォローも必要である。
2)実行段階では、「やる気」が大事である。成果を出す為にはヒューマンな部分も重視する必要がある。
3)まず最初に全体の結論を述べる。ポイントは簡潔な分析と簡潔な言葉を用いて、1ページごとに、そのページ内における結論を出していくことである。
4)相手の心を動かすポイント
「言いたい順序」ではなく、「相手が納得する順序」で述べる。10時間語れることを45分間にまとめてプレゼンテーションを行う。
5)よくあるケース・・・見つけた問題点の逆さまが提言になるケースが多い。問題を羅列した所で、それらはしょせん現象にすぎない。現象の逆さまは解決策ではない。本当は原因を見つけ、それに対する解決策が必要。
6)道路公団問題は、始めに「民営化」という答を設定したのが間違いだった。「借金まみれとなった道路公団の問題をどのように解決したらよいのか」と諮問したら、各種の解決策が提案され、より最適な決着となっただろう。
(D)本質を見抜く
1)新聞やテレビの報道を簡単に信じては危険である。特に「5W1H」がない時はよく注意しなければならない。(When,Where,Who,What,Why,How)
2)立場よりも事実に対して忠実になれ。本当は顧客のことを第一に考えなければいけないのに、社内の憎悪によって経営が歪められてしまうことがある。正しい事実に対して忠実になり、その事実を素直に認める。でなければ、物事の本質を見抜くことはできない。たとえ、自分の感情がどうあれ、出てきた事実に対しては謙虚になる。それが問題解決のための絶対の前提条件である。
3)問題解決に必要なのは、本当の事実を捜し、でてきた事実を認めた上で、「正しいことは何か、なすべきことは何か」を考えることである。事実に対しては忠実になる、これが問題解決の大原則である。
4)日本企業の中でもトヨタのように世界のトップで戦っている会社は、常にトップが新たなチャレンジを掲げ、社員たちは皆「自分たちがひとつでもサボったら、明日にもつぶれるかもしれない」という危機感を共有している。日本一の収益を誇る会社が、ほかの会社よりもむしろ危機感を持ってやっているのである。逆に、つぶれる会社は危機感がなく、「組合が・・・」などと言っていることがよくある。
5)「自己否定」が優良企業の条件である。「自己否定する勇気」といってもよい。自己否定によって、常にベストを求めて変革する力が働くのであり、ここが競争力を失った会社との大きな違いなのである。世界の優良企業に共通して言えることは、異質性をどんどん取り込んで、それを企業カルチャーの中に上手に前向きに取り入れていることである。(続く)
人々は、すべて善悪にかかわるすべてのことを信じない。ただ、誤った考えだけを持ち、道も知らず、善も知らず、心が暗くて、吉凶禍福が次々に起こってくる道理を知らず、ただ、眼前に起こることだけについて泣き悲しむ。(無量寿経)
*あなたも メールマガジン「幸福ニュース」を購読しませんか。費用は、無料です。 下記に登録するだけで、E-MAILで毎月3回自動配信されます。 メールマガジン登録 メールマガジン解除
|
|