今回は、角川書店より刊行された、羽生善治著の『決断力』の一部を紹介させていただきます。将棋界随一の実力者の勝負にかける情熱が伝わってきます。
将棋を指すうえでの一番の決め手は「決断力」である。勝負の土壇場では、精神力が勝敗を分ける。
勝負所では、ごちゃごちゃ考えるな。単純に簡単に考えろ。決断する時は、たとえ危険でも、単純で簡単な方法を選ぶ。
勝負では、自分から危険なところに踏み込む勇気が必要である。
指し手が見えない時やこちらが不利な場面では、意図的に複雑な場面を作り出して、相手に手を渡し、相手のミスを誘う時もある。
勝負では、「これでよし」と消極的な姿勢になることが一番怖い。守ろう、守ろうとすると後ろ向きになる。スクラップ・アンド・ビルド(破壊と創造)が必要である。
勝負には周りからの信用が大切だ。期待の風が後押ししてくれる。
一時間で二千手読めるプロの棋士でも十手先の局面を想定することはできない。一つの局面で八十手ある可能性の中から大部分を捨て、残りの二〜三手に絞り込んで、先まで読んでいく。
データや前例に頼ると、自分の力で必死に閃こうとしなくなる。直感の七割は正しい。 将棋にかぎらず、ぎりぎりの勝負で力を発揮できる決め手は、大局観と感性のバランスだ。
常識を疑うことから、新しい考え方やアイデアが生まれる。先入観を持っていると新しい考えは出ない。
最善の戦略は、大局観と事前の研究から生まれる。対局前の事前研究が三〜四割を占め、重要である。
深い集中力は、スキンダイビングで深く海に潜るステップと同じように得られる。深く集中した状態では、雑念や邪念が一切消え去り、深い、森閑とした世界に身を置いた感覚である。周りを見ているが見ていなかったり、見えないものが見えたりする。時間の観念もなくなり、短時間に多くの手が読め、「これだ」という最終決断も早い。そういう時は、集中力の持続も長い。
人間はどんなに訓練をつんでもミスは避けられない。ミスには面白い法則がある。例えば、最初に相手がミスをする。そして次に自分がミスをする。ミスとミスで帳消しになるのではなく、あとからしたミスの方が罪が重く、被害も大きい。
一局の中で、前のミスのことを考えるのは良くない。反省は勝負が終わってからでよい。すでに過ぎ去ったことはしかたがない、実戦中は振り返らないことが大切だ。今、目の前の一手が大事であり、私は意識的に先を考えるようにしている。
プロの将棋は、一手の差が逆転できる想定の範囲内である。マラソンで先頭の選手の背中が見えていれば逆転の気力を維持できるように、気力のしぼまないポジションをキープして逆転のチャンスを待つのである。ただ、損を一気に取り戻そうとすると、うまくいかないことが多い。徐々に差をつめることが大切である。
感情のコントロールができることが、実力につながる。形勢が不利になっても顔にださない。勝負の結果を翌日に引きずらないことが大事である。私は対局が終わったら、その日の内に勝因、敗因の結論を出す。そして、翌日には真っ白な状態でいたいと思っている。
私は、年齢にかかわらず、常にその時その時でベストを尽くせる、そういう環境に身を置いている。それが自分の人生を豊かにする最大のポイントだと思っている。
パソコンで勉強したからといって、将棋は強くならない。情報を集めるのには便利で、予備データとしては使えても、ここから先はこんな手があるとは教えてくれない。情報を処理、判断して、いかに新しいアイデアを出せるかが勝負になっている。
情報は選ぶより、「いかに捨てる」かが重要である。私はパソコンで知った情報は、「その形にどれぐらいの深さがあるか」で研究するか、しないかを決める。
コンピューターの発達により、将棋の世界もここ20年くらいで大きく変わった。情報や棋譜を集めて分析・研究するという体系的、学術的なアプローチ方法に変わったのである。日々研究しないと消極的になり、最先端の将棋を避けると、勝負から逃げることになってしまう。
情報化の時代なので、安全と思われる道も研究され、あっという間に使えなくなってしまうことがよく起こる。昔のように新手一生ではなくなった。創意工夫の中からこそ、現状打破の道は見えてくる。
将棋は駒を通しての対話である。相手の意図を考えることが自分のヒントになる。土壇場になって時間がないときなどには、人間の本質のようなものが出たりする。
私の勉強法・・・(1)アイデアを思い浮かべる(2)それがうまくいくか細かく調べる(3)実戦で実行する(4)検証、反省する、の4つのプロセスを繰り返すことである。近道思考で手に入れたものはメッキがはげやすい。
スポーツ観戦の七割は趣味だが、三割は将棋に役立つ部分が結構ある。盤上だけでなく、番外戦術も必要で、将棋は人間の総合力の勝負である。
私は、日常生活では、将棋から離れ、自然体を保つことを心がけている。水分の補給と、気分転換にプールに行って泳ぐ。頭の中をクリアにして、新鮮な気持ちを取り戻すようにしている。いかに将棋から離れるかが大事なのだ。
コンピューターの強さは、人間の強さとは異質なものだ。現在、市販の将棋ソフトの強さはアマチュア三段位のレベルと言われているが、人間とは違い、あるところはプロ級で、あるところでは初心者というアンバランスな強さである。コンピューターは攻守が複雑な中盤では弱い。最後の詰め将棋のような選択肢が絞られる場面では、すごい強さを発揮する。
才能とは同じ情熱、気力、モチベーションを持続することである。将棋の場合は特にそうだが、どの世界でも、教える行為に対して、教えられる側の依存度が高くなってしまうと問題だ。自分で考える力が大切である。
このようにして教えを聞き、教えを信じ、他人をうらやまず、他人の言葉に迷うことなく、自分のするしないについて省みることが肝心であり、他人のするしないを心にかけてはならない。何よりも自分の心を修めることが大切なのである。(大般涅槃経)
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